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月芝

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002 勇者のつるぎ

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 目の前に浮かんでいる白銀の大剣。
 秋の収穫祭のおり、ポポの里に招かれた奇術師が似たような芸を見せてくれたが、アレとはちがってタネも仕掛けもありゃしない。
 いや、待てよ。
 もしかしたら田舎娘が知らないだけで、世間ではこれがふつうなのかもしれない。
 ビュンビュン剣が往来を飛び交っているのかも。あらいやだ、都会、超おっかない!
 なんぞとブツブツつぶやいていたら、白銀の大剣が「ちがいますわ」と否定した。

「ふつうの剣は浮かびませんし、言葉も発しません。これはわたくしが『剣の母』たるチヨコ母さまから生まれた、特別な『勇者のつるぎ』だからなのですわ」

 そして語られる衝撃の真実!
 なんと「剣の母」とは、天剣(アマノツルギ)なるすごい武器を産み出す存在として、神さまに選ばれた者のこと。
 だがしかーし、母を冠するのは伊達ではない。
 産みっぱなしなんて許されない。
 責任をもって育てるのは当たり前。また特別なチカラを持った我が子にふさわしい担い手を探し、よくよく人物を見極め、両者の仲をとりもつ使命が課されている。いわゆる婚活というものである。
 なお、この崇高なる責務を果たさないかぎり、自身の運命の赤い糸が誰かと結ばれることはけっしてない。神々が全力で阻止するという。
 ヒデぇ!

  ◇

 のっぴきならない事態に陥ってしまった。
 そのことを理解したところで、勇者のつるぎがモジモジ。「名前をつけて欲しい」とおねだり。
 世に産まれ、自我を持つのならば、たとえ剣の身とてコレを欲するのは至極当然。
 しばし思案の末に、わたしは「キレイだし、神々しいし、高貴っぽいから『ミヤビ』なんて、どうかな?」

 ひねり出した名前を告げると、勇者のつるぎはしばし沈黙。
 のちに刀身がぷるぷる震え、カチャカチャ鍔鳴り。

「ミヤビ、それがわたくしの名前……。ステキですわ! ありがとう、チヨコ母さま、大スキ!」

 勇者のつるぎミヤビ、おおいに喜ぶ。
 興奮のあまり屋内にもかかわらず、めっちゃはしゃぐ。イヌの尻尾のごとくブンブン!
 でも彼女の剣身は、大人の男性の背丈ほどもある立派なもの。
 とっさに床へと伏せて難を逃れたものの、危うくわたしは細切れにされるところであった。
 そして騒ぎを聞きつけ駆けつけた父母妹らが凶器乱舞を目撃。
 そろって「ぎゃーっ!」

  ◇

 朝っぱらから刃傷騒ぎ。
 ひと悶着あったものの、どうにか互いの自己紹介を済ませる。
 父母妹の中で、もっとも先に飛んでる剣を受け入れたのは母アヤメ。
 なにせ母アヤメの才芽は「すこやか」にて、精神耐性が尋常ではない。不動不屈の魂は、「よろしくね、ミヤビちゃん」と超常の存在をあっさり受け入れた。
 妹カノンもまたそんな母の薫陶ゆえか、奇々怪々な現象を目の当たりにしても、「おねえちゃん、スゲー! 勇者のつるぎ、カッコイイ!」と単純に喜ぶ。
 顔を引きつらせていた父タケヒコは「チヨコの子ということは、オレにとっては初孫になるのか」と意味不明なことをつぶやいていたが、まぁ、これは気にしなくていいだろう。
 かくして我が家が落ち着いたところで、神父さまが来訪。
 しばし勇者のつるぎをナムナム拝んでから、あらためて居住まいを正し「チヨコよ」
 マジメに語りだしたのは、今後のことについて。

「『剣の母』の才芽を持つ者が出現したことは、さすがに中央へ報せねばならぬ。追って連絡がくるだろうが、おそらくチヨコは聖都に召喚されることになろう。いざという時にあわてぬように、準備を整えておいてくれ」

 それだけ言うと神父さまは帰っていった。
 聖都とは、わたしたちが暮らす神聖ユモ国の中心地。
 国で一番大きな都で、一番えらい皇(スメラギ)さまが住むところ。
 いわゆる大都会である。ポポの里からだと片道三十日以上かかる。
 なおわたしは生まれてこのかた、里から一日半の距離にあるタカツキの街までしか足を運んだことがない。だから聖都なんて完全に別天地。存在すらもちょっと疑っているほど。
 そんなところに行かねばならぬとは、めんどうくさい。

「おっくうだなぁ」
 わたしがつぶやくと、ミヤビが「だったら行かなければいいだけですわ」
「えっ! でも、勇者さまを探さないといけないんじゃないの?」

 てっきり剣の持ち主にふさわしい人物を探す旅とかに出て、観光しながら名産品なんぞにて舌鼓をポンポコ。各地をウロウロさせられるのかと思っていたのだけれども。
 しかしミヤビの考えはちがうようである。

「チカラを望むのならば艱難辛苦を経て、とりに来るのが筋というもの。『欲しいのならばそっちが来やがれ!』ですわ」

 女に貢いでもらおうとか、そんな浅ましいへっぽこ野郎、こっちから願い下げ。
 ミヤビの意見に妹と母も同調。「そうだそうだ」「ヒモ男、死すべし」
 父にしたって「甲斐性なしに、うちの孫娘はやらんぞ」とフンスカ。
 言われてみると、そんな気がしなくもない。
 確かに一理ある、のかな?
 まぁ、この先どうなるかは中央の出方次第だけどね。


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