おじろよんぱく、何者?

月芝

文字の大きさ
上 下
1,000 / 1,029

1000 姉妹機

しおりを挟む
 
 車屋千鶴から連絡がきた。
 どうやらこの施設……というか、この地はかなり危ないらしい。
 それも鬼の女王が「ヤバいから逃げろ」と宣言するぐらいに。
 地上ではすでに大規模な避難誘導が始まっており、てんやわんやなんだとか。

「こちらも適当なところで引きあげるつもりです。尾白さんもあまり深入りしないように」との忠告にて車屋千鶴は電話を切った。
 愛用のガラケーをパタンと折りたたみ、おれはジャケットの内ポケットに突っ込む。

「はてさて、どうしたものやら」

 自分の周囲を一瞥する。
 英円は酷い顔でのびたまま。ぶち切れたトラ美にこっぴどくやられて、この様だ。自業自得とはいえ、ちょびっとだけ同情を禁じ得ないズタボロ具合である。ナムナム。

 チームロストブラッドの若い四人もまた完全にグロッキー状態にて、うんうんうなされている。眉間に深いしわを寄せてのしかめっ面にて、寝汗が凄い。悪い夢を見ているのは、たぶん鼻の奥にこびりついた残香のせいだろう。我ながらアレは酷かった。人道ならぬ獣道に反する行為であったと、おれもちょっと反省している。

 意識はあるものの、蛾舎泰造はけっこうな傷を負っている。

 でもって味方はどうかといえば、トラ美の疲弊が目立つ。獣人化したトラ同士でガンガンに殴り合ったのと、獣人化にて暴れた反動、それからこれまでの疲れが重なったせいだろう。

 タエちゃんはまだまだ元気そうだ。若いって素晴らしい。でも地上のことが気になっているらしくソワソワしている。この地にはヘビ族も多数来訪している。ヘビ族は一族の繋がりがとても強く、情も深いから、心配しているのだ。あと彼女はブラコンリーゼント娘ゆえに、そろそろ弟が恋しくなっているのかもしれない。

 芽衣は人化が解けており、豆タヌキとなってスヤスヤ寝ている。大技を連発して消耗した分をこうやって回復しているのだ。呼吸は安定しているし、目立った外傷もない。鼻先に喰い物を近づけたらパクっと喰いついて、寝ながらモゴモゴしている。いつものことなので放っておいても問題なかろう。

 零号のバッテリーは、体内にある雷龍の珠のおかげで尽きることがないから、元気ハツラツである。

 そしておれこと尾白四伯だが、町の探偵さんはまぁ、可もなく不可もなくといったところだ。宮本めざしにやられた腹の傷も完全に塞がっているし、認めたくはないけれども、オジロミンCと天狗の秘薬の組み合わせは最強のようだ。あれでゲロマズ、激クサさえなければ言うことなしなのに、なかなか上手くいかないものである。
 と、そんなことはさておき……。

「怪我人を放っておくのもアレだしなぁ、どうしたものやら」

 おれは腕組みにて、ウーン。
 上層階にいる連中にも危険を報せてやらねばならない。
 さりとてウルがやろうとしていることは、とても看過できない。
 そこで……。

「トラ美とタエちゃんは、蛾舎さんといっしょにこいつらを頼む。地上に引きずっていってくれ。そして上に戻りがてらみんなにも避難するように伝えてくれ。悪いがしらたきさんと零号はおれと来てくれ。あと芽衣は――」

 抱えている豆タヌキをタエちゃんに預けようとするも、芽衣はひしとしがみついておれから離れようとはしなかった。
 無理に引き剥がそうとしたら爪をくいっと立てられた。
 じつはタヌキってば爪がけっこう鋭いもので、木登りなんぞもお手の物。
 そんなのが肌に食い込んだもので、おれは涙目でアイタタタ!
 しょうがないので芽衣は連れて行くことにする。進みがてら手持ちの保存食を与えておけば、じきに復活するだろうと判断した。
 かくしてみなと別れ、おれと芽衣としらたきさんに零号は、ウルの野望を阻止すべくさらに深部を目指し動き出した。

  ◇

 地下二十六階でみなと別れ、先を急ぐ。
 これまでの熱烈歓迎ぶりが嘘のよう。敵影はあらわれない。かわりに地の底へと近づくほどに、不気味な胎動のような振動が、ますますはっきりと感じられるようになってゆく。
 そうして進んだ三十五階のフロアにて、おれたちの前に立ち塞がったのは一体のアニマルロボであった。

「シリウス……」
「お待ちしておりまシタ。零号姉サマ」

 相まみえる姉妹機、かつてない激戦必至のシチュエーションに、豆タヌキを抱いているおれはじりじりと後退る。


しおりを挟む
感想 610

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

稲荷狐の育て方

ススキ荻経
キャラ文芸
狐坂恭は、極度の人見知りで動物好き。 それゆえ、恭は大学院の博士課程に進学し、動物の研究を続けるつもりでいたが、家庭の事情で大学に残ることができなくなってしまう。 おまけに、絶望的なコミュニケーション能力の低さが仇となり、ことごとく就活に失敗し、就職浪人に突入してしまった。 そんなおり、ふらりと立ち寄った京都の船岡山にて、恭は稲荷狐の祖である「船岡山の霊狐」に出会う。 そこで、霊狐から「みなしごになった稲荷狐の里親になってほしい」と頼まれた恭は、半ば強制的に、四匹の稲荷狐の子を押しつけられることに。 無力な子狐たちを見捨てることもできず、親代わりを務めようと奮闘する恭だったが、未知の霊獣を育てるのはそう簡単ではなく……。 京を舞台に繰り広げられる本格狐物語、ここに開幕! エブリスタでも公開しています。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

処理中です...