おじろよんぱく、何者?

月芝

文字の大きさ
上 下
972 / 1,029

972 突入、秘密の地下施設

しおりを挟む
 
 安倍野京香と燐火らがオコジョくのいちのかげりを撃破し、芝生綾のいる貴賓室を目前にしていた同刻。
 闘技場の抜けた底から、「ひゃっほう!」と後先考えずに地下の秘密施設へと突入した尾白探偵事務所チームの面々はというと――。

 施設は超大な塔をそのまま地面の下に埋め込んだかのような構造をしており、各フロアへはエレベーターを使うか、内縁部に沿って設置されている螺旋階段を降りていくようになっていた。
 だが電源が落ちているらしく、エレベーターはいくらボタンを押してもうんともすんとも反応せず。
 しようがないので一行は階段にて下を目指すことになるのだが、この階段がちょいと曲者であった。

 階段と呼ぶには一段一段が幅広く大きい。
 それこそタタミを縦に四畳連結して、さらにこれを三列並べたぐらいほどもある。
 おそらくは資材などを特殊な車両で搬入するための仕様であろうが、ちょっと進んでは段差、ちょっと進んでは段差のくり返しが、とにかく歩きづらくてしょうがない。
 ちんたら歩くのもダルいので、おれは早々に「変化っ!」
 ドロンと化けたのは軽トラックである。
 運転はしらたきさん任せのオカルト自動運転モードとし、武闘派揃いのメンバーらには荷台にて、緊急事態が起きたらすぐに対応できるようにスタンバイしてもらう。
 なにせここは敵地のど真ん中なのだから、油断はしない。

  ◇

 ブロロロロロ……。

 階段通路内にエンジン音が反響する。
 一定の間隔で車体がガタンゴトン、上下するのは階段の段差のせい。

「にしても、ひでえあり様だな。どこもかしこもぐちゃぐちゃじゃねえか」

 進むほどに明らかとなる被害状況に、おれこと尾白四伯は顔をしかめずにはいられない。
 丸い筒状の、逆さ塔のような建物内を地下へと進んでいるのだが、行く先々にて天井と床に大きな風穴が開いており、それが何層にも渡って続いている。
 それすなわち宮本めざしと佐藤晋太郎が、勢いのままに逆さ塔を天辺からぶち抜いて、落ちたということ。
 あまりにもキレイに真ん中をぶち抜いたものだから、内壁寄りの部分は比較的無事ですんでいるが、中央付近はほとんど原型を留めていない。モノの見事に陥落し破壊されてしまっていた。

「ふたりともド派手にぶちかましていたからねえ」

 揺れる荷台で縁に掴まりながら、タヌキ娘の芽衣が「やれやれ」と首を振る。

「しかし、どこまで落ちてったんだ、あいつら」

 乱れた金髪リーゼントを手櫛で整えつつ、ヘビ娘のタエちゃんが荷台から身を乗り出し、開いた大穴の底を覗き込む。
 するとずっと下の方でちらちらと、赤い炎が光っているのが見えた。
 ときおり低くくぐもった衝突音のようなものも聞こえてくる。

「あの様子だと、まだ決着はついていないみたいだな。だがこのままだと……」

 同じように覗き込んでいたトラ美が眉間にしわを寄せては思案顔をする。

「佐藤晋太郎さんが不利ですね。ジリ貧かと」

 零号が淡々と戦況分析を述べる。
 ここにきて佐藤晋太郎の覚醒ぶりが目覚ましい。強敵と拳を交えるほどに、飛躍的な進歩と成長を遂げている。
 だが炎龍の剣のチカラを解放した宮本めざしは獣外の化け物だ。
 加えてヤツの手には木花咲耶もある。幻惑を操る美刀が真価を発揮するのは、ギリギリの攻防のさなかである。武人殺しの異名は伊達じゃない。
 生と死、勝者と敗者を隔てる一線、ここぞというときに、あのチカラを織り込まれたら、疲労困憊している佐藤晋太郎は果たして対処しきれるであろうか。

 なんぞと他人の心配をしていられたのは、ここまで。

「来ます」

 いち早く敵勢の接近に気がついたのは、零号であった。ピコンピコンと張っていたレーダーによって察知する。
 進路を遮るようにして、前方よりぞろぞろと湧き出てきたのはイヌ頭のメタリックボディ、人型アニマルロボ甲(かぶと)たちである。
 これに対して、しらたきさんはアクセルを思い切り踏んだ。
 ぐんと加速する軽トラックが、ロボットの集団へと突入する。
 かくして戦いの火ぶたが切って落とされた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

柳鼓の塩小町 江戸深川のしょうけら退治

月芝
歴史・時代
花のお江戸は本所深川、その隅っこにある柳鼓長屋。 なんでも奥にある柳を蹴飛ばせばポンっと鳴くらしい。 そんな長屋の差配の孫娘お七。 なんの因果か、お七は産まれながらに怪異の類にめっぽう強かった。 徳を積んだお坊さまや、修験者らが加持祈祷をして追い払うようなモノどもを相手にし、 「えいや」と塩を投げるだけで悪霊退散。 ゆえについたあだ名が柳鼓の塩小町。 ひと癖もふた癖もある長屋の住人たちと塩小町が織りなす、ちょっと不思議で愉快なお江戸奇譚。

