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06 天国と地獄

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 ジリジリと照りつける太陽。これに負けじとセミが気勢をあげる。
 夏、まっ盛り。避暑を求めてたどり着いたのは、町内にある小さな神社。
 神主の類はおらず無人にて、何を祀っているのかもよくわからないが、古くからあるそうで、境内は有志たちの手により手入れが行き届いている。
 周囲が背の高い樹木に囲まれているせいか、ここだけ気温が一段と低く、夏場には子どもたちの格好の遊び場となっている。

 お社の縁側に腰かけ、仲良くチューペットを分けて食べているのは、二人の小学生の女の子。
 キャラメル色のくせっ毛の端がピコンとはねているのが、性格の良さが災いして、なにかと級友たちからは雑事を押しつけられ、クラスでもお人好しで通っているミヨちゃん。

「やっぱり夏は、チューペットのグレープ味だね」

 ミヨちゃんの言葉にコクンとうなずき、同意したのはヒニクちゃん。
 自他共に認める無愛想ぶりにて、極端に口数が少ない女の子。ちなみにこれは愛称で本名ではない。

「そういえば、このまえの紙芝居、こわくなかった? わたしはダメ。あの日は、お母さんのベッドにもぐりこんだよ」

 話題にしたのは、このまえの図書館でのイベントのこと。
 近所の図書館では、定期的に子ども向けの朗読会や紙芝居なんかを行っている。
 いまどき紙芝居? と思われがちだが、コレが意外と受けている。一周回って新しいと評判も上々。そのせいか担当の職員も気合が入り、毎回、熱演しているというわけ。
 彼女たちもちょくちょくお邪魔をしていたのだが、先週の演目が何故か「地獄」のお話を扱ったものであった。
 赤を基調とした、やたらと毒々しい絵柄。ウソツキは舌を抜かれるとか、鬼にイジメられるとか、とにかくスプラッターでショッキングなシーンが続く。
 幼子らにトラウマを植えつけるのが目的なのかと疑いたくなるほど、係のおっさんの怪演が合わさり、会場内は異様な雰囲気に包まれた。
 ガクブルと震える子らが多数。「こんなのへっちゃらだい」と強がっていた男の子が、漏らしてピーピー泣き出すほど。

「それにしても、天国とか地ごくって、本当にあるのかなあ?」

 誰もが一度は思い浮かべる疑問を口にするミヨちゃん。
 しばし考え込むヒニクちゃん。口先にて空となったチューペットが、べこべこ鳴っている。その音がピタリと止んだところで、おもむろに彼女が口を開く。

「ミヨちゃん、ちょっと自分の頬をつねってみて」

 素直なミヨちゃんは言われた通りにやってみる。
 頬をつねれば、当然、いたい。
 だから「イタイ」と言ったら、今度は「じゃあ、その手を放してみて」と言われ、これに従う。すると当然ながら、いたみが消える。

「いたかったのが地獄。いたみがなくなったのが天国」とヒニクちゃん。
 これにはミヨちゃんも「えー」

 天国があるから地獄を知るのか。地獄があるから天国を知るのか。
 この世に生きることは痛みなのか。
 でもチューペットを分かち合える相手がいるのは、幸せだと思うの。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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