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1000 姉妹機
しおりを挟む車屋千鶴から連絡がきた。
どうやらこの施設……というか、この地はかなり危ないらしい。
それも鬼の女王が「ヤバいから逃げろ」と宣言するぐらいに。
地上ではすでに大規模な避難誘導が始まっており、てんやわんやなんだとか。
「こちらも適当なところで引きあげるつもりです。尾白さんもあまり深入りしないように」との忠告にて車屋千鶴は電話を切った。
愛用のガラケーをパタンと折りたたみ、おれはジャケットの内ポケットに突っ込む。
「はてさて、どうしたものやら」
自分の周囲を一瞥する。
英円は酷い顔でのびたまま。ぶち切れたトラ美にこっぴどくやられて、この様だ。自業自得とはいえ、ちょびっとだけ同情を禁じ得ないズタボロ具合である。ナムナム。
チームロストブラッドの若い四人もまた完全にグロッキー状態にて、うんうんうなされている。眉間に深いしわを寄せてのしかめっ面にて、寝汗が凄い。悪い夢を見ているのは、たぶん鼻の奥にこびりついた残香のせいだろう。我ながらアレは酷かった。人道ならぬ獣道に反する行為であったと、おれもちょっと反省している。
意識はあるものの、蛾舎泰造はけっこうな傷を負っている。
でもって味方はどうかといえば、トラ美の疲弊が目立つ。獣人化したトラ同士でガンガンに殴り合ったのと、獣人化にて暴れた反動、それからこれまでの疲れが重なったせいだろう。
タエちゃんはまだまだ元気そうだ。若いって素晴らしい。でも地上のことが気になっているらしくソワソワしている。この地にはヘビ族も多数来訪している。ヘビ族は一族の繋がりがとても強く、情も深いから、心配しているのだ。あと彼女はブラコンリーゼント娘ゆえに、そろそろ弟が恋しくなっているのかもしれない。
芽衣は人化が解けており、豆タヌキとなってスヤスヤ寝ている。大技を連発して消耗した分をこうやって回復しているのだ。呼吸は安定しているし、目立った外傷もない。鼻先に喰い物を近づけたらパクっと喰いついて、寝ながらモゴモゴしている。いつものことなので放っておいても問題なかろう。
零号のバッテリーは、体内にある雷龍の珠のおかげで尽きることがないから、元気ハツラツである。
そしておれこと尾白四伯だが、町の探偵さんはまぁ、可もなく不可もなくといったところだ。宮本めざしにやられた腹の傷も完全に塞がっているし、認めたくはないけれども、オジロミンCと天狗の秘薬の組み合わせは最強のようだ。あれでゲロマズ、激クサさえなければ言うことなしなのに、なかなか上手くいかないものである。
と、そんなことはさておき……。
「怪我人を放っておくのもアレだしなぁ、どうしたものやら」
おれは腕組みにて、ウーン。
上層階にいる連中にも危険を報せてやらねばならない。
さりとてウルがやろうとしていることは、とても看過できない。
そこで……。
「トラ美とタエちゃんは、蛾舎さんといっしょにこいつらを頼む。地上に引きずっていってくれ。そして上に戻りがてらみんなにも避難するように伝えてくれ。悪いがしらたきさんと零号はおれと来てくれ。あと芽衣は――」
抱えている豆タヌキをタエちゃんに預けようとするも、芽衣はひしとしがみついておれから離れようとはしなかった。
無理に引き剥がそうとしたら爪をくいっと立てられた。
じつはタヌキってば爪がけっこう鋭いもので、木登りなんぞもお手の物。
そんなのが肌に食い込んだもので、おれは涙目でアイタタタ!
しょうがないので芽衣は連れて行くことにする。進みがてら手持ちの保存食を与えておけば、じきに復活するだろうと判断した。
かくしてみなと別れ、おれと芽衣としらたきさんに零号は、ウルの野望を阻止すべくさらに深部を目指し動き出した。
◇
地下二十六階でみなと別れ、先を急ぐ。
これまでの熱烈歓迎ぶりが嘘のよう。敵影はあらわれない。かわりに地の底へと近づくほどに、不気味な胎動のような振動が、ますますはっきりと感じられるようになってゆく。
そうして進んだ三十五階のフロアにて、おれたちの前に立ち塞がったのは一体のアニマルロボであった。
「シリウス……」
「お待ちしておりまシタ。零号姉サマ」
相まみえる姉妹機、かつてない激戦必至のシチュエーションに、豆タヌキを抱いているおれはじりじりと後退る。
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