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011 パーティー等級
しおりを挟むモブの洞窟での一件が片付いたところで用が済み、ルクティはダグザより退室を命じられる。
「今回はお騒がせして申し訳ありませんでした。今後ともどうか至らない点を指導してもらえたらうれしいです。それでは失礼します。ダグザさん、ミリダリアさん、フィレオのおじさま」
早速、地域貢献枠をこなすんだと張り切って出て行くルクティ。
左右に揺れる夕陽色の髪が扉の向こうに消えたところで、ダグザがにへらと笑みを浮かべながら「ククク、おまえだけ『おじさま』ときたか。ずいぶんと慕われたもんだな。しっかりと面倒をみてやれよ」
「なっ、勘弁してくれ。ダグザさんだって、俺たちのパーティーが発足した由来を知っているはずだろう? だから女には極力関わらないってのが、うちの方針だ。三人で決めたんだ。だからギルド側もそのつもりでいてくれ」
俺が大マジメな顔でそう告げると、ダグザはゲラゲラと笑う。
しかしミリダリア女史は無反応にて、どう考えているのかはちょっとわからない。
「ガハハハハ、あー、腹が痛てえ。おまえたちを組ませてやっぱり正解だったな。それで、だ。パーティー『オジキ』の等級なんだが、五と言いたいところだが今回の一件が公に出来ない以上、六等級とせざるをえない。おまえたちの実力からすれば不満だろうが、どうかガマンしてくれ」
ダグザの言葉に俺は首を傾げる。
パーティーでの等級は解散してしまえば、よっぽど突出した実績でもない限りは、すべてチャラ。
だから通常はメンバーの入れ替えでお茶を濁す。そうすれば実績を継承しつつ、等級を下げることも防げるから。
しかし一人きりとなってしまっては、さすがにその方法が許されない。
だからこそ俺は解散するしかなかったのだ。
通常、新規パーティーは第十等級からが基本。
それが第六等級からとは、ギルドマスター権限の行使にて、そこそこ破格の待遇。
「いいのか?」俺が確認すれば、「かまわない」とダグザ。「おまえたちは個々では三等級に相当する実力がある。本来ならば、そのままパーティーも三等級にしたいぐらいだったが、さすがに飛び級が過ぎる。ヘンに悪目立ちをして注目を集めると、ルクティの件などもほじくり返されかねんからな」
こちらとしては、たいへんな下積みが免除されただけでもありがたいので、謹んで受け入れた。
おっさん三人組による男だらけのパーティー「オジキ」、晴れて第六等級となる。
◇
用件が済んでフィレオを帰した後、会議室に残ったダグザとミリダリア。
「よろしかったのですか? 本当ならば四等級に任ずる予定だったはずでは」
「あぁ、オレもそのつもりだった。だがアイツの顔を見ていたら気が変わった」
ダグザの言葉にミリダリアの眉間がかすかに寄る。
「今回の一件……。報告を聞いて、おまえはどう思った」
少し考え込んだミリダリアは「彼らの実力を考えれば妥当な結果かと」と答える。
しかしダグザは「ちがう」と首を横にふる。
「ジーンやキリクもそうだが、特にフィレオだ。あいつの実力ならばとっくに二等級になっていてもおかしくない。だが実際にはここ数年、ずっと三等級で足踏みをしていた」
「……ラナですね」
「あぁ、彼女も悪い冒険者ではなかった。フィレオが仕込んだだけあって、むしろかなり優秀な部類だろう。だがアレはダメだ。フィレオの枷にはなっても、けっして助けにはならない。ここだけの話、もっと早くに決別してくれていたらよかったとすら思っているよ。なにせオレの目に、ラナという女はフィレオという大樹に寄生しているようにしか見えなかったからな」
「ラナがパーティーにいたからこそ、依頼の難易度や仕事のペースを落としていた?」
「おそらくはリーダーの立場から考えてのことなのだろう。だがそのせいでフィレオはパーティーとしての在り方を重視し過ぎたんだ」
「平均的なチカラと安定安全性を求めるあまり、自身のことを二の次にしていたと」
「そういうこった。下の者が上に喰らいつこうと必死ならばまだよかったんだが、上の者が下に合せている時点で、パーティーとしての先はねえ」
「挙句にその当人が勘違いをし、慢心していてはなおさら……ということですか」
ミリダリアの言葉にダグザは頷く。
「しかしフィレオはここに来て、ついに枷を外された。そのとたんにロード級の討伐だ。それもガキどもを守りながら。だからかなぁ、オレは見てみたくなったんだよ」
「?」
「これまでメンバーや環境に恵まれなくって、ずっと燻っていたフィレオ、キリク、ジーン。あいつらが駆けあがっていく姿をどうしても見たくなった。そしてきっと見せてくれると信じている」
「なるほど。それであえて六等級にしたのですね」
「そういうこった。だからミリダリアも、それとなく連中を気にかけてやってくれると助かる」
「わかりました。善処しましょう」
納得したミリダリアは会話を打ち切り業務に戻るべく、ダグザのもとを辞去する。
廊下へと出て、扉を閉める直前、ふとミリダリアの耳が拾ったのはダグザのつぶやき。
「あとは手遅れになる前に、彼女が気づいてくれればいいんだがなぁ」
彼女とはフィレオの下を去って、他の男のところへと走ったラナのこと。
酷評していたわりには、その行く末を案じる。
そんなギルドマスターをちらりと見てから、ミリダリアは無言のまま扉をそっと閉めた。
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