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24 形見分け
しおりを挟む日曜日の昼下がり、公園の砂場にて。
せっせとトンネルの開通工事に勤しんでいる二人の女の子。
服の裾が汚れることもおかまいなしに、豪快に穴に腕を突っ込んでは、砂をかきだしていたのはミヨちゃん。
性格の良さが災いして、なにかと級友たちからは雑事を押しつけられ、クラスでもお人好しで通っている小学二年生。いつかは少女マンガに登場するようなステキな男子と出会いたいと夢見る女の子。
反対側から砂山を慎重に掘り進めているのはヒニクちゃん。
クラスでも無愛想で通っているのだが、ここぞという時に、あまりにも辛辣な毒を吐くので、級友たちのみならず、先生たちからも密かにビクビクされている。確信をつく言葉は、ときに大人のタフな心でも容赦なく粉砕してしまうこともあるのだ。そんな彼女は、いつかは商店街のガラガラくじにて、一等のハワイ旅行を当てたいと夢見ている。
二人の共同作業も終盤に差し掛かり、そろそろ開通かというときになって、ミヨちゃんがふと思い出して口にしたのは、お母さんの友達のこと。
「こんどこそ、しあわせになってほしいなぁ」
ミヨちゃんがしみじみと、こうもらしたのには理由がある。
そのお母さんの友達という女性は未亡人。結婚してわずか二年で夫が病で他界してしまったのだ。それ以来、籍を抜くでもなく、ずっと夫の姓を名乗っていたというのだから、故人への想いの強さがうかがえるというもの。
だが残された彼女はまだ若い。ゆえに新たな人生を歩んで欲しい、と願う夫側の両親ら。しかしその言葉に彼女がうなづくことはない。
いささか頑なでさえあった。そんな女の心を解きほぐしたのは、死んだ夫の親友の男性。夫の死後、なにくれとなく彼女を支え寄り添い続けたのが縁で、ついに二人が一緒になることが決まったらしい。
ここまでくるのに五年もかかったんだとか。
「とっても、いちず。きっと前からスキだったんだね」
お相手の男性について、そんな感想をこぼすミヨちゃん。
その拍子に見事にトンネルが開通。二人の指先がつながり、穴を通して互いの顔が見えた。
すると長らく閉じられていたヒニクちゃんの口が開く。
「これが本当の形見わけ」
それは遺品を親しい人なんかに分け与えること。
一番大切なモノを一番信用がおける相手に渡せて、故人もきっと安心。
でもモノによっては税金がかかるのは、ちょっと世知辛いと思うの。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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