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988 準決勝第二試合・場外戦
しおりを挟むおれは復活し、一同喜んだ。
そんな中にあって、トラ美の表情がほんの一瞬だけれども、泣きそうになったのをおれは見逃さない。
おおかたドテっ腹を刺されたおれの姿を目にして、過去に自分がやらかしたことを思い出したのであろう。
だが、あれはしょうがなかった。
最愛の妹である玲花(れいか)を人質にとられ、逆らえなくされた上に、元姉弟子である英円(はなふさまどか)の奸計に嵌り、いいように操られていたのだから。
マジで悪質にて、ほとんどマインドコントロール下に置かれていたようなもの。
さすがは「銀禍」との異名を持つ性悪トラ狂女、狡猾さでは一枚も二枚も上手であった。
そんな因縁浅からぬ相手が、地下二十六階層目にておれたちの前に立ち塞がった。
しかも、チームロストブラッドの面々を引き連れて。
これにより期せずして準決勝第二試合・場外戦となった。
敵勢はトラ狂女の英円、ニホンオオカミの純血種にして最後の生き残りである蛾舎泰造(がしゃたいぞう)、人造ニホンオオカミの好古(よしふる)、人造タスマニアタイガーの景親(かげちか)、人造フォークランドオオカミの重衡(しげひら)、人造エゾオオカミの為朝(ためとも)らの、計六名。
対するこちらは、おれこと尾白四伯、タヌキ娘の洲本芽衣、ヤンキーヘビ娘の白妙幸、トラ猛女の弧斗羅美、アニマルメイドロボ零号、の計五名。
じつは佐藤晋太郎も天狗の秘薬を飲んで、ついて来ようとしたのだけれども、あのクスリって怪我は治るけれども、失われた気力や体力までは戻らない。
宮本めざしと死闘を演じ、心身ともに疲労困憊のマウンテンゴリラ拳闘士は泣く泣くリタイアとなり、彼を介抱するために女天狗の飯綱考標も残った。
かくして対峙することになった両陣営。
さて、質はともかく数で劣勢である。
そこでおれは手強い蛾舎泰造だけでも、なんとか思いとどまらせようと説得を試みようとしたのだけれども……。
ガルルルルルルルル。
もの凄い唸り声がすぐ近くから聞こえてきたもので、ギョッ!
誰かとおもえばトラ美であった。
いつのまにやら獣人化しており、かつてないほどにイキリ立っている。
金色の双眸にてギロリ、射殺さんばかりににらむ相手は、英円である。
さっきおれが刺されたことによって、忘れたい過去が掘り起こされクローズアップ、甦る悔恨と湧き起こる憤怒……。
自分自身が許せない。
でもそれ以上にもっと許せないのは英円である。
忸怩たる思いにて腸(はらわた)が煮えくり返っているところに、憎い仇が目の前にあらわれた。
いろいろタイミングが悪かったのであろう。
ブチッとトラ美がキレた。
あまりのキレっぷりに、味方のおれたちすらもが怖じ気て、無意識のうちにじりじり後退っていたほどである。
そして最後のトリガーを引いたのは英円自身であった。
欲望のままにおもうさま生きてきたトラ狂女は、人の感情の機微やら場の空気が読めないらしい。よせばいいのに軽口を叩く。
「よぉ、羅美。いつまでそんなシケた連中とつるんでるんだよ。とっとと捨ててこっちに来い。おまえにはこっち側の方が――」
英円の言葉は最後まで発せられない。
遮ったのは矢となり飛び出したトラ美である。
よほど腹に据えかねていたのであろう。問答無用であった。とんでもない速度でいっきに接近したとおもったら、チカラまかせにぶん殴った。
さしもの英円も、いきなり殴られるとはおもっていなかったらしく、出来たことといったら少しばかり身じろぎしたことぐらい。
よもやの不意打ちがクリティカルヒット!
「ぎゃんっ!」
渾身の右をくらった英円の身が吹き飛び、さらなる追撃を加えようとトラ美が牙をむき、前進する。
戦いが始まってしまった。
こうなってはもう、説得もへったくれもない。
なし崩し的に全員が動き出すことになった。
すると芽衣が真っ直ぐに向かったのは蛾舎泰造のところ。
どうやらタヌキ娘は端から彼と戦うつもりであったようだ。
「四伯おじさんたちは、残りをお願い」
「ちっ、しょうがねえ。しっかりやれよ。負けたらしょうちしねえぞ」
「まかしておいて!」
ピューッと駆けていくタヌキ娘の背を横目に、おれと零号とタエちゃんは、人造再生動物どもと対峙する。
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