45 / 81
045 迎賓館
しおりを挟む逆さまにした扇のような形状をした聖都。
ゆるやかな斜面を利用した階層構造になっており、扇を束ねる要の部分に相当する位置にあるのが宮廷。
宮廷の中央がナカノミヤ。ここが皇(スメラギ)やその一族たちが住まうところ。
向かって右にあるのがウノミヤ。二柱聖教の総本山にて大神殿があり関係者たちがウゴウゴしている。
そして左にあるのがサノミヤ。行政を司る役所関係が集まる場所。主に官吏たちがウゴウゴしている。
三つの宮が並ぶこの地は、文字通り国の要となる重要拠点。
ここよりピ湖側へと降ったところにあるのが、カモロ地区。
朱色の屋根と白を基調とした建物がずらり。整然とした街並みにて、大きな屋敷が多いのは、ここが貴族や官吏のえらい人たちが住む場所だから。
周囲を壁でおおわれており、出入りには六つある門のいずれかを必ず通る必要があって、許可なき者の立ち入りは禁じられている。
カモロ地区の階下に位置しているのが、タモロ地区。
三つの大通りに無数の裏路地を抱える商業地帯。超一流どころからクソみたいな品まで何でもそろうと言われている。巨額の金銭と膨大な品、これに群がる人がたむろするがゆえに喧騒が絶えることがない場所。表もあれば裏もあり。有象無象にて、とってもにぎやか。
そんなタモロ地区よりさらに一段下がったところ、ピ湖まで裾野を広げているのが、シモロ地区。
もっとも人口と建物が密集している庶民たちが暮らす地域。いろんなところから流れ込んできた流民たちも多く住み着いており、文化と人種の寄せ鍋みたいになっている。
老若男女、善人からごろつきまでピンキリながらも、治安がそこそこ保たれているのは、国の警邏隊の功績というよりも、賭場を仕切り顔役となっている者たちの存在が大きい。
雑多は雑多なりに形になって落ち着くという見本のようなところ。
◇
カルタさんから聖都のおおまかな地理の説明を受けているうちに、馬車が止まった。
使節団が到着したのはカモロ地区内にある、とあるお屋敷。
どんなお屋敷かとたずねられたら、わたしはあんぐりマヌケ面にて「デカい」としか答えようがない。
横も縦も奥行も、とにかく長く大きく広いのだ。
天井が高く、朱色の柱が太い。
あと壁がやたらと白い。キレイだけれども直視していたら目がちかちかしてくる。
真っ白な壁を作るのには専用の土が必要。それが採れるのは海辺だったと学び舎で習った記憶がある。わたしはまだ海というものを見たことがないけれども、それがどれだけ遠くにあるのかだけは、なんとなく理解している。
そんな遠くから、いったいどれほどの量の土を運んでくれば、こんなお屋敷になるのだろうか。
この立派なお屋敷、じつは海外からの大切なお客さまなんかが滞在する迎賓館と呼ばれる建物なんだって。
いちおう国賓扱いとなっている剣の母であるわたしは、とりあえずここに逗留することになるんだとか。
「とりあえず?」
わたしが首をかしげると、カルタさんが「もしかしたらチヨコちゃんには皇さまより、カモロ地区内にお屋敷が下賜されるかもね」とさらっと言った。
しかも使用人込みにて、管理費はすべて向こう持ち。
ふつうならば床に額をこすりつけて、涙ながらに「ありがたきしあわせーっ」とでも叫ぶところなのだろうが、若干十一歳の辺境育ちの里娘にはいまいちピンとこない。
ぶっちゃけ、もらってもうれしくない。
そもそもの話。ロクに使わない建物や誰も寝起きしない部屋に、いかほどの価値があるのだろうか?
いっそのことぶっ潰して、モンゲエ畑にでもしてしまったほうがいいような気がする。
ホランに「そこんところどうよ?」ときいてみたら、彼は「そうだな。ポポの里で食べた樽漬けはうまかったし、オレもそっちの方がいいかな」と即答した。
◇
お世話役のカルタさんと警護のホラン、影盾と影矛の二人組以外の使節団の面々とは、ここでお別れ。
重責からの解放と、ひさしぶりの帰郷に笑みを浮かべる者たちがいる一方で、がっくしと肩を落としていたのが第一妃、第二妃の息のかかった者たち。
なにせこの旅の間中に、剣の母であるわたしを篭絡するようにと命じられていたのに、ほとんど接触する機会がなかったのだから。
両陣営が互いを牽制、足を引っ張り合ったことが失敗の要因にあげられるが、何よりの敗因は、あの四頭立ての馬車であろう。
思いのほかに密閉率と防御力が高かった。さすがは水陸両用である。
どうせもらえるのならば、使い道のない屋敷よりも、わたしはこっちの方がいい。
悲喜こもごもにて退去していく者たち。
その中にあって、とびきりいい笑顔だったのが代表のガラムト。満面の笑みとはこういうことさ! と言わんばかりの晴れやかさ。
明らかに厄介ごとから解放されることをよろこんでいる。
あんまりにも露骨な態度だったので、ちょっとイラっときたわたしは別れ際にニコっと微笑む。「いろいろお世話になりましたガラムトさん。今後ともよろしく」と言ってやった。
特に深い意味はない。またお世話になるつもりも毛頭ない。ただの社交辞令である。
しかしこれを耳にした者たちがどう判断するかは、わたしの預かり知らぬこと。ククククッ。
新たな苦悩を抱え込むことになった小太り汗かき中間管理職。ふらふらとした足取りにて去っていった。
ああ見えて、奥さんはおっぱいの大きな美人さんらしいから、せいぜい泣きついて慰めてもらうがいいさ。
0
お気に入りに追加
190
あなたにおすすめの小説
婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが
マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって?
まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ?
※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。
※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。
【完結】身を引いたつもりが逆効果でした
風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。
一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。
平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません!
というか、婚約者にされそうです!
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?三本目っ!もうあせるのはヤメました。
月芝
児童書・童話
世に邪悪があふれ災いがはびこるとき、地上へと神がつかわす天剣(アマノツルギ)。
ひょんなことから、それを創り出す「剣の母」なる存在に選ばれてしまったチヨコ。
辺境の隅っこ暮らしが一転して、えらいこっちゃの毎日を送るハメに。
第三の天剣を手に北の地より帰還したチヨコ。
のんびりする暇もなく、今度は西へと向かうことになる。
新たな登場人物たちが絡んできて、チヨコの周囲はてんやわんや。
迷走するチヨコの明日はどっちだ!
天剣と少女の冒険譚。
剣の母シリーズ第三部、ここに開幕!
お次の舞台は、西の隣国。
平原と戦士の集う地にてチヨコを待つ、ひとつの出会い。
それはとても小さい波紋。
けれどもこの出会いが、後に世界をおおきく揺るがすことになる。
人の業が産み出した古代の遺物、蘇る災厄、燃える都……。
天剣という強大なチカラを預かる自身のあり方に悩みながらも、少しずつ前へと進むチヨコ。
旅路の果てに彼女は何を得るのか。
※本作品は単体でも楽しめるようになっておりますが、できればシリーズの第一部と第二部
「剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?ただいまお相手募集中です!」
「剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?二本目っ!まだまだお相手募集中です!」
からお付き合いいただけましたら、よりいっそうの満腹感を得られることまちがいなし。
あわせてどうぞ、ご賞味あれ。
家に代々伝わる髪色を受け継いでいないからとずっと虐げられてきていたのですが……。
四季
恋愛
メリア・オフトレスは三姉妹の真ん中。
しかしオフトレス家に代々伝わる緑髪を受け継がず生まれたために母や姉妹らから虐げられていた。
だがある時、トレットという青年が現れて……?
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
わたしは出発点の人生で浮気され心が壊れた。転生一度目は悪役令嬢。婚約破棄、家を追放、処断された。素敵な王太子殿下に転生二度目は溺愛されます。
のんびりとゆっくり
恋愛
わたしはリディテーヌ。ボードリックス公爵家令嬢。
デュヴィテール王国ルシャール王太子殿下の婚約者。
わたしは、ルシャール殿下に婚約を破棄され、公爵家を追放された。
そして、その後、とてもみじめな思いをする。
婚約者の座についたのは、わたしとずっと対立していた継母が推していた自分の娘。
わたしの義理の妹だ。
しかし、これは、わたしが好きだった乙女ゲーム「つらい思いをしてきた少女は、素敵な人に出会い、溺愛されていく」の世界だった。
わたしは、このゲームの悪役令嬢として、転生していたのだ。
わたしの出発点の人生は、日本だった。
ここでわたしは、恋人となった幼馴染を寝取られた。
わたしは結婚したいとまで思っていた恋人を寝取られたことにより、心が壊れるとともに、もともと病弱だった為、体も壊れてしまった。
その後、このゲームの悪役令嬢に転生したわたしは、ゲームの通り、婚約破棄・家からの追放を経験した。
その後、とてもみじめな思いをすることになる。
これが転生一度目だった。
そして、わたしは、再びこのゲームの悪役令嬢として転生していた。
そのことに気がついたのは、十七歳の時だった。
このままだと、また婚約破棄された後、家を追放され、その後、とてもみじめな思いをすることになってしまう。
それは絶対に避けたいところだった。
もうあまり時間はない。
それでも避ける努力をしなければ、転生一度目と同じことになってしまう。
わたしはその時から、生まれ変わる決意をした。
自分磨きを一生懸命行い、周囲の人たちには、気品を持ちながら、心やさしく接するようにしていく。
いじわるで、わたしをずっと苦しめてきた継母を屈服させることも決意する。
そして、ルシャール殿下ではなく、ゲームの中で一番好きで推しだったルクシブルテール王国のオクタヴィノール殿下と仲良くなり、恋人どうしとなって溺愛され、結婚したいと強く思った。
こうしてわたしは、新しい人生を歩み始めた。
この作品は、「小説家になろう」様にも投稿しています。
「小説家になろう」様では、「わたしは出発点の人生で寝取られ、心が壊れた。転生一度目は、悪役令嬢。婚約破棄され、家を追放。そして……。もうみじめな人生は嫌。転生二度目は、いじわるな継母を屈服させて、素敵な王太子殿下に溺愛されます。」という題名で投稿しています。
【完結】双子の伯爵令嬢とその許婚たちの物語
ひかり芽衣
恋愛
伯爵令嬢のリリカとキャサリンは二卵性双生児。生まれつき病弱でどんどん母似の美女へ成長するキャサリンを母は溺愛し、そんな母に父は何も言えない……。そんな家庭で育った父似のリリカは、とにかく自分に自信がない。幼い頃からの許婚である伯爵家長男ウィリアムが心の支えだ。しかしある日、ウィリアムに許婚の話をなかったことにして欲しいと言われ……
リリカとキャサリン、ウィリアム、キャサリンの許婚である公爵家次男のスターリン……彼らの物語を一緒に見守って下さると嬉しいです。
⭐︎2023.4.24完結⭐︎
※2024.2.8~追加・修正作業のため、2話以降を一旦非公開にしていました。
→2024.3.4再投稿。大幅に追加&修正をしたので、もしよければ読んでみて下さい(^^)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる