81 / 81
081 予兆
しおりを挟む謁見の席にて剣の母チヨコが寝落ちしたあと。
すべてのたくらみが潰されたと知って、キノコの人間苗床となったフェンホアは完全に沈黙。その身柄は地下牢へと引っ立てられていった。
「すぴー」
気持ちよさげな寝息を立てているチヨコ。
その姿を見て目元を細めた八武仙筆頭のクムガン。
「無理もあるまい。いかに天剣(アマノツルギ)のチカラが借りられる立場とて、この小さなカラダでよくぞあれほどのことを。本当にたいした子だ」
「ええ、私もそう思いますよ。神がどうしてこの子を選ばれたのか、いまならばわかるような気がします」
星読みのイシャルがうなづく。
すると御簾の向こうにて「さて」と皇(スメラギ)が首をわずかにかしげる。
「朕はこの娘の功績にいかに報いるべきや。領地を与えて高位貴族とすべきか。いっそ王族に迎えるべきか」
この発言にギョッとするクムガン。
しかしその考えに断固とした口調で、異を唱えたのはイシャル。
「いけません、おやめ下さい。『剣の母』の動きを制限するような振る舞いは、きっと大いなる災いをもたらします。なによりもこの子がそんなことを望みはしないでしょう」
イシャルからの指摘を受けて、「そうか」とあっさり引き下がった皇。「して、こたびの一件。天剣がこの地に遣わされた理由であろうか」と話しの矛先を変える。
問われてイシャルは首を横にふった。
「ちがうかと思われます。星を視るに大乱の相はいまだ消えておりません。予想を遥かに超えて、この地深くにまで喰い込んでいた帝国のツメ。おそらくは我が国だけのことではありますまい。となれば、いずれは海を越えてくることも覚悟しておくべきかと」
数多の清濁と歪みを抱えながらも、保たれてきた神聖ユモ国千年近くにもおよぶ平穏。
それが自分の代でついに破られるかもしれない。
星読みより告げられ、神聖ユモ国第四十九代目・皇・ワシュウはただひと言「であるか」と答えた。
◇
わたしは夢を見ていた。
お父さんがいて、お母さんがいて、妹がいる。
いつものように自室で目覚めて、いつものように家族で朝食をとり、いつものように畑仕事や趣味の園芸に精をだし、ときに幼なじみのサンタをからかい、イタズラをして神父さまにカミナリを落とされ叱られる。ロウさんやハウエイさんや里のみんなたちと、わちゃわちゃしているうちに日が暮れて、窓際の鉢植えと枕元にいる白銀のスコップに「おやすみ」と告げて就寝。
ポポの里でのありふれた日常。
わたしはそんな生活を送っている自分の姿を、少し離れたところから膝を抱えてぼんやりと眺めていた。
一方でふり返れば超大で煌びやかな聖都。
大勢の人がいて、たくさんの物であふれており、とにかく活気があって……。
そこには「剣の母」「商公女」「紅風旅団の首領」「勇者殺し」「禍獣の母」「魔改造の女」なんぞと、みんなにもてはやされているわたしがいる。
豪奢な衣装に身を包み、えらい人たちに混じってツンとすましている自分がいる。
しかし悲しいかな。ちっとも似合っちゃいない。
もしもこれが母アヤメや愛妹カノンだったら、さぞや映えることであろうに。
ポポの里と聖都。
二つの光景を見比べてしみじみ。
「おもえばずいぶんと遠くまできたもんだ」
とんでもない人生流転を目の当たりにし、つい口からそんな言葉がこぼれた。
ふいに景色がにじんでぼやける。
涙が頬を伝う。
「もう帰りたい。カノンに会いたい。みんなに会いたい。会いたいよぉ」
ダメだった。
こらえきれなくなって、わたしはワンワン泣いた。
夢の中で泣いて、泣いて、泣きつかれるまで泣いて、そしてそのまま眠りについた。
◇
「うーん」と寝返りをうつ。
右にごろん。
すると手に馴染みの感触が伝わってくきた。
冷たいけれども冷たくない。固いけれどもどこか温かいふしぎな感触。
スコップ状になっている勇者のつるぎミヤビの存在を感じて、わたしは胸の内がぽかぽかしてくるのを感じ、とても満たされた気分になった。
しあわせのままに、わたしはまどろむ。
まぶたは開けない。鼻先をスンとして吸い込んだのは夜の気配が混じる空気。
これはまだ世界が夜明け前の瑠璃色のときのもの。
じきに紫をおびた紺色の空が白じみ始めるはず。
だからもう少しだけ、もう少しだけしあわせな夢に浸ろう。
だいじょうぶ。起きたらケロリと元気になっているはず。
だってわたしは強い子だもの。なにせ手負いとはいえ、あの八武仙の一人をやっつけちゃったんだから。だから、きっとだいじょうぶ。
夢とうつつの狭間でそんなことを考えながら、わたしはふたたびごろん。
今度は左へと。
そうしたらまたもや手に何かが触れた。
「あれ? これは何だろう」
冷たく固いけれども、けっしてそれだけじゃない。
肌にとても馴染む感触は、ミヤビのモノにとてもよく似ている。
けれども彼女は右側にいたはず。
わたしは瞳を閉じたままにて、手を動かしてペタペタ確認。
それは棒状をしており、ずいぶんと長いモノらしい。
足下から枕元へと向かい、形状に沿うようにして手を動かし続けていると、やがて平らな部分に行きついた。「うん?」
これまで直線だったのが、そこで直角に曲がっており、緩やかな弧を描いている。
三度ばかり同じ動作をくり返し、目隠し状態にてどうにか正体を探り当てようとするも、ついにわたしは降参。
モソモソと起き出し、自分の目でじかに確かめてみることにした。
そして開口一番。
「なんじゃこりゃーっ!」
視線の先にあったのは漆黒の大鎌。
ここにきて、まさかの二本目っ!!
