おじろよんぱく、何者？

959 獣王武闘会本戦 幕間 繚乱

　
　準々決勝第四試合の死闘を制した尾白探偵事務所チームではあったが、勝利の余韻なんぞは微塵もなく、逆にその代償で死屍累々のありさま。
　芽衣、タエちゃん、トラ美、尾白四伯ら四名は、仲良く医務室のベッドの世話になっている。
　そして唯一元気なはずのアニマルメイドロボの零号も別室にて、ウイルスチェックを受けている。
　不戦敗に追い込まれた充電の罠？
　その際にへんなプログラムを仕込まれていないかを確認中だ。なお作業はインターネット経由で、パカパカ仙人と怪人インソールダブルエックスが協力してリモートで行ってくれている。
　パカパカ仙人は優れた技術者にて、信頼と実績のエキスパート。
　怪人インソールダブルエックスは、若い女性のクツの中敷きばかりを狙う変態である。しかしその知識と技術はたいしたもの。妙ちきりんなメカとかを作らせたら、右に出るものはいない。コンピュータやプログラミング、ＩＴ関連にもめっぽう強く、ハッキングくらい朝飯前。信頼と信用は皆無だが、無駄にハイスペックなのは否めない。
　なお、このふたり、互いに面識はないものの、どうやらともに大江一門の流れを組む同門であるらしい。

　かつて大江一門と呼ばれる技術者集団がいた。
　彼らを簡潔に言い表せば「あまりにも早過ぎた天才たち」であろうか。
　その起源は江戸時代の見世物小屋にまでさかのぼる。
　当時流行っていたからくり人形や細工物に魅せられた者たちが、集まって結成されたという。出自も性別も年齢も、それこそ種族すらもばらばら。
　だがみなからくりが大好きだった。心から愛していた。
　同好の士らが寄って夢中となり切磋琢磨していくうちに、いつしか集団をまとめ率いる頭領が生まれる。
　この代表者を大江左と呼び、代々一門の中からもっとも優れた技術者が選ばれる慣わしとなった。
　けれども、いまや大江一門は存在してはいない。
　ある事件をきっかけとしてみな散りぢりとなり、残るのは一門が本拠地をかまえていた瀬戸内海の孤島のみ。
　しかしその島も、彼らが残した三種の秘宝がうちのひとつ、「炎龍の剣」を手にした宮本めざしの暴走によって、休火山がドカンと噴火して、火砕流が島内を席捲し、地形にも多大な影響を及ぼす。とてもではないが近寄れない状態となっている。

　ちなみに零号は、大江一門の流れを組む者の手によって造られた。
　聚楽第のマッドサイエンティストである暮来真理も、ルーツをさかのぼれば大江一門に連なっているっぽい？
　まるで歩くオーパーツのような存在である。
　このことからも大江一門のとんでも具合が容易に想像できるであろう。
　そんな連中が市井にまぎれて、ふらふら好き勝手にやっているのだから、なにげに人類は危機的状況にあるのかもしれない。

　でもって、現在、おれこと尾白四伯もまた危機的状況にある。
　同室の野郎どもから、もの凄い形相で睨まれているせいだ。それこそ射殺さんばかりに、殺気をばちばち飛ばしながら、ねめつけられている。
　原因は、おれのベッドサイドだ。
　奥側の枕元には光瀬菜穂が、主治医なんだからさも当然とばかりに居座っている。
　メガネと白衣姿がまぶしい爆乳クールビューティーな見た目の菜穂は、診療所を開けば花束やプレゼントを持った求婚者が鈴なりになるほどの、高月屈指のモテ女である。もっともその正体は解剖マニアの変態ウシ女だけど。
　そんな美人女医から、付きっきりでお世話されているというだけで、野郎どもの嫉妬メーターがＭＡＸに到達している。
　ばかりかベッドの手前側には、別の美の女神が降臨中。
　なぜだか敵方のルクレツィア・ギアハートがお見舞いにきている。
　ご存知、彼女は世界的なトップモデルにして、美のカリスマ。全世界の女性たちの憧れの八頭身美女にて、生きる奇跡であり、とてつもない影響力を持つ最強のインフルエンサー。だがその心の奥底にはとてつもない闇を抱えてる女でもある。
　そんな彼女が顔をだしたのは、もちろん、おれをおちょくって遊ぶ気だからだ。

　しかし、これで終わりではない。
　さっきから「パパ、パパ」とじゃれついてくる若い娘は、桜花伯魅である。
　赤鬼族の姫で次期族長となる娘、おれとは血は繋がっていないけれども、なんやかやあって父子という間柄になってしまった。
　そして当然ながら娘の保護者にて、父方の了承を得ることなく一方的に「できちゃった！」宣言をした元凶である赤鬼の現在の長である桜花朱魅もまた、娘ともども病室に駆けつけていた。
　桜花母娘もまた見た目はすこぶるいい。
　これで四人……。
　だが、まだ他にもいる。

　病室にもかかわらずタバコを吸おうとして、看護師さんにガミガミ説教を喰らっているのは、カラス女の安倍野京香だ。

「おらよ、四伯、見舞いだ」

　と言って、タバコを三カートンも投げて寄越したことからして、どうやら賭けでおおいに儲けたっぽい。警護の応援要員として現地入りしているとは聞いていたが、この分では仕事はさぼっているのだろう。
　そしてそんなカラス女となぜだかいっしょに顔を見せたのが、オコジョくのいちの燐火さんであった。
　こちらは常識人らしく、果物の盛り合わせを手にやってきたけれども、速攻でタヌキ娘にぶん捕られて、おれにはバナナの皮すらも回ってこなかった。

　さらにさらに場に花を添えるのが、出灰桔梗と御天三姉妹である。
　桔梗は黒髪美少女の才媛、三姉妹は各々タイプが異なる綺麗どころ。

　これで女ばかり綺麗どころが十人だ。
　みんな中身はともかく外見はいいもので、おかげでおれへの憎悪と敵意はぐんぐん右肩上がりである。
　だが、さらに頭が痛いのが……。

「ねえねえ、ダーリン、はやく遊びに行こうよぉ」
「ええい、放せ。友が苦しんでいるときに自分だけが遊び惚けるなんぞは、親友のすることではない」
「ええー。あっ、そうだ！　だったらこの天狗の秘薬を飲ませればいいよ。これですぐに元気になるから。でも死ぬほどマズイけどね、これ」
「ふむ。古来より良薬口に苦しという。それで治るのならば……」

　ゴリラ拳闘士の佐藤晋太郎と女天狗の飯綱考標のコンビだ。
　試合を通じて、すっかり晋太郎に惚れこんだ女天狗の猛アピールが続いている。
　ぶっちゃけ、イチャつくのならば他所でやれ！
　あとこれ以上、変なクスリを飲ませようとしないで！