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120 とある女記者の手記その一
しおりを挟む「特集記事がボツってどういうことですかっ! よく書けているって編集長も褒めてくれたじゃないですか!」
「ぎゃんぎゃん喚くな、クリス。だれもボツにするとは言っていない。いまは掲載できないと言っているんだ」
「何なんですか、それ? 納得いきませんよ。ちゃんと理由を説明して下さい」
怒りのあまり私は机をバンバン叩いての猛抗議。
しかしいくら問い詰めても、編集長からは「上からのお達しなんだ。こらえてくれ」との一点張り。
編集長の頑なな態度からして、直属の上司である広報部長どころか、そのはるか上からの指示らしいということだけはなんとなく察する。
かなり粘ったものの、結局、結果が覆ることはなかった。
ふくれっ面のまま自分の机に戻り、どっかとイスに腰を落とすと、私は原稿の束を前にして深いため息をついた。
「はぁ。……なんとなくこんなことになるんじゃないかとは思ってたんだけどねぇ」
ある程度の覚悟はしていたとはいえ、記事がボツになるというのは、けっこう堪える。
それが綿密な取材の上で仕上げた渾身の記事であれば、なおさら。
だがいつまでもへこたれているほど、私はやわじゃない。
パシンと自身の頬を打ち、決意を新たにする。
「私は諦めないわよ。これからも彼らを追い続けて、いずれは必ずモノにしてやるんだから!」
◇
十五日ごとに発行される冒険者ギルドの会報誌。
編集部の末席にいた私ことクリスの仕事は、おもに雑用係。
記者を夢見て就職、念願かなって編集部に配属されたものの現実は厳しかった。若輩の小娘に重要な仕事が任されるわけもなく、こき使われるばかりの日々が続く。
あまりの不毛ぶりにて「もう辞めて故郷に帰ろうかな」と、わりと真剣に考え始めていた。
そんな状況が一変したのは、唐突に大幅な人事異動が起こったため。
当時の編集長以下、古株や中堅の記者多数が僻地に左遷されたり、配置換えや降格処分となったり、クビになったり。半分近い面子がごっそり入れ替わる。
なんでも多額の賄賂を受け取っては、特定のパーティーを優遇。情報の歪曲と捏造があんまりにも目に余った末の処置だったらしいのだが、醜聞ゆえに詳しい事情までは下っ端の自分のところにまでは流れてこなかった。
編集部から淀みが一掃されて、風通しが良くなったところで、私もようやく記者として働けるようになる。
とはいっても、これは人手が足りなくて遊ばせておく人員の余裕なんてなかったからだけど……。
しばらくバタバタしていた編集部内の雰囲気がようやく落ち着きを取り戻した頃。
記者という仕事にもほどよく慣れた私は、とある冒険者パーティーについて注目する。
はじめはそのヘンテコなパーティー名に目を惹かれたのがきっかけ。
中堅どころの男性三人組。小規模ながら、結成してからわずかな期間のうちに、三等級にまで這い上がってきた。
いくら経験豊富とはいえ、メンバー全員が三十半ばという年齢を考えれば、これはものすごい快挙。まさしく中年の星。派手さはないけれども、いぶし銀のごとき輝きを放つ彼ら。私は記者として強い興味を覚える。
だから編集会議にて彼らについての特集記事の企画を提案。
編集長も「辺境の名もなき英雄たちの活躍にスポットを当てるのか……、面白い。いいぞ、やってみろ、クリス」とノリ気に。
出来次第では長期連載も視野に入れるとまで言われては、俄然気合が入るというもの。
許可をもらった私は、さっそく彼らがホームを構えている辺境都市トワイエへと向かった。
◇
辺境都市トワイエは、各地のダンジョンや狩り場に出かけるのにちょうどいい位置にあって、物流拠点のみならず冒険者の街としても有名。
現地へと渡った私がまず足を向けたのはギルド支部。
ではなくて、取材対象の周辺及び関係者のところ。
じつはこの地へと赴く前に、王都グランシャリオのギルド本部にて下調べをしていたのだが、どうにも要領を得なかったのである。
とくに彼らの実績についての詳細が。
いちおう資料はそろっているものの、記述がおざなりにて画一的。まるで意図してボカしているかのよう。
彼らには何かがある……。
私の記者としての勘がピコンと反応。
事前にトワイエのギルド支部には取材協力を取り付けてあるが、この分ではあまり当てにしないほうがいい。体よくあしらわれる可能性が高い。
だから今回、私はまず周辺から固めていく取材方法を選んだ。
フィレオ、ジーン、キリク、三名がパーティー「オジキ」を結成。
直後の等級は第六等級。
新規結成ならば第十等級からの再出発となるのだが、個々の実力が第三等級に相当していることと過去の実績から、トワイエのギルド支部長ダグザの権限にてこうなったという。
まぁ、この判断の是非についてはなんとも言えないが、私個人の見解としてはもう少し上でもよかったような気がしなくもない。ダグザという人物は存外厳格なのであろうか。
等級が定まったところでパーティー「オジキ」は、アトラク商会の会長ラグメンツから指名依頼を受けて、スウェラー家が治める西部最大の都市ラタバードへと赴く。
輸送任務だったというが、途中、タクの街にて防衛戦に参加。目覚ましい活躍をする。
それを経て無事に目的地へと到着、依頼を達成。
ここまではわりと簡単に調べがついた。でも問題はここから先。
パッカード家の長女カオリの護衛依頼を受けて、鉄道にて高級リゾート地であるシナイへと向かったというが、以降の情報が急にあやふやとなる。
どうやら鉄道車両にて何やら不祥事に巻き込まれたらしいのだが、詳細は不明。どうにか掘り下げようと試みるも、水も漏らさぬほどの情報統制が敷かれており、断念。
なにせ鉄道事業を仕切っているのは王族と国。下手につつくとロクなことにならないと判断し、身の危険を感じた私は追求を諦めることにした。
この護衛依頼完了後にパーティー「オジキ」は第五等級へと昇格している。
トワイエに帰還してからは、しばらく地元で依頼をいくつかこなし、その過程で得た希少な魔石をギルド本部主催のオークションに出品。
これが金貨百二十という、当日の最高額を叩き出し、参加者ら全員の度肝を抜き、彼らの名を一躍世に知らしめることになる。
だが私が気になったのは、そんな大金をポンと出した落札者の方。
調べてみれば、なんと! 第一等級冒険者アトラだというから驚きだ。
パーティーを組まず、単独にて数多の討伐依頼をこなし、またたく間に最上位にまで駆け上がった生ける伝説、剣の才媛。あまりの強さゆえに国預かりとなっている「紅風」の異名を持つ女性。
一介の記者にすぎない私では取材に応じてもらえないだろうけれども、ダメ元で問い合わせの手紙を出してみたら、ぶ厚い束にて返事がきたのには驚いた。三十三枚つづりの手紙なんて私は人生で初めて見たよ。
そこに延々と語られてあったのはパーティー「オジキ」のリーダーをしているフィレオとの馴れ初め、彼に対する熱い想い、読んでいるこちらが赤面ものの乙女の妄想爆発な未来予想図などなど……。挙句に最後の方にはフィレオの名前がひたすら書き殴られており、紙面をびっちり埋め尽くしていた。
あまりの病的な内容に、私は「ひぃ」と小さな悲鳴をあげ手紙を投げ出したほど。
どうやら紅風はまじでヤバい人のようだ。なにせ「取材するのはかまわないが、ちょっかいを出したら殺す」って赤文字で追伸があったし。
やれやれ、心配せずとも私にそんなつもりは毛頭ない。
なぜなら取材対象との距離を誤れば、冷静な仕事が出来なくなるから。
あくまで記者としての本分をまっとうする。
それが私の望みなのである。
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