おじろよんぱく、何者?

月芝

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1029 のべつまくなし

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 真夜中に高月中央商店街を疾走するふたつの影――。
 ひとつは白いタキシード姿の怪盗ワンヒール、これを追うのはオフロードバイクに化けたおれに跨っているタヌキ娘の芽衣だ。
 なかなか追いつけないのはヤツが履いている特殊なシューズのせい。
 モーター内蔵のローラーブレードにて、スピードスケートの選手ばりに速度が出るうえに、フィギュアスケートの選手ばりに小回りが利く。

「はーっ、はっはっはっはっ」

 うっとりしそうなバリトンボイスのヤツの高笑いが、夜の商店街に木霊する。
 これを打ち消すようにして、ブゥオンとバイクが吠える。

「くそっ、以前よりシューズの性能が段違いに良くなっている!」
「どうせインソールが魔改造したんでしょう! あの野郎、今度あったらとっちめてやるんだから」

 インソール、正式名称は怪人インソールダブルエックスにて、女性の靴の中敷きに異様な執着をみせるド変態である。無駄に知能が高く、技術もあって、準未来科学を阿呆なことに使っている困ったさん。
 まあ、それはさておき。
 いかに高性能なローラーブレードとはいえ、直線ではやはりバイクに軍配があがる。

 通りに出されている店のゴミのはいったポリバケツを撥ね飛ばし、邪魔な路駐自転車らを薙ぎ倒し、ふらつく酔っ払いをびびらせ、夜回り中であった商会長さんには「こらーっ!」と怒鳴られ、たまさかいた野良猫より「シャーッ!」と威嚇されるのもお構いなしに突き進み、ついにおれたちはヤツを射程圏内に捉えたところで――。

「のびよ、しらたきさん!」

 逃げる怪盗ワンヒールを捕縛すべく、白い腕の怪異がうにょ~ん。はっしと掴んだのはバサバサ優雅にたなびくマントの端である。これを引っ張り、ヤツが「ぐえっ」となって倒れたところを、いっきに仕留める。
 はずであったのだが、怪盗ワンヒールはあっさりマントを放棄したもので、逆にこちらが肩透かしを喰らって、カクンとなった。
 そのせいでせっかく縮まっていた距離が、またちょっと開いた。
 かとおもえば、白いタキシード姿が不意に視界から消えた。でも実際に消えたわけじゃない。急に道を左に折れたせいで、うしろにいるおれたちからはそう見えただけのこと。
 よっておれたちも左折しようとするも、こちらはバイクである。しかもけっこうな速度でかっ飛ばしているもので、急カーブは曲がり切れそうにない。でも減速をすれば、きっと撒かれていつもの二の舞になるだろう。

 だが今夜のおれたちはひと味ちがう!
 カーブへと突入する直前、ふたたびのびたのはしらたきさんである。彼女が掴んだのは曲がり角に設置されてあった道路標識である。
 芽衣はバイクのハンドルを思い切り左へと切った。
 とたんにバイクが急旋回にて、カーブを強引にねじ伏せる。
 減速するどころか、遠心力にてより加速し、オフロードバイクは疾駆する。
 これにより、おれたちは怪盗ワンヒールをあと一歩というところまで追い詰めたのだけれども、そこでおもわぬ邪魔が入った。

 ピーッ、ピッ、ピッ、ピッ。

 鋭い警笛音が鳴り響く。
 光る誘導棒を持った多数の制服警官が立っており、「お客さん、いらっしゃ~い」とやっていたのは、交通違反の取り締まり検問であった。
 世相がざわついているせいか、この頃煽り運転やら、飲酒運転、速度超過などが目に見えて増えている。それを抑止するために行われているのが、これであった。
 やられた!
 怪盗ワンヒールは今夜、ここで検問が張られることを知っていて、わざとおれたちを誘導したんだ。

 おれたちが愕然としていると、ここで登場したのはカラス女こと安倍野京香であった。

「ったく、どこの阿呆どもが騒いでいるのかとおもったら、やっぱりおまえたちだったか……」
「阿呆はどっちだよ! せっかくあと少しだったのに」
「そうですよ。どうせ取り締まるんだったら、わたしたちじゃなくてアイツを捕まえてよ!」
「あぁん? イヤだよ、めんどうくさい。それに今夜の私はあくまで交通課の助っ人だ。というわけで、えーと……速度超過に暴走行為、一旦停止の無視に公共の器物破損、その他もろもろで――おめでとう芽衣、一発免停だ」

 免許取得一日で免停を喰らったタヌキ娘は「あんぎゃー!」と悲鳴をあげた。

「それからあとは……四伯、はいコレ」

 渡されたのは反則切符と請求書である。
 しめて六十萬円也。なお内訳は速度超過の罰金が十万円で、道路標識をひん曲げて壊した分が修繕費用込みで五十万円であった。
 おれこと尾白四伯も「あんぎゃー!」

 探偵と助手は頭を抱え、女刑事はタバコをふかし、風に乗ってかすかに聞こえるのは遠ざかる怪盗の笑い声。
 かくして世はのべつまくなし。
 世知辛くも愉快で賑やかな高月の夜は更けていく。



―― おじろよんぱく、何者? (完)――


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感想 610

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みんなの感想(610件)

荒谷創
2023.03.12 荒谷創

咄嗟に自転車にシフトしなかったのは失敗だったねぇww

あと、乗っていたのはあくまでも『動物』である尾白探偵なので、道路交通法の取り締まり対象であるバイクには当たらない。
だって、車検No.すらない生物(なまもの)だからね。
ま、危険運転だったのは確かなので、今後の教訓にしたまえw

変態集う高月には、尾白探偵達が必要なのだから、仲良く喧嘩しながら、末永くドタバタしてくださいな♪

解除
荒谷創
2023.03.11 荒谷創

この場合は追い縋って取り押さえるのはほぼ不可能なので、目指すべきは『追い込み漁』です。
ゴール地点にUFOさん待機させとけば良いですよ。

解除
荒谷創
2023.03.10 荒谷創

宇宙人さん達がいつから高月に潜伏しているのかは判らないが、結構前から地球を監視/観察はしているんだろう。
尾白探偵が拾われた時期ははっきりしている。
場所は判然としないが、拾われた地点に漂流物が流れ着く海域は、ある程度絞る事は可能。
時期と場所からまだ化け術を修得していない珍獣一匹が生存していられる範囲は、100平方キロメートル内が精々とにいったところの筈。
地球観測データから精査してみれば、地磁気や重力波の異常とか、その位置から見て惑星や恒星などの方角(星辰)の整い方なんかも確認すると良いかも。
なんか、鬼の御大とか綾ちゃん先生の中のナニカさんとかなら、何か知ってそうな気もするけどね。



解除

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