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160 特攻
しおりを挟む両手両足を広げ自身を帆に見立て、風を受けるように空を飛んでいた黒装束。
これを即席の落下傘に風魔法の推進力を搭載したシロモノにて追いかけるパーティー「オジキ」の面々。
目標の会議室が迫りつつあったところで、黒装束が広げていた手足を閉じる。
とたんに加速、矢のように会議室の窓へと突っ込んでいく。
それを後方上空から見ていた俺たち。
キリクが叫んだ。「ジーン! 全速全開っ!」
ジーンの残りの指輪がすべて砕け散る。詠唱短縮にて放たれた竜巻が、夜空を切り裂く。
グンッと俺たちも急加速。いっきに距離を縮めて猛追。飛竜が地上の獲物を襲うがごとく迫る。
「フィレオ! 手を放せ」
黒装束との距離が間近となったところで、落下傘を放せと命じるキリク。
「マジかっ、どうなっても知らねえぞ!」
俺は言われるままに掴んでいた紐を手放す。解き放たれた大布がバサリ、夜の空へと羽ばたく。
同時に風の抵抗が完全に失せて、俺たち三人は更に加速。
ここにきてようやく背後の異変に気がついた黒装束。首をひねってちらりと後方を確認。錆色の瞳をカッと見開くも、すでに遅い!
黒装束が会議室の窓ガラスを突き破る寸前、俺たちはまんまと奇襲に成功。
体当たりをぶちかまし、強烈な一撃を見舞う。
無防備な背中にて三人のおっさんの全体重を受け止める形になった錆びた色の瞳をした男。顔面から窓に激突。衝撃にて砕け散る厚めのガラス。
勢いのままに敵味方が団子となって建物内へと転がり込む。
◇
いきなりの乱入者たちの登場に騒然となる会議室。
あわてふためき右往左往する人々。怒号と悲鳴が飛び交う。
だというのに喧騒がどこか遠い。衝撃で頭がくらくらしている。
俺は歯を食いしばりどうにか立ち上がりこそはしたものの、気を抜いたらすぐに意識が飛んでしまいそうだ。
カラダのあちこちから血が流れているのは、割れたガラスで切ったせい。
首をふり強引に意識の覚醒を促す。
しだいにぼやけていた視界が戻ってくるも、耳の奥がキーンとしたまま。耳鳴りがひどい。音がうまく拾えない。
そんな状態ながらも懸命に周囲を探る。求めるのは仲間たちの姿。
足下近くではキリクが仰向けにのびており、すこし離れたところにてうずくまっているジーンを発見。ゲホゲホと苦しそうにしているが、とりあえず無事なようなのでひと安心。
だがホッとしたのも束の間。俺はヤツの姿が見えないことに気がつき慄然となる。
あわててキョロキョロと探すも見当たらない。
逃げたかと考えドアの方に顔を向けるも、扉は閉じられたまま。ヤツはいったいどこへ……。
そのタイミングで勢いよく会議室の扉が開く。
雪崩込んできたのは商連合本部の警護の者たち。
一団を率いていたのは南国風の大柄な美熟女。茶色のざんばら髪を揺らすジーンの母親であり、クレセントアックスを担いでいる姿が勇ましいエライザ・ライオット。
彼女らの登場によって、安心したのか混乱していた現場がやや落ち着きを取り戻した。
室内の空気が弛緩したのを俺も肌で感じる。
しかしこれこそがヤツが狙っていた時間。誰もが油断し気が緩む瞬間。
倒れていた机の陰からそろりと動き出した黒装束。覆面の隙間からのぞく錆びた色の瞳がまっすぐに見据えるのは、部屋の隅にいた小太りの老人。おそらくはアレが暗殺対象であるボーラー・ドラド氏。
いち早く気がついた俺は、させじと進路上に立ち塞がる。
愛用の片手剣は人間落下傘となった際に、軽量化のために泣く泣くダンジョンへと置いてきた。あるのはこの身ひとつ。だから今回は俺が人間盾と化す。
◇
顔面に強い衝撃を受けてガクリと膝を折りそうになるも、俺は冒険者の意地でこらえた。
まずは一つ。
あいかわらず聴覚が戻っていない。音が遠い世界が続いている。
怒りに燃える錆色の瞳がやや赤味がかっていた。
でもそれは勘違い。流れ出る血のせいだと気づき俺はにやり。
いかに超人じみた身体能力の持ち主とて、さっきの三位一体の体当たりはそこそこ効いたようでなにより。
俺のそんな態度がヤツの怒りに火を注ぐ。
まばたきする間もなく叩き込まれた拳打の数は八。速く、重く、鋭い拳。筋肉の合間を的確に打ち抜き、気合や根性なんかでは防ぎようのないダメージを着実に俺の中に刻み込む。肺にあった空気が無理やり押し出され、思わずくの字に折れ曲がりそうになるカラダを俺は無理やり矯正。
これで九つ。
なおも立ち塞がり続けるこちらにイラ立つ錆びた色の瞳の男。
ここで上段蹴りを放つ。俺はとっさに腕をあげて防ぐも衝撃によりカラダごと吹き飛ばされ、ついに床に臥す。
合計で十。
時間にすればほんの僅かに過ぎない。けれども警護の連中が動き出すには充分すぎるだろう。事実、異変に気づいたエライザたちが駆け出すのを視界の隅に捉えて、俺はほくそ笑む。
それでも少し心もとないかと、遠ざかる意識にてぼんやり案じていたら、いつの間にやら再起動していたキリクとジーンが、ヤツの両足にしがみついていた。
だいのおっさん二人に足を抑えられて、まごついている暗殺者。
ジーンが何かを叫んでいるが、あいにくと俺の耳には聞こえない。
ただそれを合図にしてエライザが動く。彼女の巨大な片刃がついたクレセントアックスが振り抜かれるのが見えた。
音は聞こえないのに「ブツリ」という剣呑な震動が空気を通じて確かに伝わる。
ややかすむ視界越しに、そんな光景を眺めつつ俺はしみじみ思わずにはいられない。
「おいおい。俺は挨拶代りに、あんなのでぶん殴られていたのか? もしかして盾で防ぐのに失敗していたら、俺もああなっていたのかよ。勘弁してくれ」と。
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