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30 絵本

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 薄暗く陰気で静まり返った館内。そんな図書館の姿は、もはや過去のモノ。
 昨今の図書館は開かれた場所。窓は大きく館内には優しい陽光が降り注ぎ、明るい照明の館内には、児童書や絵本なども充実しており、小さな子ども連れのお母さんが気軽に立ち寄れる。ちょっとぐらい騒いだって、誰も目くじらを立てない。
 ここはそういう図書館。受験生とか、静寂を好む大人が通うところは、別にちゃんとある。

 明るい館内にて、絵本を眺めていたのは、二人の小学生の女の子。
 キャラメル色のくせっ毛と、八重歯がチャームポイントのミヨちゃん。彼女は基本的に少女マンガメインの読書生活。そのうち恋愛小説には挑戦したいと考えている。
 色白の黒髪、見た目はお人形さんのようにかわいいのに、異様に無口なヒニクちゃん。
 ちなみにこれはあだ名。ときおり毒を吐くので、本名のコヒニクミコをもじって、気がついたらこう呼ばれるようになっていた。当人がまるで平気なせいか、すっかり愛称として定着している、少しだけ変わった子。そんな彼女は図書館の常連。かなりの読書量を誇るが、このことを知るのはごく身近な人間のみ。

「やっぱりプリンセスは、女の子のあこがれだよねえ」

 苦労している女の子が、ステキな王子さまに見染められて、超玉の輿になる物語ばかりが、テーブルの上に積まれてある。

「でもプリンセスになったら、なったでたいへんみたい」

 地位には当然のごとく義務やもろもろがついて来る。
 一般から王族に嫁いだら、それはもう聞くも涙、語るも涙の忍耐物語が、死ぬまで延々と続く。現実世界でもごく稀に起こっている歴史はあるが、実態はかなり悲惨な結末を迎えることが多い。嫉妬、羨望、誹謗中傷、ありとあらゆる苦難と悪意に晒され、心と体を追い詰められる。
 その手の特番をテレビで見たというミヨちゃん。
 さっきまでのユメみる乙女の表情が、一転して鬼の形相になっており、あまりの迫力にびくりとするヒニクちゃん。

「このおひめさまは、ちゃんとしあわせになれたのかなぁ」

 ガラスの靴で世界一有名なプリンセスの絵本を眺めながら、つぶやくミヨちゃん。横顔にどこか憂いを帯びている。優しい彼女は、どうやらすっかり感情移入をしてしまったようだ。
 それを見ていたヒニクちゃんが、おもむろに口を開く。

「無理」

 女一人を探すのに、国をあげて大騒ぎする王子さま。
 息子が見つけてきた女を、ホイホイと受け入れる王族。
 そう遠くない未来に、革命の嵐が吹き荒れちゃうと思うの。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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