おじろよんぱく、何者?

月芝

文字の大きさ
上 下
922 / 1,029

922 獣王武闘会本戦 準々決勝第二試合 歩く天災

しおりを挟む
 
 英円が「音嗚滅爛虎慄紅武爪術、五の段、怨嗟」を発動した。
 これに慌てたのが、チームメイトであるオコジョくのいちのかげり、ネコ剣豪の宮本めざし、である。
 この攻撃は音を使った広範囲攻撃だ。
 つまり、中に取り込まれたら敵味方おかまいなしに、片っ端から喰い破る。
 狂気のレクイエムが鳴り響き、闘技場中央にて見えない凶刃が、凶爪が、凶牙が暴れ、英円を中心にして破壊の渦が巻き起こる。

「あの、馬鹿女っ!」かげりが文句をいいながら、距離をとった。
「……いつか必ず斬る」宮本めざしがぎろりと一瞥してから、その場を離れた。

 だというのにである。
 闘技場の一画だけは、まるで別世界のように、ゆったりまったり時が流れていた。
 ルクレツィア・ギアハートは涼しい顔にて、優雅にティータイムを続けている。いかに電磁柵に守られているとはいえ、それはあくまでも物理的な守りのみ。飛び回る音刃は防げない。
 なのに、それを可能にしていたのは、お世話役兼警護役のアニマルロボ天狼(しりうす)であった。
 ネコ頭の雌型自律歩行型ロボットは「にゃーん」と大口を開けては、喉の奥のスピーカーより怪しげな呪文みたいな声をでろでろ発していた。これが英円の狂奏を相殺して打ち消していたのである。
 すると口元にあったカップを静かに皿へと戻したルクレツィア・ギアハートが、ちらりと天狼に悩ましげな流し目を送りながら、ぽつりと言った。

「ずっと気になっていたんだけど……。あなた、シリウスなのにキャットなのは、どうしてなのかしら?」

 聚楽第が誇る量産型アニマルロボ甲(かぶと)は、イヌ頭の牡型である。
 そして唯一無二の機体であるアニマルロボ天狼(しりうす)は、ネコ頭のネコ耳でネコの尻尾を持つ雌型である。セクシーゴールドメタリックの八頭身ボディがじつに艶めかしい。内部には男心をくすぐる、わくわくギミック満載である。とはいえ十八禁な意味ではなくて、戦闘ロボ的なものなので、あしからず。
 まぁ、それはさておき名前のナゾである。
 何げに気にしていた観客も多かったようで、一瞬、英円と千石京志郎の激戦を横目にじっと聞き耳を立てる者がちらほらと。
 するとアニマルロボ天狼は、あっさり疑問に答えた。

「博士が徹夜明けのノリでつけました。『なんか、カッコよくね?』みたいな感じで」

 聚楽第の悪巧みを裏で支えるマッドサイエンティスト暮来真理(くれこまり)。
 動物至上主義を掲げる過激派団体にあって、ルクレツィア・ギアハートともども人間の身にありながら中核を担っている。
 そのうち「空飛ぶ百万馬力の鉄腕なアレ」とか「歴史改変上等だぜ! 的なとんでもタイムマシン」ぐらい作っちゃうんじゃねえの?
 というぐらいに優秀なのだが、いかんせん頭のネジがグラグラにて、科学者としての倫理観なんぞは、おんぎゃあと生まれた時に母親のお腹の中に置いてきた。天才にして歩く天災との異名を持つ女博士。
 そんな彼女が心血を注いで作り出した最高傑作がアニマルロボ天狼なのである。
 ちなみにその天狼は、自分と同系統の設計思想を持つ先輩機である、アニマルロボ零号を一方的にライバル視している。

 思っていた以上にしょうもない真相に一同がひょうし抜けしたところで、みなの注目が本筋である英円と千石京志郎の方へと戻った。

  ◇

 英円が大技をくり出し、それに呑み込まれた千石京志郎。
 ここには身を隠す場所がなく、ただ一方的に蹂躙されるばかり。
 かとおもわれたのだが、意外にも奮戦していた。

「ふんっ」

 獅子が気合いを込めて、どんっと地面を強く踏みしめる。
 これにより周囲に砂塵が舞い上がっては、薄いベールとなる。
 みずから視界を塞ぐかのような行為、だがそれこそが千石京志郎がとっさに考えついた「音嗚滅爛虎慄紅武爪術、五の段、怨嗟」対策であった。
 英円の見えない攻撃が迫るも、それが砂塵の幕に触れたときに、わずかな変化が起きる。
 これを瞬時に察知して、千石京志郎はサッと身をかわす。
 見えないのならば、見えるようにすればいいだけのこと。それが千石京志郎が得た答えであった。
 圧倒的理不尽ですべてを蹂躙しようとするトラ狂女・英円。
 知恵と卓越した武でもって、これに対峙する獅子の空手家・千石京志郎。
 双方一歩も引かず。
 戦いは、いよいよ佳境へと……。


しおりを挟む
感想 610

あなたにおすすめの小説

柳鼓の塩小町 江戸深川のしょうけら退治

月芝
歴史・時代
花のお江戸は本所深川、その隅っこにある柳鼓長屋。 なんでも奥にある柳を蹴飛ばせばポンっと鳴くらしい。 そんな長屋の差配の孫娘お七。 なんの因果か、お七は産まれながらに怪異の類にめっぽう強かった。 徳を積んだお坊さまや、修験者らが加持祈祷をして追い払うようなモノどもを相手にし、 「えいや」と塩を投げるだけで悪霊退散。 ゆえについたあだ名が柳鼓の塩小町。 ひと癖もふた癖もある長屋の住人たちと塩小町が織りなす、ちょっと不思議で愉快なお江戸奇譚。

