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060 サクランの木の下で

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 急遽決まった皇(スメラギ)さまとの謁見。その場で発表された選定の儀の開催。直後に招かれた秘密のお茶会で明かされる謀略の数々。そしてトドメが星拾いの塔の天辺にてイシャルさまから教えられた天剣(アマノツルギ)と剣の母の秘密……。
 げっぷ、わたしはもうお腹いっぱいです。

「キシャー!」
「ぎゃあ」

 外から聞こえてきた雑音が思索を遮る。
 しようがないので、わたしは「やれやれ」と重い腰をあげた。

  ◇

 選定の儀が行われることが公布されてから、聖都は大にぎわい。
 我こそはと名乗りをあげて集う猛者ども。「祭りだ! 祭りだ!」と興奮する民草。ここぞとばかりに荒稼ぎを目論むタモロ地区の商人たち。同じくここぞとばかりに賭場にて荒稼ぎを目論むシモロ地区の親分さんたち。もちろんカモロ地区の貴族たちとて黙っちゃいない。裏と陰でしっかりウゴウゴしている。
 そして国内にて暗躍しているレイナン帝国の工作員を誘い出すエサ。
 もとい囮役を押しつけられたわたしは、選定の儀が開催される十日後まで特にすることがないので、おとなしく迎賓館にこもっていた。
 なお外部の情報はちょくちょく顔を見せにくるアズキ、キナコ、マロンら三人組から聞き及ぶ。
 訪ねてくるたびにカッコウが洗練されて、着るものが上等になり、歩く姿も威風堂々。心なしか女っぷりと貫禄が増している彼女たち。
 それもそのはず。なにせいまや総団員数四十万に届こうかという、飛ぶ鳥を落とす勢いの紅風旅団の副首領と最高幹部たちなんだもの。
 立場と環境が人を成長させるとはよく言った。
 ちなみに四十万といえば、聖都の総人口の三分の一に相当するそうな。質はともかく数だけ見れば最大派閥。
 まぁ、でも参加している連中の大半がお遊び気分だろうから、正味は十万ちょっとぐらいだと思う。それでもまだまだ余裕にて最大派閥だけれども。
 皇さまは「放置しておいてもかまわない。じきに飽きて霧散する」みたいなことをおっしゃっていたが、連中が数を頼みに暴走して悪さをしたら目も当てられない。
 だから頃合いを見計らって、自警団や火消しなんかの仕事を割り振って、適当にお茶をにごすつもりである。

「キシャー! ギャッギャッ!」
「うぎゃあ」

 迎賓館の敷地内にある庭園から響く声がとってもにぎやか。
 なにやら興奮しているらしい。
 わたしはやや歩みを速め、そちらへ向かう。

  ◇

 ここのところすることがなかったわたしは、迎賓館の敷地内にある庭でひそかに実験を行っていた。
 なんの実験かって?
 自分の才芽についてだよ。
 フフン。これでもわたしは史上初の三つ持ち。

 一の才芽、剣の母。これは魂をごりごり削って、天剣を産み出すチカラ。
 二の才芽、土。これは耕した土が、とってもいい感じになるチカラ。
 三の才芽、水。これは手ずから関わった水に、いろんな効能が宿るチカラ。

 あまり深く考えることなく使っていたら、ひょっこり誕生したのが単子葉植物の禍獣ワガハイ。鉢植えの黄色い花にて、ゆらゆら揺れて言葉を発するだけ。ときおりイラっとさせられるものの、いまのところは人畜無害といっていい存在。
 ポポの里から聖都へと向かう旅の途中で起こった禍獣化現象。
 本来であればいろんな奇跡を経て、大地の気を受けて起こるもの。
 それがたまたまとはいえ人為的に発生。
 わたしはこのことに少々危惧を覚えている。

「あれ? もしかしてわたしは『剣の母』のみならず、『禍獣の母』にもなれるのではなかろうか」

 スゴイのはあくまで勇者のつるぎミヤビであって、わたしではない。
 真に価値があるのは天剣。物語の主役は彼女。わたしはただのちんまい田舎の小娘。あくまでオマケみたいなもの。
 ずっとそんな認識だったのだけれども、こうなると話がちょっとちがってくる。
 のかもしれない。
 今後のことを考えれば、自分のチカラについてちゃんと把握しておいた方がいい。
 そう考えたがゆえの実験である。

 わたしが実験対象に選んだのは、庭にあった三本のサクランの木。
 土だけをいじったり、水だけを与えてみたり。量や比率、組み合わせを変えてみての試行錯誤。
 結果として判明したのは以下のことである。

 土の才芽だけでは禍獣化現象は起きない。
 水の才芽だけでは禍獣化現象は起きない。
 土と水の才芽を組み合わせても禍獣化現象は起きない。
 土と水の才芽を行使しつつ、白銀のスコップで世話を焼くと禍獣化現象は発生するっぽい。
 一つではダメ。二つでもダメ。三つそろって初めて奇跡は顕現する。
 これらの条件ゆえに、禍獣となるのは現時点にて植物に限られる。
 もしかしたら動物を地面に埋めて首だけひょっこり、かいがいしくお世話をしたら禍獣化するのかもしれないが、さすがにそこまで非人道的な行為を試す気にはなれない。

「だってチヨコはまだ十一……」
「ギシャー! ギャギャギャギャ」
「あんぎゃあぁ」

 回想と締めの台詞を邪魔されたところで現場に到着。
 わたしは「やかましい!」と一喝。
 とたんに庭が静かになった。
 えー、コホン。ではあらためまして。

「だってチヨコはまだ十一歳。ぴちぴちの無垢な乙女なんですもの」

 そんな乙女が実験の末に新たに世に産み出したのが、サクランの木の禍獣たち。
 考えるのがめんどうなので、名前は左から順に一号、二号、三号とした。
 それでさっきからなにを「ぎゃあぎゃあ」興奮しているのかと思えば……。

「なぁんだ、ホランが枝につかまってぶん回されていただけか。だからあれほどうかつに近づくなって言ったのに。ほら、あんたたち、そんなの食べたらお腹こわすよ。バッチイからとっととポイしなさい」

 剣の母もとい禍獣の母チヨコの言うことは素直にきく一号、二号、三号。
 命じられるままにホランをポイした。


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