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941 獣王武闘会本戦 準々決勝第四試合 充電スポット
しおりを挟む五鬼とチーム尾白探偵事務所の試合――。
先鋒戦を芽衣が勝利し、次鋒戦にてタエちゃんが惜敗を喫す。
一勝一敗で迎えた中堅戦は、五鬼からは青鬼の馬頭多聞(めずたもん)が、チーム尾白探偵事務所からはアニマルメイドロボ零号が臨む。
が、またしても防壁が派手にぶっ壊れたもので、イヌ耳仕様のヘルメットをかぶった作業用アニマルロボ甲(かぶと)たちが出動しては、手際よく瓦礫の撤去と壁の改修を開始した。
この作業が終わるまでは、中堅戦は始められないので小休止となったのだけれども……。
「あんぎゃあぁぁぁぁぁぁぁーっ!」
絹を斬り裂くというよりも、厚めのダンボールをびりびり引き裂くかのような乙女の悲鳴、第二弾が響き渡った。
悲鳴の主はタエちゃんであり、そんな声をあげさせたのは解剖マニアの美人牛女医である光瀬菜穂であった。
ズタボロだったものでタヌキ娘と同じ末路を辿ったヘビ娘、ぶっとい注射で怪しげな薬剤をどばっと注入されちゃったのだ。
第三形態に覚醒状態の鬼を相手にしても、一歩も引かず善戦を繰り広げた猛者があげる恐怖の絶叫に、「えっ、あそこのチームって、勝っても負けても罰ゲームがあるの?」と観客たちはドン引きである。
そして周囲から向けられる、批難まじりの無言の冷たい視線に、おれは尻がもじもじしちゃう。
「……って、あれ? 零号のやつ、どこいった」
いつのまにか零号の姿が消えている。
「あぁ、なんか時間があるから、ちょっとスマホの充電スポットに行ってくるって」
おれがキョロキョロしていたら、零号の行先をトラ美が教えてくれた。
これにガラケー愛好家であるおれは「ふっ」と肩をすくめる。
スマートフォンはたしかに便利ですごい。何でも出来る!
というのは、さすがに言い過ぎだが、たいていのことには対応している。今時、スマホがなければ、市民生活に影響がでかねないほどに普及もしてもいる。
けれども、弱点もある。
それはバッテリーの持続時間の短さだ。
ゲームをしたり、動画をみたり、ちょっと集中して使い込んだらあっという間にバッテリー残量が目減りをして、三十パーセントを切る。バッテリーの長持ちを謳い文句にしている最新機種ですらも、ごりごり減っていくから油断ならない。
それを補うために予備電源としてモバイルバッテリーを持ち運ぶはめになるのだが、これがけっこうかさばり重くて邪魔なのだ。実質、スマホを二台持ち歩いているようなもの。それにこちらにも充電をしておかないと、いざという時に役に立たないので、結果として本体とバッテリーとふたつ、二重で充電をするはめになる。これまた地味にめんどうくさい。
あとスマホ、急速充電とか表示しているくせに、なんだかんだでフル充電になるまで一時間ぐらいかかるし……。この不満を解消するために、ニ十分足らずでフル充電できるという新商品も発表されているらしいのだが、光があれば影が生まれる。何事にもメリットデメリットが存在する。
たぶん、バッテリーの劣化が早かったり、やたらと熱がこもったり、そのせいで本体に負荷がかかったりするのではなかろうか? う~ん。
ちなみ零号がスマホの充電スポットに行ったのは、もちろん充電のためである。
運営側のサービスにて、最新のワイヤレスのチャージ機が設置されているので、どんな具合か商品モニターに行ったようだ。
なおふつうは、ワイヤレスの充電器の台座にスマホを乗せて充電をするのだが、零号の場合は手のひらをそっと添えるだけである。
ネコ耳メイドロボのその姿を想像すると、ちょっとほっこり。
まぁ、零号ならば鬼相手でも楽勝だろうし、これで二勝目は固い。でもってトラ美が負けるのも想像がつかないので、大将であるおれまでは回ってくることはないだろう。
だから、おれもトイレ休憩がてら、一服するために席を立ったのだが……。
壁の改修工事が完了したとのアナウンスを受けて、喫煙所を出たおれは、真っ直ぐに選手控室へと戻った。
けれども、そこにいたのはトラ美だけである。
「おや、零号はもう闘技場に向かったのか?」
と訊けば、「それが……」表情を曇らせトラ美は言った。
「まだ帰ってきてないんだ」
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