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079 追走
しおりを挟む好都合なことに、闘技場中央の天井に大穴が開いているのを発見!
わたしはミヤビに頼んでそこから外へ。
その際にちらりと見下ろせば、石舞台の姿がどこにもなく瓦礫が散乱。あちこちで煙がブスブス燻っており、客席はすっかりがらんどうとなっていた。
でもって、闘技場の外は内部から泡を喰って逃げ出した人たちでごった返している。
寄せては返す人の波。タモロ地区大混乱の図。
この混乱に乗じてまんまと姫をさらった悪漢ども。
本当ならばこのままいっきに空を駆けて、イチカ姫のところへ向かいたいところ。
けれども、聖都上空にはヤバい防衛網が敷かれてある。
ミヤビだけならばへっちゃらだろうけど、乗剣しているわたしがムリ。
弓の達人による精密射撃の矢で叩き落とされるか、魔術師の凶悪な魔法でボコボコにされて叩き落とされるか。
どっちもごめんこうむる。
よって、わたしはできるかぎり高度を落として飛ぶことを選択。
その結果……。
「うぉ、なんだアレは!」「トリか? 禍獣か?」「ちがう、剣だ!」「大剣が空を飛んでいるぞ!」「なんと勇壮な」「うつくしい……。上の子はともかく下の剣が」「スゴイ、女の子が乗ってるわ」「かっけー」「いいなぁ」「お母さん、わたしもアレ欲しい」「さすがは聖都、なんとハイカラな」「あれま? 紅風旅団の首領じゃん」「ナムナム、ありがたや」「キャーッ、商公女さまーっ」「剣の母さまーっ!」「よっ、勇者殺し」
ただでさえ興奮している群衆の頭上を、白銀の大剣に乗った小娘がビューンと飛んでいれば、そりゃあ騒ぎをいっそう助長するよね。
とりあえず適当に手を振りつつ、「こっち向いて」の声援に気まぐれに応え、宙を疾走。
存分に大衆の晒しものとなりながら、商業地帯のタモロ地区を抜けて、そのまま雑多なシモロ地区へと突入。
通りでは多数の露天なんかが並んで、お祭りの様相。
ここでもわたしたちは大人気。
行く先々にて好奇の的に。
が、ハタとあることに気がつく。
「あれ? こんなに人だらけのところを、イチカ姫を連れ去った連中はどうやって移動しているんだろう」
確かミヤビは「かなりの速度で移動している」と言っていた。
他者の目を気にする逃避行ならば、地下をと考えたいところだけれども、あそこをビューンと突き進めるのはうちの子ぐらい。
ならば馬車あたりを使用するのが妥当だろう。
でもこんな場所で無茶をやらかしたら、ケンカっ早くて血の気の多い下町の連中に囲まれてえらいことになる。うーん。
いかにミヤビの探索能力とはいえ、これだけ大勢がごちゃごちゃしていたら、ちょっと特定がムズカシイみたいだし。
悩んだ末にわたしはいったんミヤビに止まってもらい、近くの屋台にて串焼きを威勢よく売っている働き者っぽい老婆に声をかけた。
「ねえねえ、ちょっと」
たずねたのは道のこと。
けっこう厳格な身分差が存在する聖都。もしかしたらシモロ地区にもやんごとなき身分の方専用の通り道があるのかもと考えたからだ。
すると老婆は美味そうなニオイのする串焼きを差し出し、ニカっといい笑顔。
「紅風旅団、団員番号四十四万四千四百四十四番ナムコ。不肖のせがれともどもお世話になっております。で、首領さまのおたずねのことですが……」
まさかのドルアの母親がここで登場!
ナムコさんの話によると、ここから西に向かうと高貴な方々がおっちら馬車や牛車を優雅に歩かせている専用の道路があるという。
なるほど。誘拐犯どもは、そっちを突っ切っているようだ。
わたしは貰った串焼きをモグモグしつつ礼を述べ、ついでにドルアの変貌ぶりについて告げておいた。
「息子さん、ちょっと変わっちゃったけど、あんまり驚かないでね」
意味がわからずキョトンとなった老婆に手を振りつつ、わたしはミヤビの進路を西の通りへと向けた。
◇
やんごとなき身分の方々はあわてず動じずゆっくり。
せせこましいのは下々のすること。
だから静かで閑散とした道を急いでいる二頭立ての馬車はとっても目立つ。
「いたっ! アレだ。前を抑えてミヤビ」
「了解しましたわ」
ギュンと加速した勇者のつるぎが、後方よりいっきに逃げる馬車を追い越す。
そしてわたしは両手を広げて「止まれーっ!」と叫ぶも、素直に言うことを聞くようなよい子は、そもそもこんな悪事に手を染めない。
速度を落とすどころか、御者の野郎、ピチピチとウマどもの尻にムチをくれやがった。
轢き殺す気まんまん。
できる限り穏便にすませてあげようという真心は通じなかった。
よって実力行使に踏み切る。
ひょいと飛び降りたわたし。「じゃあ、ミヤビ先生、お願いします」
わたしがシュタタと脇へ退避したの確認した勇者のつるぎが「では参りまする。ですわ」と言った。
猛然と突っ込んできた馬車と白銀の大剣が交差。
刹那、無数の光の筋がシュパパパと乱舞。
直後に馬車がガクンと速度を落とす。
トトト、トと少し進んだところでウマの足が完全にとまり、二頭は白眼をむいてバタンと横に倒れた。
馬車の本体がストンと落ちて、四つの車輪だけがコロコロと転がり、やはりしばらく進んでからバタンと倒れた。
同時に泡を吹いている御者の衣装が細切れになって裸体があらわとなり、馬車本体が八つに切り分けられた姿となる。
中からあらわれたのは、御者同様にあられもない姿にて気を失っている賊二人と、スヤスヤ寝息を立てている無事なイチカ姫であった。
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