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130 時の牢獄
しおりを挟むタラリアが宙石と命名した黄色い立方体。
それを前にして俺たち四人は今後の方針を協議する。
「あれから日数が経っているし、もしかした巨兵が活動を停止しているかも」
あくまで可能性にすぎないがとの前置きにて、俺は言った。
「隠し通路については、調べてみないとなんとも言えねえ。こっちに来るときにはワナにばかり注意していたからな」
この宙石を守るためなのだろうが、トラップだらけであった通路。
もしかしたら見落としがあったかもとキリクは考え込む。
「運よく巨兵どもが動きを止めていたとしても、問題はあの白い扉だ。なにか丈夫な棒でもあればいいのだが」
白い扉は上下の開閉式。とても重量があり、人力だけで持ち上げるのは至難。
入る際には俺の剣を犠牲にしてテコの原理でどうにかしたが。
パーティー「オジキ」の面々がそろって、どうしたものやらと考えていたら「はい」と手をあげたのはタラリア女史。
「じつは、ちょっと確かめたいことがあるんだけど」
タラリア女史は台座へ近づくと、しゃがみ込む。
「この宙石はあくまで浮遊島を支える動力源のひとつで、同じモノが島内各地に点在していると仮定すると、それらを統括しているモノがあるはずなの。でもって、それらは何らかの形で繋がっていると考えられるのよねえ」
説明しながらタラリアはコンコンと台座の表面を叩く。
すると内部に空洞があるような音が響いた。
彼女の言わんとしていることを真っ先に察したのはジーン。
「なるほど! だとすれば少なくとも道はまだ続いているということかっ」
言うなりジーンもタラリアといっしょになって台座を入念に調べ始める。
俺とキリクも促されて参加。その結果、台座の表面をひっぺがすと、中から地の底へと伸びている管がお目見え。どうにか俺でも通り抜けられそうな隙間もある。
「へー、この管を伝ってボスのところに通じているというわけか。どれ、ちょっと見てくる」
キリクが内部に入り、するすると管を伝って降りていき、あっという間に闇へ消えた。
だがすぐに闇の向こうから声がする。
「問題ない。降りた先は直線になっている。ちょっと天井は低いが、これならどうにか行けそうだ」
報告を受けて、すぐに俺たちもあとに続く。
なお宙石はこのまま手つかずにて残しておくことにタラリアが決めた。
ダンジョンコア同様にひと欠片でも持ち帰れば、とんでもない成果になるのだろうが、これを危険だと女学者は断じる。
ジーンもまた「表面に細かい文字だか模様が精密に刻まれてあり、たぶんこれが制御式なのだろう。下手に傷つけるとどうなるかわからない。記録はとった。あまり欲張らないほうがいい」との意見。
ならば手を出さないのが賢明というもの。欲張りな冒険者は長生きしない。
俺は彼らの言葉に素直に従うことにした。
◇
台座から地下へと伸びた管の長さから、どうやら降りた先は中間層に位置しているらしい。
キリクの報告通りにて、少し降りたらすぐに直線へとかわっていた。
タイマツに火をつけ先頭を歩くキリク。俺たちは管に沿う格好にて、低い天井に気をつけつつ、やや前かがみとなりながら黙々と進む。
なんらかのチカラが流れているのか、管がほんのり温かい。窮屈な以外はワナもなく、極めて快適。だがそのせいでやたらと眠い。
連日の地下探索にて溜まった疲労も重なってか、瞼が重い。堪えるのに難儀する。
耳に届くのは自分たちの足音と息づかいだけ。
あくびを噛み殺し、眠気と戦いながらの単調な歩みがしばし続く。
冒険者にとって退屈こそが最大の敵だと、改めて思い知りつつ、俺たちは暗闇の奥を目指す。
◇
俺はクンと鼻先を動かす。
風の流れを感じた。
眠気はすぐに消し飛ぶ。
キリクやジーン、タラリアも同様なのだろう。一同の周囲に満ちていた弛緩が霧散し、ピリピリした緊張が肌を包む。
やがてキリクがタイマツの火を落とした。一歩ごとに薄ぼんやりと明るさを増していく視界。もはや照らす灯りは不要。
管に沿って行きついた先は、とてつもない広さを持つ大空間。
数百、いや、もっとあるのかもしれない。
膨大な数の管が方々から伸びており向かうのは大空間の中心部。
そこに燦然と太陽のごとく存在していたのは宙石。
ただし、先に見たモノとは比べものにならない大きさの立方体が、宙に浮かんでいた。
あまりの巨大さ、まばゆさ、神々しさに俺たちは呆然と立ち尽くす。
「すごい」
誰の口からも、そんな月並みな言葉しか出てこない。
輝きに魅入られたかのように、ふらふらとタラリアが近づこうとする。俺たちもまた同様であった。
だがその足はほどなくして止まった。
歩くほどに空気が重くなる。体の自由を奪われ、動きが緩慢となり、ついには一歩も進めなくなってしまった。まるで透明な何かにはまり込んでしまったかのように、微動だにできなくなる。
正気に戻ったときには、すでに手遅れであった。
「くっ、これは……」
どうにかしようともがくも、俺は声を出すので精いっぱい。
「魔力の影響だ。あの巨大な宙石を中心にして、ありえないほどの高密度な空間が形成されている。世界が歪み、おそらく時間の流れをも影響を受けているんだ」ジーンは言った。「我々は現在、とてつもないチカラの奔流に飲み込まれてしまっている」
「なんだよ、ソレは? オレらは時の牢獄にでも囚われたってのかよ」とはキリク。
やや気取った表現にて半ば冗談のつもりであったのだろうが、これをタラリアがあっさり肯定。
「あらあら、困ったわ。老いることも飢えることもないけど、ずっとこのままなのかしらん」
じきに思考も影響を受け、言葉も満足に発せられなくなる可能性が高いとまでタラリア女史に言われて、俺たちは真っ青になる。
どうしようもない。
それでも諦めないのが冒険者。オレがもぞもぞと悪あがきを続けていると、不意に胸元がカッと熱くなった。
灼熱の焼きゴテを押しあてられたかのような感覚。
これには覚えがある。かつて海魔の術中にはまり同士討ちをさせられた際に、すんでのところで踏みとどまらせてくれたモノ。紅いドラゴンのウロコが発する現象。
首から下げている小袋内のウロコが暴れ、紅い閃光が衣服や革鎧を透過して出現。
真っ直ぐに向かうのは、中央にある巨大な黄色い宙石。
キリクの腰のポーチや、ジーンの懐からも同様の閃光が伸びていた。
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