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067 伝説の剣士
しおりを挟む一糸乱れぬ統制のとれた騎士団の進撃。
率いるサフィール王女の号令一下、隊列が自在に変化。
ランスのごとき鋭い形態にて、敵勢の密集している場所へ突撃したかと思えば、一変、渦を巻き剣の台風となって、周囲に群がるモンスターたちを容赦なく駆逐していく。
数を頼みに襲いかかる連中には、重装備の騎士が盾をかまえて壁となり、これを食い止める。敵の勢いを押し留めたところで、突き出された槍の穂先が的確に急所を抉り、命を摘みとる。
同じ集団戦闘でも防衛隊の兵士らとは明らかに異なる強さ。
積み上げた練度こそは変わらないのであろうが、戦闘に対する純度がちがう。騎士の名を冠する意義、身に宿す重み、誇り、誓い、覚悟……。
数の問題ではない。質の問題なのだ。各々の能力が、心と魂の在り方が、みな一定基準を超えている。それが一つの旗印の下に集まったとき、集団は巨大な一匹の獣となる。レアンヘレスに仇名す者どもを蹴散らす守護獣へと変貌を遂げる。
騎士団を前面に押し出しての攻勢に自軍も奮起。乱れていた兵の統制も落ち着きをとり戻し、戦線がじょじょに盛り返されていく。
だがその前に立ち塞がったのが魔王軍の軍団長、黒赤マダラの大きな蛇体。
長い腕のひと振りが、敵味方もろとも、付近の建物をも容易く薙ぎ倒し吹き飛ばす。
それが四本っ!
奴の腕の先についた大鎌が宙を舞い、地を這うように飛んでくる。多関節によって生じるしなりが産む破壊力。攻撃の軌道も激しく変化。コレをかわし続けるのは至難。
甲冑をまとった騎士の体が、紙を破るかのようにして造作もなく千切れ、血煙があがる。
迂闊に近寄るのは危険と判断したサフィール王女の命令により、騎士団が一斉に後退。距離を置こうとするも、逃がすまいと前進する黒赤マダラ。腕の一本を空高く掲げたかと思えば、それを一気に振り下ろす。
頭上の死角からの攻撃。
騎士団の反応がわずかに遅れた。
「ギイィィン」
鉄が奏でる鈍く重たい衝突音。
演じたのは剣を手にした金髪の偉丈夫。伝説の剣士ゲーニッツ。
並みの騎士ならば両腕でかまえるような長さの剣。それを左右に一本ずつ。
十字に交差した刀身で鎌の一撃をはじき返す。
「サフィールさま、ここは自分が」
ゲーニッツが勇ましく駆け出す。
その身に黒赤マダラの横薙ぎが迫る。
もの凄い勢い。胴体を真っ二つにせんと、左側面から襲ってくる鎌。
ゲーニッツの腰がふわりと沈む。彼はとっさに二本の剣にて白刃の傾斜を産み出す。
接触した鎌は勢いのままに、その上を滑って斜め上空へと突き抜けた。
完璧に受け流したところで、ゲーニッツが間合いを詰める。
させじと黒赤マダラも抵抗。懐に入られると不利になるがゆえに。
四本の長腕が鞭のようにしなり、どんどんと加速。速度と威力を増していく。常人の目ではとても追いきれぬ怒涛の乱撃。
対するゲーニッツも一歩も引かない。二本の剣にてこれらすべてを最小限の動きとチカラにて捌く。
暴虐なる四刀流と流麗な二刀流の戦い。
六つの刃が入り乱れての激しい応酬。余波にて付近の建物の壁が崩れる。屋根が飛び、石畳が砕けた。
期せずして周囲に破壊の嵐が吹き荒れ、何人をも近寄れないような状況となる。
嵐の中心では、必殺の間合いを巡っての両者の攻防が続いている。
幾手も先を読み、時に虚実を交えながらの高度なかけ引き。
容易く人体を破壊する膂力。これを受けきる剣技。
黒赤マダラ、ゲーニッツ、共にわかっていたのだ。
条件さえ整えば、互いに相手を一刀のもとに屠るだけのチカラを有しているということを。
◇
遠巻きにして戦いの行方を固唾を呑んで見守る人々。
いつしかモンスターたちもこれに倣っていた。
魔王軍とレアンヘレス軍の両陣営。互いが保有する最強戦力同士のぶつかり合い。
この勝負の結果が、戦いの趨勢を、自分たちの命運をも左右する。
人々の輪の中に俺たちパーティ―「オジキ」も紛れていた。
「凄い。これが伝説の剣士の戦い……。まるで二本の剣が羽のように舞っている」
銀翼の剣舞。
俺の視線は釘付けとなった。危機的状況にあるのも忘れて、その剣さばきに見惚れる。
ゲーニッツが手にしているのは名剣ではあるものの、決して特別な品ではない。彼が女神の祝福を受けたギフト持ちだったという話も残ってはいない。もしもそれが事実だとすれば、彼は自力であの高みにまで登ったということ。
才能はあったのかもしれない。努力も当然ながらしたはずだ。だがそれだけじゃない。この戦乱の時代が、守りたい人の存在が、彼をここまでの剣士に育て磨きあげた。
「おいおい、あの色男、めちゃくちゃ強えじゃねえか! サフィール王女さまのところの騎士団も精強だし、ひょっとしたらイケるんじゃないのか?」
ゲーニッツの戦いぶりに、キリクも興奮を隠しきれない。
しかしジーンは一人、険しい顔をしたまま、無言にて戦いを見つめるばかり。
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