上 下
13 / 81

013 ブチョウ

しおりを挟む
 
 勇者のつるぎミヤビ。大剣である彼女が変じた白銀のスコップを持ち、花壇の手入れに勤しんでいたら、「おねえちゃーん」との声。
 カノンがとてとて駆けてくる。
 勢いよく突っ込んできた愛妹。
 ぽふんとわたしは優しく受け止める。
 日に日に当たりが強くなっているね。スクスク成長している証拠。うれしい反面、もうちょっとゆっくりでもいいのに。そう考えちゃうのは姉のワガママであろうか。

「おねえちゃん! おねえちゃん! 畑にブチョウが来てるよ!」

 飛び跳ねんばかりに興奮しているカノン。「はやくはやく」と急かされ、手を引かれるままについていく。

  ◇

 畑の真ん中にて佇むノッポなトリ。
 岩石のような色味の羽毛。全体が縦長のカラダ。首も足もひょろ長い。目元は切れ長にてまつ毛も長い。でもクチハシだけはぷっくりしている。
 それが器用に一本足立ち。
 しかも風が吹こうが、人が近寄ろうが、微動だにしない。
 置物か? と疑いたくなるほどに不動。
 だが、まごうことなく生きている。

 少し離れたところから、わたしたち姉妹はブチョウの観察を開始。
 しばらくすると背後から土を踏みしめ、何者かが近づいてくる音がした。
 妹はブチョウに夢中なので気がついていない。
 小さなスコップに変じているミヤビが手の中で警戒するも、わたしはこれをなだめる。
 つい先日、里の入り口で拾ってハウエイさんに丸投げした旅の青年だったからだ。

「嬢ちゃんが助けてくれたと呪い師に聞いた。世話になったな、オレの名はホラン」

 わざわざお礼を言いに来たらしい。律儀な旅人だな。たいていは旅の恥は垂れ流して放置なのに。あと、あらためてしげしげ眺めるとなかなかの男ぶり。この分では里のお姉さま方が、裏でさぞかし騒いでいることであろう。
 挨拶もそこそこに、わたしは「気にすんな」と応対。なにせ今はそれどころではない。
 再び視線を畑にいる観察対象へと戻す。
 姉妹の熱心な様子に興味を覚えたのか、ホランは立ち去ることなく、「アレは?」と声をかけてきた。しようがないので教えてあげる。

「あれはブチョウだよ」
「なんだ? その哀愁漂う中間管理職みたいなヘンテコな名前は」
「正式な名前は知らないよ。でもあの落ち着いた雰囲気と佇まい。そしてほどよい草臥れ具合。あと渋い声でありがたいお言葉を口にするから、里の子どもらはみんなそう呼んでいるの」
「いい声? お言葉? あのトリが?」
「そうだよ。おっ、ウワサをすればそろそろかな」

 まるで微動だにしなかったブチョウ。
 その顔がいつの間にかこちらを向いていた。
 長いまつげがピコピコ、ゆっくりと開かれるクチバシ。
 ノドの奥から流れてきたのは、五十代を迎え、酸いも甘いもかみ分けた大人の男の落ち着いた声音。
 そして語られたのは……。

『おっぱいだの、お尻だの、不毛な争いはもうヤメな。それは月と太陽を比べるようなものさ』

 酒場でおっさんどもが集まれば、必ずといっていいほど話題にのぼるお題。
 ときに議論が白熱して、取っ組み合いとなり、血が流れることさえあるという。
 世界各地にて幾度もくり返される悲劇。
 それを食い止める英知を授けてくれたブチョウ。
 やはりできる大人はひと味ちがう。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが

マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって? まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ? ※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。 ※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。

【完結】身を引いたつもりが逆効果でした

風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。 一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。 平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません! というか、婚約者にされそうです!

