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20 カレー
しおりを挟む本日の給食のメニューはカレー。
家には家の、お店にはお店の、そして給食には給食の味があり、食べる場所や作る人で味がゴロっとかわり、野菜が苦手という子どもでもペロリと食べちゃう、ふしぎな食べ物。
この小学校では給食室にて、陽気なオバちゃんらが丹精込めて作った品が提供されているので、とくに美味いと評判。
噂を聞きつけて他校から視察にくるほどに、生徒たちからも愛されている。
「お店のはちょっとニガテかなあ。味がキツイんだよねえ」
「わたしはお母さんのがスキ。お肉がトロトロなの」
「うちは弟がヤサイをイヤがるから、ミキサーで混ぜちゃうだ。食べやすいんだけど、さらさらで食べた気がしないんだよねえ」
「たべるときに生たまごを入れるかどうかで、お父さんとお母さんが毎回もめてる」
六人の班ごとに机を寄せて給食を食べながら、カレー談義に盛り上がる教室の一角。
ミヨちゃんとヒニクちゃんも、そこに混じっている。
「うちは大きな具がごろごろ。お兄ちゃんたちがよく食べるから、腹をふくらますためにそうしているって、お母さんが言ってた」
ミヨちゃんが会話に加わる。
話しに登場したように、彼女のところには歳の離れた大学生の長兄と高校生の次兄がいる。
クラスの女子たちからは「優しいお兄ちゃんがいて、いいなぁ」と羨ましがられており、ちょっと自慢なミヨちゃん。
そんな和やかな中にあって、黙々と給食を食べているヒニクちゃん。
同じ班の女の子たちは誰も食事中の彼女に無理に話しかけない。極端なまでに無口な性質のヒニクちゃん。食べ物を口に含んでいる状態は、いかなる名軍師にも破ることの適わない最強の城壁にも等しい。ゆえに会話は振るが返事は期待しないという、暗黙のルールがまかり通っている。
傍目には、ちょっと異様なこの光景。
すわイジメか! 担任のヨーコ先生も初見時には慌てたが、いまとなってはそれも懐かしい。それぐらいにはヒニクちゃんの扱い方が、クラスに浸透しつつある今日この頃。
「カレーっていえば、この前のテレビみた?」
班の一人が話題にしたのは、近頃、人気の料理番組。
とってもハンサムな料理人が、ゲストとトークを交えながら、スマートに料理を提供する内容。ちょいちょい家でも出来るプロのコツなんぞを披露している。
仕草のひとつひとつがセクシーだと話題沸騰中の料理人。
イケメンに胸をときめかすのに年齢は関係ない。小学二年生の女子らが、きゃぴきゃぴはしゃいでいる。
するとおもむろにヒニクちゃんが口を開く。
めったに開かれることがないからこそ、ついついその言葉に聞き入ってしまうもの。意図せずして教室中のみなが、彼女の発言に注目することとなる。
「料理人は無口にかぎる。ツバは隠し味にならない」
その点、うちの給食のオバさんたちは大丈夫。
おしゃべりだけど、ちゃんとマスクをしてるし、衛生にとっても厳格。
本当のプロって、こういう人たちだと思うの。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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