狐侍こんこんちき

月芝
歴史・時代
母は出戻り幽霊。居候はしゃべる猫。 父は何の因果か輪廻の輪からはずされて、地獄の官吏についている。 そんな九坂家は由緒正しいおんぼろ道場を営んでいるが、 門弟なんぞはひとりもいやしない。 寄りつくのはもっぱら妙ちきりんな連中ばかり。 かような家を継いでしまった藤士郎は、狐面にていつも背を丸めている青瓢箪。 のんびりした性格にて、覇気に乏しく、およそ武士らしくない。 おかげでせっかくの剣の腕も宝の持ち腐れ。 もっぱら魚をさばいたり、薪を割るのに役立っているが、そんな暮らしも案外悪くない。 けれどもある日のこと。 自宅兼道場の前にて倒れている子どもを拾ったことから、奇妙な縁が動きだす。 脇差しの付喪神を助けたことから、世にも奇妙な仇討ち騒動に関わることになった藤士郎。 こんこんちきちき、こんちきちん。 家内安全、無病息災、心願成就にて妖縁奇縁が来来。 巻き起こる騒動の数々。 これを解決するために奔走する狐侍の奇々怪々なお江戸物語。

四尾がつむぐえにし、そこかしこ

月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。 憧れのキラキラ王子さまが転校する。 女子たちの嘆きはひとしお。 彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。 だからとてどうこうする勇気もない。 うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。 家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。 まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。 ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、 三つのお仕事を手伝うことになったユイ。 達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。 もしかしたら、もしかしちゃうかも? そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。 結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。 いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、 はたしてユイは何を求め願うのか。 少女のちょっと不思議な冒険譚。 ここに開幕。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

乙女フラッグ!

月芝
キャラ文芸
いにしえから妖らに伝わる調停の儀・旗合戦。 それがじつに三百年ぶりに開催されることになった。 ご先祖さまのやらかしのせいで、これに参加させられるハメになる女子高生のヒロイン。 拒否権はなく、わけがわからないうちに渦中へと放り込まれる。 しかしこの旗合戦の内容というのが、とにかく奇天烈で超過激だった! 日常が裏返り、常識は霧散し、わりと平穏だった高校生活が一変する。 凍りつく刻、消える生徒たち、襲い来る化生の者ども、立ちはだかるライバル、ナゾの青年の介入…… 敵味方が入り乱れては火花を散らし、水面下でも様々な思惑が交差する。 そのうちにヒロインの身にも変化が起こったりして、さぁ大変! 現代版・お伽活劇、ここに開幕です。

剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?三本目っ!もうあせるのはヤメました。

月芝
児童書・童話
世に邪悪があふれ災いがはびこるとき、地上へと神がつかわす天剣(アマノツルギ)。 ひょんなことから、それを創り出す「剣の母」なる存在に選ばれてしまったチヨコ。 辺境の隅っこ暮らしが一転して、えらいこっちゃの毎日を送るハメに。 第三の天剣を手に北の地より帰還したチヨコ。 のんびりする暇もなく、今度は西へと向かうことになる。 新たな登場人物たちが絡んできて、チヨコの周囲はてんやわんや。 迷走するチヨコの明日はどっちだ! 天剣と少女の冒険譚。 剣の母シリーズ第三部、ここに開幕! お次の舞台は、西の隣国。 平原と戦士の集う地にてチヨコを待つ、ひとつの出会い。 それはとても小さい波紋。 けれどもこの出会いが、後に世界をおおきく揺るがすことになる。 人の業が産み出した古代の遺物、蘇る災厄、燃える都……。 天剣という強大なチカラを預かる自身のあり方に悩みながらも、少しずつ前へと進むチヨコ。 旅路の果てに彼女は何を得るのか。 ※本作品は単体でも楽しめるようになっておりますが、できればシリーズの第一部と第二部 「剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?ただいまお相手募集中です!」 「剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?二本目っ!まだまだお相手募集中です!」 からお付き合いいただけましたら、よりいっそうの満腹感を得られることまちがいなし。 あわせてどうぞ、ご賞味あれ。

御様御用、白雪

月芝
歴史・時代
江戸は天保の末、武士の世が黄昏へとさしかかる頃。 首切り役人の家に生まれた女がたどる数奇な運命。 人の首を刎ねることにとり憑かれた山部一族。 それは剣の道にあらず。 剣術にあらず。 しいていえば、料理人が魚の頭を落とすのと同じ。 まな板の鯉が、刑場の罪人にかわっただけのこと。 脈々と受け継がれた狂気の血と技。 その結実として生を受けた女は、人として生きることを知らずに、 ただひと振りの刃となり、斬ることだけを強いられる。 斬って、斬って、斬って。 ただ斬り続けたその先に、女はいったい何を見るのか。 幕末の動乱の時代を生きた女の一代記。 そこに綺羅星のごとく散っていった維新の英雄英傑たちはいない。 あったのは斬る者と斬られる者。 ただそれだけ。

処理中です...