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22 老人と杖

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 人間の生活パターンというのは、わりと規則正しく、活動範囲も限られる。
 ましてや小学校に通っている子どもならば、登下校の時間が決まっているのでなおさら。
 そんなわけでいつも通りに、いつもの通学路を、仲良しの友達と並んで帰っていた二人の女の子。
 キャラメル色のくせっ毛のはしがピコンとはねている子はミヨちゃん。
 性格の良さが災いして、なにかと級友たちからは雑事を押しつけられ、クラスでもお人好しで通っている。
 そんな心優しい女の子が、ハラハラしながら見守っていたのは、横断歩道を渡っている松葉杖のおじいさん。ひょこひょこと歩く姿がどうにも危なっかしい。当人もたいへんなのだろうが、周囲で見ている方もドキドキさせられる。
 なんとか信号の色が変わる前に、無事に渡り終えて、ミヨちゃんもひと安心。

「アレって、見た目よりも、ずっと使い方がムズかしいんだよねぇ」とミヨちゃん。

 素直な性質と無垢な笑顔にて「お年寄りキラー」の異名を持つ彼女。その周辺のご年配率はかなりお高め。よって病人、怪我人の比率もお高め。年寄りのくり言につき合っているせいか、小学二年生にしてはなかなかの事情通。
 そんな彼女の隣にて、じぃーと松葉杖の老人を見ていたのはヒニクちゃん。ちなみにこれはあだ名。本名はコヒニクミコという。いろいろあって、この愛称に落ち着いているが、詳細は割愛。

「むかしは木だったから、むちゃくちゃおもかったって。まえにコメさんが言ってたよ」

 松葉杖も今と昔では素材や形状がまるで違う。木製からカーボン製になったので、ずいぶんと軽くなった。扱うのがたいへんなのは同じだが、それでもかなり楽になっている。
 なおミヨちゃんの話に登場したコメさんとは、三丁目にて古くから米屋を営んでいる家のご隠居さん。跡目を継いだ息子さんは、なんちゃらマイスターとかを名乗っており、商売はそれなり安定しているそう。

 さて、怪我というのは治るまでに時間がかかる。ましてや高齢ともなると、治りはかなり遅い。当然のごとく、ミヨちゃんとヒニクちゃんの二人がこの松葉杖の老人を見かける機会も多くなる。
 毎日、見かけては心配しているお人好しなミヨちゃん。ヒニクちゃんは黙って見ているだけ、むしろ視線は普段よりも冷やや、とくにコメントなし。
 そんなことが一ヶ月ほども続いただろうか。
 ついに老人が松葉杖なしで歩いている姿を目撃する二人。

「よかったー。あのおじいちゃん、足のケガがなおったんだー」

 元気になった姿を見て喜ぶミヨちゃん。とってもいい子。
 だけど、そこでおもむろにヒニクちゃんが口を開く。

「違う。たぶん示談成立」

 松葉杖を使う手が、ときどき逆。
 あれは素人。玄人は子どもなんぞにバレるへまはしない。
 本当の悪党は、一切のボロを出さないと思うの。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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