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

わたしは出発点の人生で浮気され心が壊れた。転生一度目は悪役令嬢。婚約破棄、家を追放、処断された。素敵な王太子殿下に転生二度目は溺愛されます。

のんびりとゆっくり
恋愛
わたしはリディテーヌ。ボードリックス公爵家令嬢。 デュヴィテール王国ルシャール王太子殿下の婚約者。 わたしは、ルシャール殿下に婚約を破棄され、公爵家を追放された。 そして、その後、とてもみじめな思いをする。 婚約者の座についたのは、わたしとずっと対立していた継母が推していた自分の娘。 わたしの義理の妹だ。 しかし、これは、わたしが好きだった乙女ゲーム「つらい思いをしてきた少女は、素敵な人に出会い、溺愛されていく」の世界だった。 わたしは、このゲームの悪役令嬢として、転生していたのだ。 わたしの出発点の人生は、日本だった。 ここでわたしは、恋人となった幼馴染を寝取られた。 わたしは結婚したいとまで思っていた恋人を寝取られたことにより、心が壊れるとともに、もともと病弱だった為、体も壊れてしまった。 その後、このゲームの悪役令嬢に転生したわたしは、ゲームの通り、婚約破棄・家からの追放を経験した。 その後、とてもみじめな思いをすることになる。 これが転生一度目だった。 そして、わたしは、再びこのゲームの悪役令嬢として転生していた。 そのことに気がついたのは、十七歳の時だった。 このままだと、また婚約破棄された後、家を追放され、その後、とてもみじめな思いをすることになってしまう。 それは絶対に避けたいところだった。 もうあまり時間はない。 それでも避ける努力をしなければ、転生一度目と同じことになってしまう。 わたしはその時から、生まれ変わる決意をした。 自分磨きを一生懸命行い、周囲の人たちには、気品を持ちながら、心やさしく接するようにしていく。 いじわるで、わたしをずっと苦しめてきた継母を屈服させることも決意する。 そして、ルシャール殿下ではなく、ゲームの中で一番好きで推しだったルクシブルテール王国のオクタヴィノール殿下と仲良くなり、恋人どうしとなって溺愛され、結婚したいと強く思った。 こうしてわたしは、新しい人生を歩み始めた。 この作品は、「小説家になろう」様にも投稿しています。 「小説家になろう」様では、「わたしは出発点の人生で寝取られ、心が壊れた。転生一度目は、悪役令嬢。婚約破棄され、家を追放。そして……。もうみじめな人生は嫌。転生二度目は、いじわるな継母を屈服させて、素敵な王太子殿下に溺愛されます。」という題名で投稿しています。

【完結】双子の伯爵令嬢とその許婚たちの物語

ひかり芽衣
恋愛
伯爵令嬢のリリカとキャサリンは二卵性双生児。生まれつき病弱でどんどん母似の美女へ成長するキャサリンを母は溺愛し、そんな母に父は何も言えない……。そんな家庭で育った父似のリリカは、とにかく自分に自信がない。幼い頃からの許婚である伯爵家長男ウィリアムが心の支えだ。しかしある日、ウィリアムに許婚の話をなかったことにして欲しいと言われ…… リリカとキャサリン、ウィリアム、キャサリンの許婚である公爵家次男のスターリン……彼らの物語を一緒に見守って下さると嬉しいです。 ⭐︎2023.4.24完結⭐︎ ※2024.2.8~追加・修正作業のため、2話以降を一旦非公開にしていました。  →2024.3.4再投稿。大幅に追加&修正をしたので、もしよければ読んでみて下さい(^^)

剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?二本目っ!まだまだお相手募集中です!

月芝
児童書・童話
世に邪悪があふれ災いがはびこるとき、地上へと神がつかわす天剣(アマノツルギ)。 ひょんなことから、それを創り出す「剣の母」なる存在に選ばれてしまったチヨコ。 天剣を産み、これを育て導き、ふさわしい担い手に託す、代理婚活までが課せられたお仕事。 いきなり大役を任された辺境育ちの十一歳の小娘、困惑! 誕生した天剣勇者のつるぎにミヤビと名づけ、共に里でわちゃわちゃ過ごしているうちに、 ついには神聖ユモ国の頂点に君臨する皇さまから召喚されてしまう。 で、おっちら長旅の末に待っていたのは、国をも揺るがす大騒動。 愛と憎しみ、様々な思惑と裏切り、陰謀が錯綜し、ふるえる聖都。 騒動の渦中に巻き込まれたチヨコ。 辺境で培ったモロモロとミヤビのチカラを借りて、どうにか難を退けるも、 ついにはチカラ尽きて深い眠りに落ちるのであった。 天剣と少女の冒険譚。 剣の母シリーズ第二部、ここに開幕! 故国を飛び出し、舞台は北の国へと。 新たな出会い、いろんなふしぎ、待ち受ける数々の試練。 国の至宝をめぐる過去の因縁と暗躍する者たち。 ますます広がりをみせる世界。 その中にあって、何を知り、何を学び、何を選ぶのか? 迷走するチヨコの明日はどっちだ! ※本作品は単体でも楽しめるようになっておりますが、できればシリーズの第一部 「剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?ただいまお相手募集中です!」から お付き合いいただけましたら、よりいっそうの満腹感を得られることまちがいなし。 あわせてどうぞ、ご賞味あれ。

【短編】悪役令嬢と蔑まれた私は史上最高の遺書を書く

とによ
恋愛
婚約破棄され、悪役令嬢と呼ばれ、いじめを受け。 まさに不幸の役満を食らった私――ハンナ・オスカリウスは、自殺することを決意する。 しかし、このままただで死ぬのは嫌だ。なにか私が生きていたという爪痕を残したい。 なら、史上最高に素晴らしい出来の遺書を書いて、自殺してやろう! そう思った私は全身全霊で遺書を書いて、私の通っている魔法学園へと自殺しに向かった。 しかし、そこで謎の美男子に見つかってしまい、しまいには遺書すら読まれてしまう。 すると彼に 「こんな遺書じゃダメだね」 「こんなものじゃ、誰の記憶にも残らないよ」 と思いっきりダメ出しをされてしまった。 それにショックを受けていると、彼はこう提案してくる。 「君の遺書を最高のものにしてみせる。その代わり、僕の研究を手伝ってほしいんだ」 これは頭のネジが飛んでいる彼について行った結果、彼と共に歴史に名を残してしまう。 そんなお話。

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

処理中です...