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05 距離の概算
しおりを挟む地元でも有名な公園がある。
水鳥が渡ってくるキレイな池があり、遊歩道があり、適度に遊具があり、フェンスに囲まれたボール遊びができるスペースもある。設備的にかなり充実した広い公園。
夕方近くになると、とたんに連れだった男女が増えることから、通称カップル公園と呼ばれている。
下校時にそんな場所を通りかかったのは、二人の小学生の女の子。
性格の良さが災いして、なにかと級友たちからは雑事を押しつけられ、クラスでもお人好しで通っているミヨちゃん。今日は用事があるという子のかわりに、掃除当番を引き受けていた。
そんな友達につきあって、掃除を手伝っていたのが、クラスでも無愛想で通っているのだが、ここぞという時に、あまりにも辛辣な毒を吐くので、級友たちのみならず、先生たちからも密かに恐れられているヒニクちゃん。
彼女は無反応で無口なだけで、べつにつきあいは悪くない。
すっかり帰りが遅くなったせいで、空は茜色。陽射しはかなり傾いている。
これは掃除がはかどらずに、手間どったせい。
阿呆な男子どもがふざけて騒ぎ、注意をした女子たちとの間に紛争が勃発。
この年頃は、とかく男女にわかれてモメやすい。
あいだに挟まれてオロオロするミヨちゃん。それらを尻目に、雑巾片手に黙々と窓をふくヒニクちゃん。彼女はわりとこういう作業が好き。
なんとも混沌とした状況にて、いっこうに進まぬ掃除。
様子を見にきた担任のヨーコ先生に、みんなそろって叱られるまで騒動が続く。
三十路手前の女教師は、わりと沸点が低い。ふだんはほんわかした雰囲気で、時間があると一緒に遊んでくれるので、生徒たちから人気のある先生なのだが、怒るときにはしっかり怒る。
おかげでこんな時間になってしまった。
「そういえば、ここってカップルに人気がある公園なんだって。知ってた?」
ミヨちゃんの言葉に、黙って首を横に振ってみせるヒニクちゃん。
「ちょっとふしぎ、なんで人気なんだろう。おっきなスベリ台とかあって楽しいけど。さすがにカップルでは遊ばないよねぇ……。ブランコとかシーソーなら、やってるのを前に見たことあるけど。そいうえば、あのときはいっしょにいたタカ兄が『リア充爆ぜろ』とか言ってた」
ミヨちゃんの言葉の中に出てきたタカ兄とは、彼女の次兄のこと。
現在、高校生の思春期真っ盛り。ちなみにヤマダ家は二男一女につき、あともう一人、大学生の兄がいる。なお二人の兄は、年の離れた末の妹を猫可愛がりしている。
カップル公園のことを聞いて、しばらくキョロキョロとしていたヒニクちゃん。おもむろに口を開いた。
「たぶん人気の秘密は、コレとコレの場所」
ヒニクちゃんが指し示したのは、外灯とベンチ。
治安の関係なのか、わりと多めに設置されてある照明。おかげで夜間でも真っ暗になるようなことはない。ベンチに関してはお年寄りが休めるようにとの、行政の優しさ。
二つの思いやりが重なって、絶妙な薄暗さが誕生。おかげでムード満点。
でも、それがカップルたちに人気の理由と言われ、コテンと首を傾げるミヨちゃん。その拍子にキャラメル色のくせっ毛がピコンとはねた。
あまりにも見えすぎるとダメ。
あまりにも見えないのもダメ。
カップルとはそういうもの。大事なのは二人の距離感だと思うの。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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