冒険野郎ども。

月芝

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098 夜刀

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 やや緑がかった淡い光。
 通路内の壁や床に用いられた石材に含まれる結晶の粒が発光したモノ。
 思いのほかに視界は良好。地上よりもこちらのほうがよほど明るいぐらいだ。
 真っ直ぐに伸びた地下道にて、長方形に加工された石で組み上げられた景色が続く。あまりにも変化に乏しいので、うっかり立ち止まると進むべき方向を見失いそう。
 なので俺は前方だけを見つめて、ひたすら足を動かす。
 この通路の先にあるのは「供物の間」と呼ばれる広い石室。
 どうして俺が単独でそんな場所へと向かっているのかというと、ぶっちゃけ状況に流されたからだ。
 いにしえの時代から常闇の国を支配する夜刀と呼ばれる二柱。
 島に安寧をもたらす対価として、陽の光を奪い、ときおり女の生贄を所望する。
 契約にしばられた島民たちは、外へと逃げ出すことも適わない。ただ粛々と従い、女たちは怯えて暮らすのみ。
 そして今回は、まだ年端もいかぬ少女が選ばれた。
 あまりにムゴイと嘆き悲しむ女たちを前にして、気づいたときには「ここは冒険者である自分に任せてくれないか」と口にしていた。

「我ながらどうかしている。なぜあんなことを言い出したんだろう」

 歩きながら俺は自問自答。
 世話になった恩義がある。同情もおおいにした。なんとかしてやりたいと思ったのも事実だ。
 だが、冷静に考えると、これは無謀以外の何物でもない行為。
 パーティーの仲間たちとはぐれて一人きりの現状。
 対するは二千年にも渡って島を支配してきたような存在にて、得体がまったく知れない相手。
 よしんば討伐するにしたって情報も準備も足りなさすぎる。
 キリクやジーンたちと新パーティーを結成してから、以前よりもやや活動的になっている自覚はある。だからとて駆け出しの若い連中じゃああるまいし、経験を積んだ冒険者のやることではない。

「やはり何かがヘンだな。なんていうか……、俺らしくない。少なくとも三十路半ばの冒険者がとる行動ではない」

 考えれば考えるほどに、己の中で違和感が膨れ上がっていく。
 なのに肝心なところに差しかかると、とたんに思考がボヤけて霧散する。届きそうで届かない。
 言い知れぬもどかしさにて思わず足が止まりそうになった、その時。
 視界の先にて出口が見え、意識がすべてそちらへともっていかれた。

  ◇

 地下通路の先に待ち受けていたのは、巨大な四つの三角形を張り合わせたかのような大空間。
 中央には傾いだ巨大な首。三つの顔を持つ女の頭部にて、そのすべてが笑みを浮かべている石像。
 不快さを抱かせずにはおかぬ嘲笑。
 小ばかにしきった失笑。
 どこか卑猥さのある艶笑。
 各々の顔が三方の壁面を向いており、視線の先には俺が抜けてきたのと同様の通路が口を開けている。
 イヤな場所だ。どこに居ても石像の視線が追いかけてくる。
 気のせいなどではなく実際にそう見える。瞳に仕込まれた玉のせいだろうが、気味が悪い造りだ。

 右手の壁面にある通路の奥から「カサリカサリ」と音がした。
 左手の壁面にある通路の奥から「ヒタヒタ」と音がした。
 姿を見せたのは枯草色をした大きなクモと勇壮な長毛の銀狼。
 シルクスパイダーとカウルに少し似ているが、どちらも俺の知らないモンスター。

「これが夜刀なのか? なんにしても二対一はキツイな」

 開けた場所で複数の敵を相手にするのは得策ではない。
 だから俺は来た通路へと戻り、そこで相手をしようかと考えたのだが不可能であった。
 ふいに背後で「ガコン」と音がして、通路への出入り口が姿を消してしまう。
 閉じ込められたのは俺だけでなく、夜刀どもも同様。
 捧げられた供物を逃がさない算段なのかは知らないが、まったくもって悪趣味極まりない。
 こうなってしまっては、もうごちゃごちゃ考えている暇はない。やるしかない。
 覚悟を決めて俺は腰の片手剣を抜き、一方にて盾をかまえる。
 が、何やら二体の様子がおかしい。
 仲間同士のはずなのに、明らかに互いを意識した牽制行動を見せたのである。
 とどのつまり俺とクモと銀狼にて、みつどもえが発生。
 厄介なことになった。
 乱戦は望ましくないが、硬直状況もまた好ましくない。かといって迂闊に動けば、隙を突かれてしまう。だが単純なガマン比べとはちがい、じっとしていればいいというものでもない。戦局の一瞬の変化を見極め、先んじて動く必要がある。それはとてつもない集中力を要すること。
 異様な緊張感が場を支配する。
 互いにわずかな動きも見逃すまいと注視。まばたきすらも命取りになりかねない中で、焦燥感ばかりが募る。
 静かな戦いがしばし続く。
 それを唐突に破ったのは、あろうことか部屋の中央にて高みの見物を決め込んでいた三面像の首。
 なんの脈絡もなく六つの目玉がギョロリと動いた!
 ただの石像かと思っていたモノが急に動いたことにより、三者三様にビクリと反応。
 クモが跳ねるのと同時に二本の針を吐き、銀狼と俺を狙い撃つ。
 銀狼が横に飛びすさりつつ吠えた。宙に出現した二本の岩の杭が風を切り、俺とクモを強襲。
 なんら飛び道具を持ち合わせていない俺は回避に徹する。
 かくして半ば強制的に戦端は開かれ、三者による生き残りをかけた闘いが始まった。


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