上 下
68 / 81

068 変身

しおりを挟む
 
 その瞬間を目撃した男たちは、みなとっさに足を閉じ、己の股間をかばったという。

 わたしが放った幻の左・改。
 粉砕したのはチンケなクズ玉ひとつ。
 本当は将来の禍根を絶つべく、すべてを根こそぎ破壊してやろうかとも思ったが、そうすると次の決勝戦が不戦敗になってしまう。
 祭りは盛りあげるものだと言っていたことだし、当人もそれは不本意であろう。
 まぁ、二個あるものが一個になったって問題ないよね?
 だってポポの里のロウさんなんて、隻眼隻腕隻足にて杖が手放せない老人なのに、あれだけ戦えるんだもの。あれに比べたら玉のひとつぐらい、どうってことないでしょう。
 白目にてぷくぷく泡を噴きぶっ倒れている自称勇者。
 その脇腹をドムドム蹴飛ばしながら、わたしがにっこり微笑めば、真っ青な顔をした審判がコクコクうなづいた。

  ◇

 医務室に担ぎ込まれたドルア。ぐったりしたまま動かない。意識もなく浅い呼吸がいまにも止まりそう。
 ひと目見るなり医師らが険しい表情をみせる。
 全身の傷もさることながら、血が流れすぎているのがマズイとのこと。

「バカたれめ。これから親孝行をしなくちゃいけないってのに、年老いた母親を残して死んだら承知しないからね」

 わたしは白銀のスコップに変じたミヤビを手に、医務室を物色。
 目を閉じ神経を鼻先に集中。天井から薬の材料がいっぱい吊るしてあった呪い師のハウエイさん宅を想起し、くんかくんか。
 ニオイの記憶をたどって目当ての効能を探す。
 するとなにやら高そうな大壺を棚の奥にて発見!
 中にはドロっとした紫色の薬液がたっぷり。いかにも効きそう。
 医師たちが「あー、それはダメっ!」と声をあげたのを見て、確信を抱いたわたしはミヤビを突っ込んでじゃぶじゃぶ。回復の祈りを込めて、オラオラ盛大にかき回す。
 頼むよ、わたしの水の才芽。
 お風呂の残り湯ですらもが、いい出汁がでてお肌ぴちぴちになると、迎賓館付きの女官らが二番湯をとり合っているというチカラ。いまこそ存分に猛威をふるうとき!
 気合を入れて百回ぐらいかき回してから、大壺の中身をドルアの全身にぶちまける。
 医師たちの「ギャーッ」「代々受け継がれてきた秘伝の薬がーっ」「ミズヤ黒銀貨数十枚分がーっ」などという悲痛な叫びは聞こえない。
 ちなみにミズヤ黒銀貨一枚で、ミズロ白銀貨十枚に相当。
 滋養強壮にいいというシロザルのナニの買い取り価格に換算したら、一万本。

 フム。さすがは十万本分のチカラ。
 ドルアのカラダが、何やらしゅうしゅうと怪しい白煙をあげはじめた。
 おかげで医務室がえらいことになる。
 それでも傷がふさがっていくのを見て安堵したわたしは、ここでもうひと押し。
 さっき発掘した大壺の隣にあった、これまたお高そうな中壺を「うんしょ」と運び出して、同様に中身を混ぜ混ぜ。
 からの、ドルアの口に強制投入。
 もはや命を救うための術か、命を奪うための拷問かわかりやしない。

  ◇

 全身だけでなく、口やら鼻やら耳の穴からも、ゆらゆらと白煙をのぼらせるドルア。
 どんどんと煙が濃くなって、ついにはその姿が隠れてしまった。
 ちょっとしたボヤ騒ぎが、本格的な延焼へと発展したような状況に医務室内は大騒ぎ。
 ゲホゲホむせびながら窓や扉を全開にして、せっせと煙を排出する医師たち。
 おかげで視界がどうにか戻ってきたところで、煙の向こうでむくりと大きな影が動いた。
 死の淵よりの生還。目覚めたドルアが診察台にて上半身を起こす。

