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1007 地獄の釜の蓋パート2
しおりを挟むまた地獄の釜の蓋が開いた。それも盛大にパッカーンとね。
開けたのはシリウスと零号である。
滅びと殲滅の破壊光線VS雷龍の咆哮。
高エネルギーを集束させたもの同士をぶつけ合えば、ただで済むわけがない!
まばゆい閃光……、とても目を開けてはいられない。
おれこと尾白は光源から背を向けるも無駄であった。どれだけ固く瞼を閉じても、隙間からどんどんと光が流れ込んでくるばかりか、瞼そのものが透けてしまい、ほとんど役に立ちやしない。次いで音や他の感覚も遠くなった。
白が浸蝕しては、内も外もすべてが白に染まる。
気がついたときには落下が始まっていた。
フロアの底が抜けたのだ。
宮本めざしが炎龍の剣でやらかしたのと同じである。
降り注ぐ瓦礫が雪だるま式に膨れ上がっては、次の階の床をもぶち抜き、さらに勢いと質量を増して、次のフロアへと襲いかかり食い破り、また次へと……。
降り注ぐ瓦礫の滝が、逆さ塔の内部を抉っていく。
さなかのこと、おれの身がぐいっと引かれた。
薄目を開けてみれば、それはのびた白い手だった。おれに憑いているしらたきさんが、成す術なく落ちるままであったおれと芽衣を守ろうと、懸命に腕をのばしては瓦礫の合間を行き来して、巻き込まれないようにとがんばってくれていたのである。
もしもしらたきさんが助けてくれなかったら、とっくに瓦礫に巻き込まれて押し潰れてお陀仏になっていたことであろう。
おれは感謝しつつ、声を張りあげる。
「零号ーっ、無事かーっ?」
するとさほど離れていないところから、「どうにか」という返事が聞こえたものでほっとする。
おれは零号に向けて叫ぶ。
「このままだと長くはもたない。即席シェルターに化けるから、こっちへ来れるか」
「……すみません。それは少々難しいかと」
戻ってきたおれの視界に映ったのは、零号の窮状であった。右腕を失い、左腕がボロボロになっている。そんな腕で抱えていたのはシリウスの首だけになった上半身である。
無茶をした反動と撃ち合いに敗れたがゆえ……、シリウスはひどいあり様だ。
零号は自身も傷つき、全体の機能および出力も低下している状態で、荷物を抱えている。
いかにハイスペックを誇るアニマルメイドロボとはいえ、自力での脱出が困難なのは明らか。
だからおれは「そんなもん捨てちまえ!」と言いたかったが、千切れかけの腕で妹機を抱いている零号の姿を前にすると、何も言えなくなってしまった。
と、ここでまたしても救いの手ならぬ、白い手をのばしてくれたのはしらたきさんであった。
しゅるしゅると瓦礫の合間を縫っては、零号のもとへと手をのばし、その身をシリウスごとグルグル巻きにしては、これを引き寄せる。
うちの第二助手、マジで優秀!
というわけで、どうにか零号たちと合流できたところで、おれは「変化!」
ドロンと化けたのは淡い琥珀色をした球体である。
本日、初お披露目のこいつはロンズデーライト製だ。
さて、諸兄方に質問です。
固い物質と問われて、ぱっと思いつくのは何でしょう?
いろいろ思いつくだろうが、もっとも多いのはダイヤモンドであろう。
とってもカチンコチンにて永遠の輝き。宝石の王さま。最強の炭素の同位体……。
ロンズデーライトもまたダイヤモンドと同じく炭素の同位体である。
ただし、こちらは六方晶形をしており、その硬度は通常のダイヤモンドの上をいく。
なにせこのロンズデーライトときたら、すごいんだもの。
隕石が地球にぶつかって、ドッカーン!
この時に生じた圧力や熱によって、内部のグラファイトが変化することで生まれる。
それがロンズデーライトなのである。
なおグラファイトとは炭素からなる元素鉱物のこと。石墨とも呼ばれかつては硬筆なんかに使われていた。
まぁ、ぐだぐだとうんちくを述べたが、とどのつまりはダイヤモンドよりもカッチカチンということである。
普通はまずお目にかかれない、とっても希少な鉱物である。
だが幸運にもおれは実物を目にしたことがあった。
かつて高月の兎梅デパートが主催した「超古代展」というイベントがあった。
聚楽第の総帥ウルと遭遇して、高月が誇る猛者どもが総がかりでどうにかお引き取りしていただいた、あのイベントである。
氷漬けの本物のマンモスが一番の売りだったのだが、その会場の片隅にてひっそりと展示されてあった、豆粒みたいな石っころ。それこそがロンズデーライトの欠片であったのだ。
見て、知って、実物に触れるとなおいっそう……。
理解を深めるほどにおれの化け術は完成度を増す。
ここのところ敵味方のパワーインフレがひどく、チタン合金がちょっと心許なくなってきていたので、密かに用意していた隠し玉だ。
ロンズデーライト製球型シェルターはたちまち押し寄せる瓦礫に呑み込まれた。
ともに地の底へと落ちていく……。
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