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1005 光獄の極光
しおりを挟むゴゴゴゴゴ……。
マンガのような地響きがする。
でもそれはこの地下施設の逆さ塔へと侵入してからずっと感じている、不気味な胎動とは別のものであった。
発生源はシリウスである。
瓦礫の山が吹き飛び、復活したシリウスは胸部カバーを開く。広域殲滅兵器をふたたび射出するつもりなのだろう。
それに対して零号が告げる。
「無駄です。止めておきなさい。忘れたのですか? 私の体内には雷龍の宝珠があることを」
雷龍の宝珠は、雷のバリバリモーレツエネルギーがたんと封じられた水晶玉である。
ひと言でいえば「すごいバッテリー」だ。ただし容量の桁が完全にイカれている。底なしの上に、その気になれば、ひとつで原子力発電所に匹敵するパワーを産み出すとか、もう、わけのわからないオーバーテクノロジーの結実。
これを用いることで、巨大な雷龍とみまがう形状のエネルギー攻撃を放つことも可能である。
ゆえにシリウスがいかに高出力を誇る破壊光線を撃とうとも、零号はそのさらに上をいく。
勝ち目はない。
だというのにシリウスが不敵に笑った。
「そんなコトはわかっている。だから、こうするんダヨッ!」
言うなり、シリウスは片膝をついては両腕を床に突き立て、ぐっと差し込み、まるで短距離走の陸上選手のクラウチングスタートのような体勢にて、背をネコのように反らしては胸部を前方へと向けた。
かとおもえばその身が淡く輝き出したではないか。
「たしかにまともにヤッても、雷龍の宝珠を持つ零号姉サマにはかなわナイ。でも、零号姉サマこそ肝心なことを忘れてイナイ? いまこの地には膨大なエネルギーが集まっているコトヲ」
「っ! シリウス、あなたまさか」
そのまさかであった。
シリウスが発光していたのは、両腕を通じてこの地に充ちる膨大な化けチカラエネルギーを、施設内の設備にて発生されているエネルギーを、誘導誘発され収束されている諸々の自然エネルギーを……、それらすべてがごちゃ混ぜになったモノを吸収していたからであった。
「いけない! すぐに止めなさい。そんなマネをすればあなたも無事ではすみませんよ」
それは普通の石油ストーブに、ロケット燃料やジェット燃料、ガソリンに軽油に灯油に重油、はては残り油なんかまで適当にぶち込んで点火するような、無謀な行為である。
零号とて雷龍の宝珠のチカラをフルで使えばカラダがもたない、反動でぶっ壊れる。
限界まで出力を絞っても、攻撃を放てば腕が使い物にならなくなる。
親和性があってもそうなのだ。
ぶっつけ本番で無茶をやらかせばどうなるのかなんて、言わずもがなであろう。
あまりにも危険すぎる行為。
だから零号は懸命に説得を試みるも、シリウスは止まらない。
それどころかこんな言葉を口にする。
「いいのですカ? そんな悠長なことデ。このままだと零号姉サマだけでなく、うしろにいるお仲間まで消滅してしまいマスヨ」
はっと零号がふり返れば、真後ろの壁際にて戦いを見守っている尾白四伯たちの姿が目に入った。
射線がばっちり重なっている。もしも零号がシリウスの攻撃を受けなければ、尾白と芽衣が死ぬ。
ならば破壊光線が撃たれる前に仕留めようとする素振りを見せれば、シリウスが機先を制す。
「言っておきますが、もしもつまらないマネをすれば、貯め込んだエネルギーごと自爆しますからネ」
そうなれば即座にこのフロアごと吹き飛ぶ。
制御下に置かれたエネルギーと、無秩序に暴れるエネルギーの奔流と。
どちらがマシかなんてわかりきったことである。
「やむをえませんね」
零号は悲しそうにつぶやき、ネコ耳の飾りを外した。
そして健在である左腕をシリウスへと向けてかざす。胸の奥にある雷龍の宝珠を解放し、エネルギー砲の発射シークエンスへと移行する。
シリウスと零号、姉妹機たちの内包するエネルギー量が急速に高まっていく。
それとともに現場の空気もみるみる張り詰めていく。
やがて双方同時にカウントダウンが始まった。
五……、四……、三……、二……、一……。
カウント・ゼロ!
シリウスから放たれた破壊光線は、まるでオーロラのごとき妖しい輝きを帯びていた。
零号から放たれたエネルギー砲は、雷龍の姿をしており凄まじい咆哮をあげていた。
ふたつの超エネルギーが正面から激突した瞬間、戦いの舞台となっている地下三十五階のフロアからは音が消えた。色も失せた。匂いもわからない。
何も見えない、何も感じられない。
すべてが光獄の極光に呑み込まれてしまった。
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