「あれ、俺はどうして……。確か勇者野郎にやられて……」

 状況に戸惑っているらしいので、わたしは煙越しに声をかけてやった。
 じょじょに薄まり、ついには煙が完全に霧散する。
 そうして姿を見せた復活のドルア。
 彼を前にして、わたしは叫ばずにはいられない。

「おまえ誰だよっ!」と。

 医師たちも死にかけの重傷や、潰れていたはずの目がすっかり元に戻っていることよりも、その原型を留めない変身ぶりにそろって絶句。「!」「!」「!」

 巨漢のどっぷりした太鼓腹な体型をした銅禍獣の鎧熊(ヨロイグマ)そっくりだったドルア。
 筋肉の塊にて造られた三角形のような容姿が、引き締まった筋肉の綱で編み込まれた逆三角形の容姿に。しかも顔までしゅっと引き締まって苦味走った渋めの男前になっちゃった!
 うーん。ドルアが助かったのはうれしいけれども、心なしかわたしの才芽が近頃暴走しているような気がする……。
 ひょっとして成長期かな? そのわりには見た目はちっとも変っていないんだけど。おかしいなぁ。

 本日の臨床実験結果。
 水の才芽と勇者のつるぎに、死人もビビッて蘇るぐらいの秘伝の超高価な薬がそろえば、鎧熊なおっさんも、イケてる中年になれる。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。 しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。 フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。 クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。 ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。 番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。 ご感想ありがとうございます!! 誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。 小説家になろう様に掲載済みです。

剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?三本目っ!もうあせるのはヤメました。

月芝
児童書・童話
世に邪悪があふれ災いがはびこるとき、地上へと神がつかわす天剣(アマノツルギ)。 ひょんなことから、それを創り出す「剣の母」なる存在に選ばれてしまったチヨコ。 辺境の隅っこ暮らしが一転して、えらいこっちゃの毎日を送るハメに。 第三の天剣を手に北の地より帰還したチヨコ。 のんびりする暇もなく、今度は西へと向かうことになる。 新たな登場人物たちが絡んできて、チヨコの周囲はてんやわんや。 迷走するチヨコの明日はどっちだ! 天剣と少女の冒険譚。 剣の母シリーズ第三部、ここに開幕! お次の舞台は、西の隣国。 平原と戦士の集う地にてチヨコを待つ、ひとつの出会い。 それはとても小さい波紋。 けれどもこの出会いが、後に世界をおおきく揺るがすことになる。 人の業が産み出した古代の遺物、蘇る災厄、燃える都……。 天剣という強大なチカラを預かる自身のあり方に悩みながらも、少しずつ前へと進むチヨコ。 旅路の果てに彼女は何を得るのか。 ※本作品は単体でも楽しめるようになっておりますが、できればシリーズの第一部と第二部 「剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?ただいまお相手募集中です!」 「剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?二本目っ!まだまだお相手募集中です!」 からお付き合いいただけましたら、よりいっそうの満腹感を得られることまちがいなし。 あわせてどうぞ、ご賞味あれ。

剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?四本目っ!海だ、水着だ、ポロリは……するほど中身がねえ!

月芝
児童書・童話
世に邪悪があふれ災いがはびこるとき、地上へと神がつかわす天剣(アマノツルギ)。 ひょんなことから、それを創り出す「剣の母」なる存在に選ばれてしまったチヨコ。 いろいろ恩恵も受けたけど、使命を果たさないと世にも恐ろしい呪いが降りかかることに! 自国や他国を飛び回り、わちゃわちゃ忙しい日々を送りながら、 それなりに充実していたのだけれども、ちっともはかどらない? そんなチヨコのもとに凶報が舞い込む。 周囲の制止も聞かず、飛び出したチヨコ。一路向かうは南の海。 任務中に行方不明となった友を捜すために……。 天剣と少女の冒険譚。 剣の母シリーズ第四部、ここに開幕! お次の舞台は神聖ユモ国が領有する南海。 霧けむる海にて暴れまわるナゾの海賊船。 深海に蠢く巨大生物。 人知と未知が入り乱れる中、くり広げられる海洋冒険譚。 ※本作品は単体でも楽しめるようになっておりますが、できればシリーズの第一部~第三部 「剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?ただいまお相手募集中です!」 「剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?二本目っ!まだまだお相手募集中です!」 「剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?三本目っ!もうあせるのはヤメました。」 からお付き合いいただけましたら、よりいっそうの満腹感を得られることまちがいなし。 あわせてどうぞ、ご賞味あれ。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?二本目っ!まだまだお相手募集中です!

