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1015 モグラの一穴
しおりを挟む目で合図を送り、タイミングを合わせておれたちは一斉に動き出す。
最初に反撃の狼煙をあげたのは芽衣である。
うつ伏せの体勢のまま、両手をついてはぐりんと身を回してのローキックを放つ。
狙うは脇に立っているウルの足首だ。
背後からアキレス腱を断ち切るかのようにして振るわれた蹴撃。
だがウルはちらりともせずに、ひょいと足を持ち上げて不意打ちをかわす。
けれどもこれは想定内、片足立ちとなったところで前方より、ダダダダダッ!
火を噴いたのは零号のクギガンである。連射された五寸釘が飛び迫り、不安定な状態のウルへと襲いかかる。
が、ひらりゆらり。
片足立ちのウルの身が左右に揺れては、飛んできた五寸釘を苦も無く避ける。
なおも射撃を続けようとする零号であったのだが……。
カチ、カチ、カチ――。
唐突に射撃が止んだ。
弾切れである。それとともに、構えていた左腕がプスプスと白煙をあげはじめる。
シリウスとの戦闘で破損していた左腕がついに限界を迎えたのだ。
その姿にウルが嘲りの笑みを浮かべるも、その表情がすぐに訝しむものへと変わった。
プシュッ。
不意に空気が抜けるような音がして、零号の左腕の肘から先がはずれたからである。
分離された左の前腕部分が地面に落ちて、ごとりと音を立てた。
と、ここで零号はおもむろに右脚を後方へと振り上げる。ピンとつま先をのばし、高らかに足を持ち上げ、前傾姿勢にて背中を反らせる様は、さながら尻尾をおっ立てた砂漠のサソリのごとし。
メイド服のロングスカートの裾をはためかせ、おみ足が豪快に振り抜かれる。
繰り出されたのは全力シュート!
勢いよく蹴り飛ばしたのは、足下に転がる自身の左前腕パーツである。
見事に重心を捉えたキックにより、腕はギュルギュルと激しく回転しながら、一直線にウルの顔めがけて飛んでいく。
よもや、そんなモノを蹴り飛ばしてくるとは思わなかった。
さしものウルも意表突かれて反応が遅れた。
だからかわすのではなくて、手で打ち払う。
「ふんっ、こんなもの」
飛んできた腕をウルは鼻で笑いながらはじき飛ばす。
だが次の瞬間、ウルは大きく目を見開いた。
「なんだと!」
払いのけたアニマルメイドロボの左腕のすぐうしろから隠れるようにして、間髪入れずに続いていたのはタヌキ娘の左足の甲である。
先の地を這うような蹴撃をかわされた芽衣は、その場でカラダを丸めてブレイクダンスの要領にてくるくるまわり、勢いもそのままに零号のシュートにタイミングを合わせて跳ね起き、ハイキックを見舞ったのである。
零号にばかりかまけていたウルは、ほんの束の間だが、芽衣のことを完全に忘れていた。
ウルは「ちぃ」と舌打ち、とっさに後方へとのけ反り、芽衣の蹴りをやり過ごそうとする。
だがしかし、ここでグンっと芽衣の蹴りが急加速して手元でのびた。
倒れていた間も、芽衣は無意識のままに唯我独尊状態を継続していた。それはすぐ側に難敵がいるがゆえの防衛本能によるもの。
そしてこの状態の芽衣はパワー、スピード、技のキレが格段にアップしている。
バンっと重たい衝突音が轟き、顔面に蹴りを受けたウルのカラダが吹き飛んだ。
一方、それを尻目におれが何をしていたのかというと……。
「えっさ、ほいさ」
シリウスを抱えて駆け寄ったのはコントロールパネルのところ。シリウスの指示通りに配線をちゃかちゃか急いで繋ぐ。
「どうにかなりそうか?」
「……なんトカ。だがいまのワタシの状態では、さほどのエネルギー量は動かせヌゾ」
零号との決戦時にシリウスは周囲からエネルギーを吸収して変換し使用するという荒業をやってのけた。それを使って小細工を仕掛ける。
とはいえ動かせるのは微々たるもの。
例えるならば、開封したばかりのつまようじのケースの中から、一本だけ抜くようなものとのこと。
だが、それだけでもアリの一穴を穿つには十分のはず。
加えてこちらにはパカパカ仙人から託されたガラケーもある。モグラの一穴ぐらいになったらいいな。
「というわけで、あとはこいつを、こうしてっと」
おれはガラケーを地球さんに刺されたぶっとい注射針の側面に固定する。
あいにくと接着剤やテープなんてものはなかったけれども、ジャケットの内ポケットに放り込んであったのど飴が、一帯の高温のおかげでいい塩梅に溶けてねちゃねちゃになっていたので、これで代用する。
ここにエネルギーを誘導して、盛大にちゅど~んと爆ぜさせようというのがおれの目論みである。
「よし、じゃああとは頼んだぞ」
こちらはシリウスにまかせて、おれは急ぎ零号のもとへと向かった。
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