おじろよんぱく、何者?

月芝

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1027 キャトルミューティレーション

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 ぎゅーん! 芽衣は鉄砲玉のように夕方の商店街を駆けていく。
 途中、顔馴染みから声をかけられるも適当に手を振って応え、先を急ぐ。
 その後からドタバタ、タエちゃんらも続く。

 芽衣が雑居ビルへと到着したら、入り口のところに葉巻をくわえた山姥――もといビルのオーナーである花伝美咲がいた。箒片手にちょいと表を掃いていた。

「おや芽衣、お帰り。にしても残念だったねえ大会が駄目になっちまって。せっかくの優勝賞金やら賭け金がパァになったんだろう」
「そんなことより、四伯おじさんは!」
「四伯? ああ、あいつならさっき客を――」

 最後まで聞くことなく、ふたたび駆け出した芽衣はエレベーターではなくて、階段の方へと向かうと、一段飛ばしにてずんずんのぼっていった。
 後続の面々もすぐにこれを追う。
 なんとも慌ただしい帰参に花伝オーナーは「ぷはぁ」と煙をふかし肩をすくめる。

「やれやれ、ようやく帰ってきたとおもったら、いきなりこれかい。ったく、やかましいったらありゃしない」

  ◇

 階段をいっきに駆け上がり、四階へと到達する。
 バタンと勢いよく開かれたのは探偵事務所の扉である。気が急くあまり、安倍野京香みたいに、ついドアを足蹴にしてしまったのはご愛敬。

「四伯おじさんっ!」

 息せき切って飛び込んだ芽衣、だがその場でピキリと固まった。
 なぜなら来客用のソファーにて、金髪美女に馬乗りにされているおっさんの姿を目撃したからである。
 漬け込んだオリーブの実の色をしたジャケットを床に脱ぎ散らかし、シャツの胸元が乱れ、ズボンのベルトも外され、社会の窓も半開き……。

 芽衣は無言に拳をぎゅっと握って、わなわなわな。
 そこへ追いついたタエちゃんたち。タヌキ娘越しに室内の不埒なご乱行の様子を目撃するなり、するりと顔から表情が抜け落ちて小面(こおもて)の能面のようになった。

 タエちゃんは無言のままボキボキと拳を鳴らす。
 トラ美は無言のまま、右腕を獣人化して、じゃきんと白爪を生やした。
 零号は無言のまま、五寸釘を箱ごと左腕にセットしてはクギガンの弾を補充する。

 遅まきながらこれに気がついたおれこと尾白四伯は「ちょ、ちょっと待て! おまえたちはとんでもない誤解をしている。こ、こいつは――」

「問答無用っ!」
「くたばれ、破廉恥野郎!」
「この浮気者っ!」
「……最低です」

 蒼光閃きタヌキ娘の拳が唸り、トラ女が猛り吠え、ヘビ娘が関節を極め、ロボ子の左腕が火を噴く。
 吹き荒れる罵倒と破壊の嵐にて、ドッタンバッタン!
 これによって尾白探偵事務所は半壊し、雑居ビルの四階の外壁には大穴があいて、もうもうと煙が立ち昇り、「すわ、ガス爆発か!」と慌てた花伝オーナーが消防に連絡したもので、ウーウーとサイレンを鳴らしながら複数の消防車が駆けつける騒ぎとなった。
 でもって「またお前たちか! いい加減にしろっ」と消防の人たちから、しこたま怒られた。
 代表としておれがね!
 うぅ、暴れたのはおれじゃないのに……くすん。

  ◇

 風通しがすっかりよくなった事務所にて。

「で、四伯おじさんってば、どうやって戻ってきたの? あとそちらさんはどこのどなた?」

 あらためて芽衣たちから詰問された。あれだけ暴れたというのに、女性陣はまだちょっとイラついている。
 おれが金髪美女の方をチラ見すれば、彼女はコクンとうなづく。
 許可が下りた。
 おれはかいつまんで帰還の経緯を説明する。

「あー、なんていうか飛ばされた先で、たまさかそこに居たUFOにごつんとぶつかって、『何しとんじゃわれ。立派な物損事故やぞ、ちょっと来いや』とアブダクションされて、なんやかやと取り調べがてら、キャトルミューティレーションもされて、検査にて抜いた内蔵なんかを戻すついでに怪我を治してもらってから、現地駐在所経由にて『ただいま~』みたいな」

 アブダクションとは、宇宙人に連れ去られることである。
 キャトルミューティレーションとは、血や内臓なんかをごっそり抜かれちゃうことである。
 どちらも世界中で多発しており、某大国では専門の調査機関を設けているんだそうで、今世紀最大のナゾのひとつとされているとかいないとか。

「いやぁ、たまにオカルト番組とかで見かけてはいたけど、まさか自分が体験するとはおもわなかったな、あっははははは。
 ちなみに彼女は連中の仲間だぞ。助けてもらったお礼というか、今回の物損事故をチャラにするかわりに、依頼を受けることになった。あとこちらさん、見た目はこんなのだけど擬態だから。本当の姿は――」
「尾白さん、それは禁則事項です」

 ぴしゃりと遮られて、おれはあわてて口を噤む。
 そして芽衣たちからは「ごめん、あまりにもツッコミどころが多すぎるから、ちょっと待って」と言われた。
 なお、さっき金髪美女に擬態した宇宙に馬乗りにされていたのは、おれが珍獣だからだ。
 UFOので検査の結果、宇宙レベルで該当する遺伝子がないことが判明する。とはいえ、宇宙は広大なので、あくまで彼らの認知している宙域での話ではあるけれども。
 これを受けて彼女はみずから現地駐在員として志願した。
 どうやら彼女も光瀬菜穂と同類のようだ。

「さぁ、白状なさい。おじろよんぱく、あなたはいったい何者なの?」

 と組み伏せられて、おれが「さぁ?」と答えていたのが先のシーンの真相なのであった。


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