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其の四百七十四 だいだらぼっち
しおりを挟む石の原を駆け回っては、壮絶な衝突を繰り返す。
そのうちに、銅鑼がはっとした。何ごとかに気がつき天を仰ぐ。
虚空に浮かんでいるのは、幾本もの雷の槍たちであった。
それらの穂先が銅鑼の動きに合わせて揺れては、ぴたりと切っ先を向けられる。
銅鑼がこのままだとまずいと、いったん距離をとろうとするも、たくさんの槍のうちの一本が飛んできては地面に突き立ち、銅鑼の回避行動の邪魔をする。
だから別の方向に逃れようとするも、すかさず別の槍がすとんと突き刺さる。
これを皮切りに次々と降ってくる槍により、銅鑼の動ける範囲がみるみる狭まっていく。
雷の槍の包囲陣。
中に囚われた銅鑼は「しまった!」
いつもならばさっと空を飛んで逃げるのだけれども、空には大量の槍があって逃げられない。
逃げ場を失い、右往左往している銅鑼の姿に黒い異形がにへら。
黒い異形が両腕を前へと突き出し、広げていた両の手の平を、ぐっと握りしめる。
その動作に呼応して雷の槍の包囲陣がいっきに狭まった。
残りすべての槍が銅鑼めがけて殺到する。
どどどどどどどっ!
たくさんの雷の槍による一斉攻撃が炸裂する。
銅鑼は逃げられない。それでも最初のうちは限られた範囲にて、向かってくる槍を避けるなり、はじくなりして防いでいたのだが、右後ろ足の腿あたりに一発喰らったのを手始めとして、次々の槍の洗礼を受けることになってしまった。
幾筋もの雷光がその身を貫き、突き抜けていく。
けれども、それだけではない。体に刺さった槍が周囲の地面に突き立っていたものから、稲妻を呼び寄せては、銅鑼の身を手酷く痛めつけては責め苛む。
一本一本に秘められた力は絶大にて、それが何本も何本も。
さしもの大妖もついに膝をついた。
だから黒い異形はこのまま押し切るつもりで、空の暗雲からさらに雷を集めようとしたのだけれども、その寸前ことである。
この地に居合わせた誰もが予想しえない、驚愕の事態が起きた。
◇
異変が起きたのは浅間山は火口の奥、大地の力が湧いているところである。
そこで蠢いては、我先にと大地の力を啜っていたのは有象無象の妖たちだ。おみつの仙桃を狙ったのとは別派の連中だ。
黒い異形が銅鑼にかかりきりになっている隙をついての、つまみ食い。
ひと口呑めば、たちまち体中に活力がみなぎり。
ふた口啜れば、たちまち力がずんと増す。
み口食べれば、たちまち妖力が膨れあがる。
呑めば呑むほどに……、喰らえば喰らうほどに強くなる……。
有象無象の妖たちは夢中になって、大地の力を飲み食いする。
だがしかし、それはとんだ勘違いであった。
おちょこ程度の大きさしかない器に、徳利の酒をどばどば注いだところで受け止め切れるわけがない。
そのくせやめられない、止まらない。一度でもこの味を知ってしまうとどうにもならない。加えて有象無象の存在ゆえに、渇望を抑える術も知らぬ。
膨れすぎた身は、じきに耐えきれずにぱちんと破裂した。
自滅だ。
しかしながら、ことはそれではすまなかった。
ぱちん、ぱちん、ぱちん……次々と爆ぜていく有象無象の妖たち。
それらが消えたはしから、空いた場所へとべつの妖がとりついては、同じ末路を辿る。
これが幾重にも幾重にも重なるうちに、奇異な現象が起きた。
無惨に千切れ飛んだ肉片らが、次第に寄り集まってはくっつき、ひとつのぶよぶよした塊となっては、周囲に浮遊する破片らを巻き込み大きくなっていく。
塊は他にも生じており、ある程度大きくなったところで、今度は塊と塊がくっついては、より大きな塊となる。
まるで雪だるまのように大きくなっていったそれは、ついには有象無象の妖をも取り込み出す。
たっぷり大地の力を喰らった直後の妖たちを吸収し、さらにぶよぶよの肉塊は大きく膨らんでいく。
しかも、これまでの妖らのようにはじけることもなく、ずんずんと巨大化を続けていくではないか!
個々では半端にも届かない有象無象の妖らが、大地の力を得て、自滅した骸が、群れ集うことにより、別の何かが産まれる。
突如として膨れあがった妖気は、麓の石の原に居る銅鑼たちのもとにまで届く伝わるほど。
「ぎぎぎ?」
黒い異形も銅鑼への攻撃の手を止め、おもわずふり返り山頂を見上げた。
とたんに紅の双眸がかっと見開かれる。
浅間山に覆いかぶさらんほどもある巨大な黒赤子がいて、それがまるで母の乳房でも吸うかのようにして、火口部分にはりついていた。
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