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01 支配体制
しおりを挟む土手沿いの道を、老夫婦が手をつないで歩いている。
夫の左手にはふくれた買い物袋があり、もう一方には妻の手が収まっている。
まるで一本の糸のように横につながった男女。
その姿を見かけたのは、下校途中の小学生の二人の女の子。
「いくつになってもラブラブって、とってもステキ」
つぶやいたのは、キャラメル色のくせっ毛の先をピコンと跳ねさせた、ショートヘアの女の子。性格の良さが災いして、なにかと級友たちからは雑事を押しつけられ、クラスでもお人好しで通っている、ミヨちゃん、小学二年生。
そんな彼女と並んで一緒に下校をしていたのは、ヒニクちゃん。
さすがにこれはあだ名。本名をコヒニクミコという。
肩口で揃えられた黒髪。整った目鼻立ちをしており、色白で華奢な外見。どこかお人形を連想させる小学二年生。口数が極端に少なく、クラスでも無愛想で通っているのだが、ここぞという時に、あまりにも辛辣な毒を吐くので、級友たちのみならず、先生たちからも密かに恐れられている。
それゆえに周囲からは本名をもじって「ヒニクちゃん」と呼ばれて久しいが、いまではすっかり愛称として定着しており、当人もまるで気にしていない。
ミヨちゃんとヒニクちゃんはとっても仲良し。
二人の出会いは幼稚園にまで遡る。
いささか衝撃的な出会いをしたせいか、ミヨちゃんはヒニクちゃんにぞっこんなのであるが、その話はまた別の機会にて。
彼女たちの前を歩く老夫婦。
夫は一流商社に勤めていたが、五年ほど前に定年を迎えて退社。
妻は華道教室で生徒たちを指導していたが、夫の退社を機に教室を閉じる。
子宝にこそ恵まれなかったものの、そのことが夫婦の間に暗い影を落とすこともなく、かえってお互いを労わり支えあう理想的な関係となる。ご近所でも評判のオシドリ夫婦。
などと、いささか込み入った話をするミヨちゃん。
幼いながらに街の事情通な彼女。
実は「お年寄りキラー」の異名を持つ。
ニパッと笑うとのぞく八重歯。その小悪魔な笑みにて、数多の年配者たちを虜にしてきた天然の魔性の幼女。おかげでちょっとだけませたところがある。
「あの二人って、近所でも有名なの。ほんとうにナカがいいんだって」とミヨちゃん。
だがヒニクちゃんは無言のまま、顔は能面のようで反応がない。
しかしそれはいつものこと。なにせこの二人の場合、九対一の割合にてしゃべるのはミヨちゃん。傍目には片方が一方的に語りかけているように見える。さながら腹話術師が人形に話しかけているような構図だが、これが彼女たちの日常。
「いつも二人で手をつないで歩いているんだよ。ウチなんてレイゾウコの開けしめなんかでケンカするのに」
理想の夫婦像から、ついには自分の両親への愚痴にまで話題を広げるミヨちゃん。
そこでおもむろに、ヒニクちゃんが長らく閉じていた口を開く。
「服従による支配」
人は愛によって結ばれるのではない。
忍耐によってのみ結ばれるのである。愛で地球は救えない。
救えるとしたら、それは誰かの我慢によってのみだと思うの。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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