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981 挟撃の挟撃
しおりを挟む援軍が到来しようとしている。
第二ゲートからの増援だ。
これにより第一ゲートを守る警備隊の士気は俄然あがった。
けれども対照的に背後からの挟撃に、味方側には動揺が走る。
それが綻びとなってどうにか保っていた均衡が崩れ、襲撃する者とされる者という構図が裏返る。
「うしろは気にするな!」
「いまは目の前の相手にだけ集中しなさい!」
安倍野京香が声を張り上げ、燐火が檄を飛ばす。
背水の陣と化したいま、できることは前へ、前へと敵を押し返し、突破するのみ。
旗下の白羽の者らも死力を尽くす。
が、そうして足掻いているうちにも、援軍は着々と近づいてくる。
「いざともなれば、綾ちゃん先生だけでも逃がさないと」
ついに替えのマガジンが尽きた。トカレフを敵兵の鼻面に投げつけつつ、安倍野京香がちらりと見たのは芝生綾だ。
戦いから一歩下がったところにて守られている彼女はあんぐり、この乱闘に目をぱちくりしっぱなし。
それもしようがない。身に宿す血やチカラはともかく、彼女は一介の女教師に過ぎない。動物界から密かに監視下に置かれ守られ、およそ暴力とは無縁の世界を生きてきたのだから。
そんな芝生綾はこれら一連の出来事をすべて映画の撮影だと思い込んでいる。
そうなるように聚楽第に騙されたわけだが、彼女の表情をみるにそろそろ限界が近いかもしれない。もしも事が発覚した時、アレが表に出てくる。
そうなればさらに混迷の度合いを深めて、鬼たちや天狗も黙っちゃいまい。
事態の収拾は困難を極めるだろう。どうする? どうすれば……。
バンッ!
襲いかかってきたアニマルロボ甲をデザートイーグルで迎撃しつつ、安倍野京香が考えていると、芝生綾のかたわらにいる者と目が合った。
仁科加奈に変装している怪盗ワンヒールがコクンとうなづく。
アイコンタクトにて「いざともなれば自分が」との意思表示だ。
それを受けて安倍野京香もうなづき返そうとしたところで――。
ブロロォン、ブロロォン、ブロロロロロロロロロロォォォォォォォ……。
喧騒にまぎれて耳に届いたのはクルマのエンジン音。
迫る第二ゲートからの援軍、その遥か後方より聞こえてくる。
かとおもえば、それがずんずん大きくなって近づいてくるではないか!
しかもよくよく耳を傾けてみると、エンジン音はひとつではなくて、いくつもの種類が折り重なっていた。
ブゥーン、ブゥウゥーン、ブゥゥウゥゥゥゥン。
バルバルバルバル、バゥバルルルルルルルル。
ウィイィィィィン、ウィィイィィィィィ、ウィィイィィィィィ。
ヴゥーン、ヴゥウゥーン、ブゥウゥゥゥーン。
ウゥーン、ヒュン、ヒュウゥーン、ビュウゥーン。
ブルン、ブルゥウゥゥン、ブルゥウゥゥゥゥゥン、ウー。
ウィン、ブロロロロロロロロォォォオン。
けたたましい爆音がトンネル内に鳴り響き、マシンが吠える。
独特の排ガス臭と白煙を引き連れ、猛然と向かってきていたのは、いかにも走り屋といわんばかりのゴツイ風貌のクルマたちの群れである。
だが、ただのクルマじゃない。
それらはすべてシカたちが化けたものであった。
シカという種族は動物界において一大勢力を誇っているだけでなく、奈良や北関東の茨城県鹿嶋の常陸国一宮(むつのくにいちのみや)、広島の宮島などに古くから根を張ってはシカ王国を築いている。
そんなシカたちだが、じつは駆けっこ競争が大好き。
昔っからことあるごとに足の速さを競い、脚線美を自慢し、仲間内で問題が起こるたびに足で白黒つけてきた。
それが高じるあまり、ついには独自に化け術を発展させ、みずからがクルマに化けては、夜な夜な町中やハイウェイを爆走し、ブイブイいわせるようになる。
日ノ本各地にて峠を攻める走り屋たちのうち、じつに六割強がシカたちであるということを、人間のドライバーたちは知らない。
トンネル内をひた走ってきたクルマの集団、さらにアクセルをふかしグンっと加速しては、一丸となって第二ゲートの援軍へと突っ込んだからたまらない。
アニマルロボたちが次々と撥ね飛ばされ、轢かれ、吹き飛ばされいく。
挟撃しようとしていたところを、背後から襲われ、整然としていた行軍がたちまち大混乱へと陥った。
その中から華麗なドライビングテクニックにて、するする障害物をかわしつつ、飛び出したのは一台のクラシックのオープンカー。黄色のメルセデス・ベンツSSKっぽいの。
これに化けているのは、女性の走り屋として北関東では知られた火車お七であった。
「優雅に華麗に颯爽と」がモットーの、女性のみで構成されたチームを率いている。クルマの性能頼りの野蛮な走りをする男を毛嫌いしており、コーナーでの攻めがエグく、インコーナーの夜叉姫と呼ばれている。
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出灰桔梗(いずりはききょう)、御天三姉妹、瀧路妙慧(たきろみょうけい)、チーム裏千社のメンバーであるキツネの麗人たち。
賭けで大損をこいてイラついていたシカたちを誑かし、扇動し、華麗に参上!
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