獣人の里の仕置き小屋

真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。 獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。 今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。 仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。

推理小説家の今日の献立

東 万里央(あずま まりお)
キャラ文芸
永夢(えむ 24)は子どもっぽいことがコンプレックスの、出版社青雲館の小説編集者二年目。ある日大学時代から三年付き合った恋人・悠人に自然消滅を狙った形で振られてしまう。 その後悠人に新たな恋人ができたと知り、傷付いてバーで慣れない酒を飲んでいたのだが、途中質の悪い男にナンパされ絡まれた。危ういところを助けてくれたのは、なんと偶然同じバーで飲んでいた、担当の小説家・湊(みなと 34)。湊は嘔吐し、足取りの覚束ない永夢を連れ帰り、世話してくれた上にベッドに寝かせてくれた。 翌朝、永夢はいい香りで目が覚める。昨夜のことを思い出し、とんでもないことをしたと青ざめるのだが、香りに誘われそろそろとキッチンに向かう。そこでは湊が手作りの豚汁を温め、炊きたてのご飯をよそっていて? 「ちょうどよかった。朝食です。一度誰かに味見してもらいたかったんです」 ある理由から「普通に美味しいご飯」を作って食べたいイケメン小説家と、私生活ポンコツ女性編集者のほのぼのおうちご飯日記&時々恋愛。 .。*゚+.*.。 献立表 ゚+..。*゚+ 第一話『豚汁』 第二話『小鮎の天ぷらと二種のかき揚げ』 第三話『みんな大好きなお弁当』 第四話『餡かけチャーハンと焼き餃子』 第五話『コンソメ仕立てのロールキャベツ』

御様御用、白雪

月芝
歴史・時代
江戸は天保の末、武士の世が黄昏へとさしかかる頃。 首切り役人の家に生まれた女がたどる数奇な運命。 人の首を刎ねることにとり憑かれた山部一族。 それは剣の道にあらず。 剣術にあらず。 しいていえば、料理人が魚の頭を落とすのと同じ。 まな板の鯉が、刑場の罪人にかわっただけのこと。 脈々と受け継がれた狂気の血と技。 その結実として生を受けた女は、人として生きることを知らずに、 ただひと振りの刃となり、斬ることだけを強いられる。 斬って、斬って、斬って。 ただ斬り続けたその先に、女はいったい何を見るのか。 幕末の動乱の時代を生きた女の一代記。 そこに綺羅星のごとく散っていった維新の英雄英傑たちはいない。 あったのは斬る者と斬られる者。 ただそれだけ。

乙女フラッグ!

月芝
キャラ文芸
いにしえから妖らに伝わる調停の儀・旗合戦。 それがじつに三百年ぶりに開催されることになった。 ご先祖さまのやらかしのせいで、これに参加させられるハメになる女子高生のヒロイン。 拒否権はなく、わけがわからないうちに渦中へと放り込まれる。 しかしこの旗合戦の内容というのが、とにかく奇天烈で超過激だった! 日常が裏返り、常識は霧散し、わりと平穏だった高校生活が一変する。 凍りつく刻、消える生徒たち、襲い来る化生の者ども、立ちはだかるライバル、ナゾの青年の介入…… 敵味方が入り乱れては火花を散らし、水面下でも様々な思惑が交差する。 そのうちにヒロインの身にも変化が起こったりして、さぁ大変! 現代版・お伽活劇、ここに開幕です。

AIアイドル活動日誌

ジャン・幸田
キャラ文芸
 AIアイドル「めかぎゃるず」はレトロフューチャーなデザインの女の子型ロボットで構成されたアイドルグループである。だからメンバーは全てカスタマーされた機械人形である!  そういう設定であったが、実際は「中の人」が存在した。その「中の人」にされたある少女の体験談である。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

高槻鈍牛

月芝
歴史・時代
群雄割拠がひしめき合う戦国乱世の時代。 表舞台の主役が武士ならば、裏舞台の主役は忍びたち。 数多の戦いの果てに、多くの命が露と消えていく。 そんな世にあって、いちおうは忍びということになっているけれども、実力はまるでない集団がいた。 あまりのへっぽこぶりにて、誰にも相手にされなかったがゆえに、 荒海のごとく乱れる世にあって、わりとのんびりと過ごしてこれたのは運ゆえか、それとも……。 京から西国へと通じる玄関口。 高槻という地の片隅にて、こっそり住んでいた芝生一族。 あるとき、酒に酔った頭領が部下に命じたのは、とんでもないこと! 「信長の首をとってこい」 酒の上での戯言。 なのにこれを真に受けた青年。 とりあえず天下人のお膝元である安土へと旅立つ。 ざんばら髪にて六尺を超える若者の名は芝生仁胡。 何をするにも他の人より一拍ほど間があくもので、ついたあだ名が鈍牛。 気はやさしくて力持ち。 真面目な性格にて、頭領の面目を考えての行動。 いちおう行くだけ行ったけれども駄目だったという体を装う予定。 しかしそうは問屋が卸さなかった。 各地の忍び集団から選りすぐりの化け物らが送り込まれ、魔都と化しつつある安土の地。 そんな場所にのこのこと乗り込んでしまった鈍牛。 なんの因果か星の巡りか、次々と難事に巻き込まれるはめに!

処理中です...