―― 剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?ただいまお相手募集中です! (第一部完) ――
0
お気に入りに追加
190
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(71件)
あなたにおすすめの小説
婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが
マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって?
まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ?
※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。
※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。
【完結】身を引いたつもりが逆効果でした
風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。
一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。
平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません!
というか、婚約者にされそうです!
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?三本目っ!もうあせるのはヤメました。
月芝
児童書・童話
世に邪悪があふれ災いがはびこるとき、地上へと神がつかわす天剣(アマノツルギ)。
ひょんなことから、それを創り出す「剣の母」なる存在に選ばれてしまったチヨコ。
辺境の隅っこ暮らしが一転して、えらいこっちゃの毎日を送るハメに。
第三の天剣を手に北の地より帰還したチヨコ。
のんびりする暇もなく、今度は西へと向かうことになる。
新たな登場人物たちが絡んできて、チヨコの周囲はてんやわんや。
迷走するチヨコの明日はどっちだ!
天剣と少女の冒険譚。
剣の母シリーズ第三部、ここに開幕!
お次の舞台は、西の隣国。
平原と戦士の集う地にてチヨコを待つ、ひとつの出会い。
それはとても小さい波紋。
けれどもこの出会いが、後に世界をおおきく揺るがすことになる。
人の業が産み出した古代の遺物、蘇る災厄、燃える都……。
天剣という強大なチカラを預かる自身のあり方に悩みながらも、少しずつ前へと進むチヨコ。
旅路の果てに彼女は何を得るのか。
※本作品は単体でも楽しめるようになっておりますが、できればシリーズの第一部と第二部
「剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?ただいまお相手募集中です!」
「剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?二本目っ!まだまだお相手募集中です!」
からお付き合いいただけましたら、よりいっそうの満腹感を得られることまちがいなし。
あわせてどうぞ、ご賞味あれ。
家に代々伝わる髪色を受け継いでいないからとずっと虐げられてきていたのですが……。
四季
恋愛
メリア・オフトレスは三姉妹の真ん中。
しかしオフトレス家に代々伝わる緑髪を受け継がず生まれたために母や姉妹らから虐げられていた。
だがある時、トレットという青年が現れて……?
【完結】結婚してから三年…私は使用人扱いされました。
仰木 あん
恋愛
子爵令嬢のジュリエッタ。
彼女には兄弟がおらず、伯爵家の次男、アルフレッドと結婚して幸せに暮らしていた。
しかし、結婚から二年して、ジュリエッタの父、オリビエが亡くなると、アルフレッドは段々と本性を表して、浮気を繰り返すようになる……
そんなところから始まるお話。
フィクションです。
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
わたしは出発点の人生で浮気され心が壊れた。転生一度目は悪役令嬢。婚約破棄、家を追放、処断された。素敵な王太子殿下に転生二度目は溺愛されます。
のんびりとゆっくり
恋愛
わたしはリディテーヌ。ボードリックス公爵家令嬢。
デュヴィテール王国ルシャール王太子殿下の婚約者。
わたしは、ルシャール殿下に婚約を破棄され、公爵家を追放された。
そして、その後、とてもみじめな思いをする。
婚約者の座についたのは、わたしとずっと対立していた継母が推していた自分の娘。
わたしの義理の妹だ。
しかし、これは、わたしが好きだった乙女ゲーム「つらい思いをしてきた少女は、素敵な人に出会い、溺愛されていく」の世界だった。
わたしは、このゲームの悪役令嬢として、転生していたのだ。
わたしの出発点の人生は、日本だった。
ここでわたしは、恋人となった幼馴染を寝取られた。
わたしは結婚したいとまで思っていた恋人を寝取られたことにより、心が壊れるとともに、もともと病弱だった為、体も壊れてしまった。
その後、このゲームの悪役令嬢に転生したわたしは、ゲームの通り、婚約破棄・家からの追放を経験した。
その後、とてもみじめな思いをすることになる。
これが転生一度目だった。
そして、わたしは、再びこのゲームの悪役令嬢として転生していた。
そのことに気がついたのは、十七歳の時だった。
このままだと、また婚約破棄された後、家を追放され、その後、とてもみじめな思いをすることになってしまう。
それは絶対に避けたいところだった。
もうあまり時間はない。
それでも避ける努力をしなければ、転生一度目と同じことになってしまう。
わたしはその時から、生まれ変わる決意をした。
自分磨きを一生懸命行い、周囲の人たちには、気品を持ちながら、心やさしく接するようにしていく。
いじわるで、わたしをずっと苦しめてきた継母を屈服させることも決意する。
そして、ルシャール殿下ではなく、ゲームの中で一番好きで推しだったルクシブルテール王国のオクタヴィノール殿下と仲良くなり、恋人どうしとなって溺愛され、結婚したいと強く思った。
こうしてわたしは、新しい人生を歩み始めた。
この作品は、「小説家になろう」様にも投稿しています。
「小説家になろう」様では、「わたしは出発点の人生で寝取られ、心が壊れた。転生一度目は、悪役令嬢。婚約破棄され、家を追放。そして……。もうみじめな人生は嫌。転生二度目は、いじわるな継母を屈服させて、素敵な王太子殿下に溺愛されます。」という題名で投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
2本目、鎌?!
ミヤビは、剣の母の影響もろ受けると…ん??
あれ??てことはだ…チヨコ性格そのもの受け継いでる??W
51話で、信仰対象?w