月芝
児童書・童話
世に邪悪があふれ災いがはびこるとき、地上へと神がつかわす天剣(アマノツルギ)。 ひょんなことから、それを創り出す「剣の母」なる存在に選ばれてしまったチヨコ。 天剣を産み、これを育て導き、ふさわしい担い手に託す、代理婚活までが課せられたお仕事。 いきなり大役を任された辺境育ちの十一歳の小娘、困惑! 誕生した天剣勇者のつるぎにミヤビと名づけ、共に里でわちゃわちゃ過ごしているうちに、 ついには神聖ユモ国の頂点に君臨する皇さまから召喚されてしまう。 で、おっちら長旅の末に待っていたのは、国をも揺るがす大騒動。 愛と憎しみ、様々な思惑と裏切り、陰謀が錯綜し、ふるえる聖都。 騒動の渦中に巻き込まれたチヨコ。 辺境で培ったモロモロとミヤビのチカラを借りて、どうにか難を退けるも、 ついにはチカラ尽きて深い眠りに落ちるのであった。 天剣と少女の冒険譚。 剣の母シリーズ第二部、ここに開幕! 故国を飛び出し、舞台は北の国へと。 新たな出会い、いろんなふしぎ、待ち受ける数々の試練。 国の至宝をめぐる過去の因縁と暗躍する者たち。 ますます広がりをみせる世界。 その中にあって、何を知り、何を学び、何を選ぶのか? 迷走するチヨコの明日はどっちだ! ※本作品は単体でも楽しめるようになっておりますが、できればシリーズの第一部 「剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?ただいまお相手募集中です!」から お付き合いいただけましたら、よりいっそうの満腹感を得られることまちがいなし。 あわせてどうぞ、ご賞味あれ。

【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?

つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。 彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。 次の婚約者は恋人であるアリス。 アリスはキャサリンの義妹。 愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。 同じ高位貴族。 少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。 八番目の教育係も辞めていく。 王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。 だが、エドワードは知らなかった事がある。 彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。 他サイトにも公開中。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?五本目っ!黄金のランプと毒の華。

月芝
児童書・童話
世に邪悪があふれ災いがはびこるとき、地上へと神がつかわす天剣(アマノツルギ)。 ひょんなことから、それを創り出す「剣の母」なる存在に選ばれてしまったチヨコ。 そのせいでこれまでの安穏とした辺境暮らしが一変してしまう! 中央の争乱に巻き込まれたり、隣国の陰謀に巻き込まれたり、神々からおつかいを頼まれたり、 海で海賊退治をしたり…… 気がつけば、あちこちでやらかしており、数多の武勇伝を残すハメに! 望むと望まざるとにかかわらず、騒動の渦中に巻き込まれていくチヨコ。 しかしそんな彼女の近辺に、海の彼方にある超大な帝国の魔の手が迫る。 天剣と少女の冒険譚。 剣の母シリーズ第五部、ここに開幕! お次の舞台は商連合オーメイ。 あらゆる欲望が集い、魑魅魍魎どもが跋扈する商業と賭博の地。 様々な価値観が交差する場所で、チヨコを待ち受ける新たな出会いと絶体絶命のピンチ! ※本作品は単体でも楽しめるようになっておりますが、できればシリーズの第一部~第四部。 「剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?ただいまお相手募集中です!」 「剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?二本目っ!まだまだお相手募集中です!」 「剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?三本目っ!もうあせるのはヤメました。」 「剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?四本目っ!海だ、水着だ、ポロリは……するほど中身がねえ!」 からお付き合いいただけましたら、よりいっそうの満腹感を得られることまちがいなし。 あわせてどうぞ、ご賞味あれ。

処理中です...