おじろよんぱく、何者?

月芝

文字の大きさ
上 下
1,017 / 1,029

1017 マンモスとタヌキ 序

しおりを挟む
 
 ウルが拳を振るうたびにもの凄い唸り音が鳴る。
 蹴りを放てば軌道上のもろともを吹き飛ばし、ドンッと踏みしめれば地面が上下に揺れる。
 一打一打が重く、速く、それでいて打撃の面積が広い。
 まるで至近距離にて巨砲から砲弾が次々と放たれるかのよう。
 そんなシロモノから狙われ続ける芽衣は、狙いを定められないようにちょこまか、瞬足ぶりを活かして動いては、隙をみて反撃を試みる。
 ウルもまた蛾舎泰造と同じく、特定の武の流派を持っていない。
 日常が武であり、常在戦場にて、すべての動作が攻撃となるタイプであった。それに獣人化を織り交ぜた独自の戦闘スタイルである。
 ただし、さしものウルも完全獣人化は無理らしく、使用はもっぱら部分的に限定されていた。

 戦場をジグザクに走る雷光が唐突に直角に折れた。
 素早く側面に移動してから、タヌキ娘が跳びかかる。
 これをウルは拳で迎え撃つ。

 ガンッ!

 蒼光を帯びた芽衣の拳とウルの拳が正面からぶつかった。
 一瞬の拮抗の後にじりりと後退したのは芽衣の方である。
 拳の威力はともかく体格差のせいだ。豆タヌキとマンモスとでは、重量さがあまりにもあり過ぎる。
 このままでは押し負けると判断した芽衣は踏ん張らない。押し寄せる圧力を受け入れ、後方へと受け流す。
 轟っと衝撃が脇を抜けた。
 威力を殺し切れなかった芽衣のカラダがバレリーナのようにくるくる回る。
 それを叩き潰そうとウルが第二打を放つ。拳を固く握ってはハンマーのごとく打ち下ろす。
 だが、芽衣は持ち前の身軽さを活かして、ぴょんと跳ねてこれをもかわした。
 大振りの一打をはずしがら空きとなったウルの脇腹。

「狸是螺舞流武闘術、破の型 影揚羽っ!」

 放たれるは掌底による連撃、一の衝撃にて体内に波紋を生じ、二の衝撃にてこれを増幅する。これが、さざ波。いかに強固な筋肉と脂肪の鎧を着ていようとも、問答無用で内部を破壊のエネルギーが浸蝕するおそろしい技。
 影揚羽はそんなさざ波の強化版にて、合わせた手の形状が影遊びの蝶々のようであるからそう名づけられたものの、ひらりと舞う姿とは裏腹に秘められた破壊力は苛烈極まる。
 だがしかし――。

「えっ、うそでしょう」

 大きく目を見開き芽衣はつぶやかずにはいられない。
 奥義はたしかに決まった。がっつり手ごたえがあった。
 巨漢かつ頑強さを誇るクマや鬼たちをも沈めてきた必殺技である。しかもいまは唯我独尊状態にて悶々パワー全開だ。
 それをまともに受けたというのに、ウルはほんの少し身じろぎしただけであった。

「悪くない一撃だ。だが、まだ足りぬ。その程度では我の膝をつくことは叶わぬぞ!」

 その言葉が終わるやいなや、芽衣のカラダが吹き飛んだ。
 ウルの前蹴り。ただし通常の刺さるような蹴りとは違う。刹那に獣人化が発動。足のサイズが直径二メートルほどにもなる巨人の蹴り。
 急行列車に轢かれたかのような衝撃に、芽衣の全身がみしりと厭な音を軋ませた。
 タヌキ娘の身が盛大に宙を舞い、弧を描いて落ちたのは、灼熱の地底湖の小島と岸辺を繋ぐ一本道の上であった。

 かろうじて受け身をとり、ダメージを軽減させた芽衣であったが、立ち上がったとたんに「がはっ」と喀血をした。ウルの蹴りで肺か気管支を傷つけられたらしい。ケホケホ空咳にて、ぜぇぜぇと呼吸が乱れ、肩で息をする。その度に胸部から腹部にかけてズキンと鈍痛が起こる。折れてはいないけれども、アバラにヒビが入ったか。

「くっ、ドジった。あんなのをまともに喰らうだなんて」

 芽衣は口元についた血を手の甲で拭う。
 軽量級にて、機動力こそが武器である芽衣にとって、呼吸の乱れは深刻だ。
 いまいる場所も最悪だった。細い一本道で左右は煮えたぎるマグマに埋め尽くされている。
 獣人化することで点の攻撃が面の攻撃となるウル、その一撃の範囲は広い。
 こんな狭い場所では満足にかわせない。早々に捉えられて押しつぶされてしまう。もしくはマグマの中に押し出される。
 ならばいっそのこと一本道を抜けて岸辺まで退くか?
 いや、ダメだ。それはできない。自分が後退すれば、ウルはすぐに反転し尾白たちを強襲するだろう。
 ここが自分に許されたデッドライン……芽衣は覚悟を決め、前へと踏み出す。
「ほぅ」と目を細めたウルもまた芽衣へと向けて悠然と歩きだした。


しおりを挟む
感想 610

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います

ゆさま
ファンタジー
美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされ、生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれてしまった、ベテランオッサン冒険者のお話。 懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

公主の嫁入り

マチバリ
キャラ文芸
 宗国の公主である雪花は、後宮の最奥にある月花宮で息をひそめて生きていた。母の身分が低かったことを理由に他の妃たちから冷遇されていたからだ。  17歳になったある日、皇帝となった兄の命により龍の血を継ぐという道士の元へ降嫁する事が決まる。政略結婚の道具として役に立ちたいと願いつつも怯えていた雪花だったが、顔を合わせた道士の焔蓮は優しい人で……ぎこちなくも心を通わせ、夫婦となっていく二人の物語。  中華習作かつ色々ふんわりなファンタジー設定です。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

処理中です...