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953 獣王武闘会本戦 準々決勝第四試合 怪獣モード
しおりを挟むしらたきさんに掴まれて、おっさんが華麗に宙を舞う。
ワイヤーアクションさながらの動き。
その姿はまるで永遠の国で自在に空を飛んでは大冒険を繰り広げる、あのパンな少年のよう。
が、しょせんお話しはお話しにて、現実は世知辛いのである。
ぎゅいーん、と右へ左へ。びぃよ~ん、と飛んだり跳ねたり、くるくる回ったり。
長い腕にて振り回されるたびに、襲いかかるGショック!
骨が軋む。筋肉が悲鳴をあげた。駄肉がぷるるん。カラダの中で内蔵がシェイクされ、血が上下にいったり来たり。
しかも先に何度も蹴飛ばされたせいで、ズキズキお腹が痛いの。
ノドの奥からこみ上げてくるのは、酸っぱい風味のアレ……。
加齢と喫煙と飲酒にて疲弊した内蔵、逆流性食道炎を患っており毎朝、ハミガキのたびに洗面所でえづいているようなおっさんに、これはキツイ!
というか、もはや拷問である!
ふっと意識がブラックアウトしたかとおもえば、たちまち弛緩して手足がぶらんぶらん。
でもって、ついに限界を超えたむかつきに「うえっぷ」
そして幕を開けたのは、世にもお下劣ファンタジーの舞台である。
シャバダバダとまき散らされる嘔吐物の雨に、闘技場内のそこかしこから悲鳴があがった。しかもこれが呼び水となって、もらいゲロがあちこちで勃発し、ぷーんと垂れ込める異臭がさらなる悲劇を招き寄せ、阿鼻叫喚の地獄絵図となる。客席はパニックに陥った。
◇
獣王武闘会史上、文字通りの汚点となりかねないバッチイ試合展開。
この暴挙を見かねた赤鬼の牛頭泰造がこめかみに青筋を浮かべ、汚物をまき散らしながらぴょんぴょん飛び回っている、迷惑なおっさんを止めようとする。
すすす、滑らかなすり足で動く鬼の巨体、一瞬で移動しては進路上に立ち塞がった赤鬼が、不快なおっさんを叩き落そうと張り手を繰り出した。
ぶぅんと豪快な一撃は狙い過たず、クリーンヒット!
けれども、刹那のことであった。
ぐにゃりとした感触、赤鬼は怪訝そうな表情を浮かべて、自分が打ち落とした相手をみてみれば……。
「なんだ、これは?」
叩き落とされて地面に倒れ伏していたのは尾白四伯ではなくて、いくつもの白い腕が絡まって作られた人形であった。ダミーである。
「っ! いつの間に入れ替わった。奴はどこに……」
きょろきょろ赤鬼が探せば、その姿はすぐに見つかった。
おれがいたのは、赤鬼の牛頭泰造がいる場所からは、闘技場を挟んで真向かいに位置するところ。
充分に距離をとったところで、おれは言った。
「あとで菜穂にキツイのを一発やってもらうから遠慮はいらねえ。存分に吸ってくれ!」
言うなり、ちゅうちゅうとおれの中から大事な何かが吸い取られていく。
吸っているのは憑いている白い腕の怪異のしらたきさんだ。
くらりと眩暈がして、おれは片膝をつき、ついにはへたり込む。
みるみる元気を失う尾白四伯、すっかりしおしおである。
一方で、陶磁器をおもわせるような白さを誇るしらたきさんの肌が、みるみる色味を強くして赤くなっていった。
かとおもえば、分裂増殖してずんずん数が増えて、まるでイソギンチャクのにょろにょろみたいになった。
怪異・白い腕、第二形態「怪獣モード」を発動!
尾白四伯という珍獣の宿主から、吸い取ったエネルギーを喰らい変換することで、闘技場内はたちまち赤い腕だらけとなった。
ちなみに技名は、怪異と珍獣から一文字ずつとった。
これには観客らのみならず牛頭泰造も度肝を抜かれ、あんぐり。
おれとしらたきさんは、してやったりにて攻勢を開始する。
四方八方からのびてきては襲いかかってくる赤い手を、払い打ち、押しのけては、捕まらないように赤鬼が抗う。
わらわらと群がる赤い細腕を吹き飛ばし、蹴散らし、千切っては投げ、千切っては投げ。
赤鬼が大暴れにて無双っぷりを披露する。
だがそれもほんの五分ほどのことであった。
突如として背後から大きな影が差す。
何事かと振り返った赤鬼が目にしたのは、巨大な腕である。
赤い握り拳。仁王像のごとき筋骨隆々のたくましい腕が握った大きなゲンコツは、たくさんの赤い腕が寄り集まって出来たものであった。
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