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202 第五の災厄
しおりを挟む冒険者で構成された強襲降下部隊が続々丘へと。
それらを見下ろしつつ、ハンドサインにてタイミングを合わせ、俺たち三人は一斉に落下傘を開いた。
早すぎては風に流され着地点がズレる。
遅いと勢いを抑えきれずに地面へ叩きつけられる。
風が味方をしてくれたおかげで降下は順調。
じょじょに地表が近づいてくる。
滑り気味に地面へとブーツのカカトがつくなり、俺は落下傘を切り離した。とたんにカラダが大地に引き寄せられる。このチカラを前転による受け身で逃がす。
やや乱暴な着地。
すぐさま立ち上がると、近くにて同様の着地を決めたキリクとジーンの無事な姿があった。
降り立った冒険者たちが、丘を駆け上がり門を目指す。
先頭をひた走るのは、第一等級パーティー「暁」からの選抜メンバーたち。
このパーティーは一流どころ三十数名で構成された大所帯にて、依頼内容に応じてチーム編成を組み換える柔軟性を信条としている。どうやら今回は特に活きのいいのを取りそろえたようだ。
これにわずかに遅れて追随する連中も、有名どころのパーティーばかり。
四十手前のロートルの足では、ついていくのは少々キツイ。
だから俺たちパーティー「オジキ」が、やや遅れて後塵を拝することになってもしようがない。
走っていると、東方面より爆発音が聞こえ、かすかに足下が揺れた。
視線を向けると、激しい火柱が天を焦がしている。
グリペン号の特攻が決まったのだ。おそらくは船長も船と命運を共にしたのだろう。
俺はギリッと奥歯を強くかみ締める。この分では各方面でも次々と犠牲が出ているはずだ。散っていった生命をムダにしないためにも、未来に可能性を繋ぐためにも、なんとしても門を閉じなければならない。
決意も新たに、俺は大地を踏みしめる足にいっそうのチカラを込めた。
◇
門の威容が明確となる距離にまで近づいたときのこと。
先頭集団に異変が生じる。
何もない空間がキラリと光り、直後に血煙があがった。
多数の冒険者らがバタバタ倒れる。
倒れた者たちのカラダには、ざっくりと切り傷が発生しており、首が半ばより切断されて絶命している者や、手足を失っている者まで。
正体不明の敵からの襲撃!
「散開しろっ、固まるな。まとめて刈られるぞ」
誰かが叫ぶ。
みなその声にすぐさま反応。
前方にてナゾの敵との戦闘が始まるのと同時に、後続は左右に分かれて迂回を開始。
俺たちは右の集団に紛れて門を目指す。
しかしその途上にて、またもや悲鳴があがる。
居合わせた面々の注意がそちらへと集まる中、俺は視界左隅にキラリとした何かを見た。地面すれすれを滑空するかのようにして迫るそれは、優れた剣士のふるう剣の切っ先のよう。
こちらの膝下あたりを目掛けて走る光。
俺はとっさに腰から片手剣を抜き、地面へと突き立てる。
直後に「ギイィィン!」
鳴ったのは、激しい剣戟音。
奏でたのは俺の片手剣と薄い半月状のツバサを持つトリのような存在。
全身が研ぎ澄まされた刃のようにて、鏡のようにピカピカゆえに周囲を映し込み、己が姿を見えづらくしていたのだ。
これがナゾの敵の正体。おそらくは第五の災厄。
ひらけた場所にて自在に空を飛ぶ難敵。迂闊に触れれば肉を切り骨をも断つ。
存在を認識し、よくよく目を凝らしてみると、そんな物騒なモノが周辺一帯に数多ひらり。
ざっと数えただけでも五十近い群れ。
少なからず動揺を受ける冒険者たち。
だというのにおっさん三人組は、わりと落ち着いていた。
「何やら既視感が……」
「わらわらとうっとうしい。害虫どもを思い出す」
「レアンヘレスで遭遇したアレか」
俺ことフィレオ、キリク、ジーンの三名。
かつて嘆きの湖と呼ばれる旧レアンヘレスの王都跡地にて、この国が辿った滅びの歴史を追体験するという怪異に遭遇。
その際に殺り合った黒赤マダラなる凶悪なモンスターの最終形態が、飢えちぎった小人型の羽虫の群れ。数の暴力は脅威にて、あれは本当に難儀した。
あの時は地下の下水道を利用することで、どうにか対処できたが、今回はひらけた丘の上。
敵の機動力が十二分に発揮される環境は、少々こちらに分が悪い。
「基本は前回と同じでいいだろう。群れならば全体の動きを統率している個体がいるはずだ。そいつを見つけて叩けば、あとはどうとでもなる」
ジーンの意見はもっともながら、ここで問題が一つ。
それは敵の姿が見えづらいということ。ただでさえビュンビュン飛び回って正体を特定しにくいというのに、その中からリーダー格を見つけ出すのは、かなり困難と思われる。
が、ジーンは「わたしに考えがある」と自信満々の様子であった。
◇
空へと両腕をかざしたジーン。
魔導士の右手、五指にはめられた指輪が親指の方から順に砕けていく。
詠唱短縮による魔法の発動。
発生したのは盛大な水柱。
天へと向かって噴き出す大量の水が、飛沫となって一帯に降り注ぎ、陽光を受けて淡い虹が姿を見せた。
水は上から下へと落ちる。それが自然の摂理。
雫が落ちるのを遮るのは、天地の狭間にて武器を手に雄々しく立つ冒険者たちと、飛来する第五の災厄の群れ。
半月のツバサに水滴が降り注ぎ、そして跳ねる。
宙を飛ぶがゆえに、それは不自然極まりない挙動にて、これまで埋没するかのようにして隠れていた景色から、存在が浮き彫りとなることに。
俺とキリクは魔法を発動させているジーンを挟み守り、周囲を警戒。わずかな変化に注意を払いつつ、敵の所在を見極める。
前方斜め上空より、こちらへと接近する個体を発見した俺は、盾でこれをいなし、敵を頭から地面へと突っ込ませて自爆を誘うことに成功。
後方を守っていたキリクは、両端に石を結んだ組み紐を迫る敵へと向かって投げつける。これに絡めとられた相手は制御を失い墜落する。
俺たちの戦い方を見ていた周囲のパーティーたちも、倣うことで戦局はこちらの優勢へと傾く。
門を巡る攻防。
このまま押し切れるかと思われたが、唐突に空に響いたのは「ピロロロロ」という、なんとも気の抜けたトリの鳴き声。
が、見上げた先にいたのは、牧歌的な声からは想像もつかないような異形。
絶望のツバサがはためく。
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