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919 獣王武闘会本戦 準々決勝第二試合 一心
しおりを挟む赤き一閃!
吹きあがる炎の壁。
とっさに直撃こそは避けたものの、殺到していた獣空手の四人は無事ではすまない。
なにせ炎龍の剣は高熱を宿し、寝ていた火山をも目覚めさせるほどのチカラを持つ初見殺し。そんなシロモノといきなり間近で対峙することになった四人の身は、瞬く間に炎に包まれた。
「ぎゃっ」「ぐわっ」「がはっ」
身を焼かれこそはしなかったものの、激烈な熱波を浴びてはじき飛ばされたのは、リビアヤマネコの春海凪、土佐犬の武田克頼、黒毛牛の佐渡豪ら三名。カラダ中からぶすぶすと白煙をあげながら地面を転がることになる。
だがただひとり、炎の壁を突破した者がいた。
イノシシの高山宗治。
先の三名たちは宮本めざしの放った炎の洗礼に怯んだがゆえに、熱波に呑み込まれたのだが、高山宗治は逆に一歩前へと踏み込んだ。突進力こそがイノシシの持ち味。ゆえにみずから炎の壁へと飛び込んだことにより、ダメージを最小限にとどめたのである。
火の勢いをものともせずに向かってくる相手に、宮本めざしは「ほう」と感心し言った。
「その心意気やよし! 雑魚との発言は訂正しよう」
戦うべき者として認める。
その証拠として腰に差してある二刀目「木花咲耶」を抜いた宮本めざし。
ネコ剣豪が遣う舎乱螺二刀流は本来であれば、大小二刀による攻防一体の剣術。だがすでに獣外の領域に達している宮本めざしは、軽々と大刀二本を自在に使いこなす。
「舎乱螺二刀流、螺閃」
二刀が閃き放たれる斬撃。だがその攻撃範囲が尋常ではない。刃による一刀、線の攻撃であるはずなのに疾駆する剣閃の周囲を並走する風刃たち。渦を帯びた剣閃の幅は半径一メートルほどにも達し、その空間のすべてを切り刻み抉る。
木花咲耶はすらりと美しい容姿をした白銀の太刀。華がある。陽光を受けるとほんのり桜色に煌めくのがとても艶やか。
片や炎龍の剣は猛々しい容姿をしている。
木花咲耶をたおやかな貴婦人とすれば、炎龍の剣は戦場の武者のよう。
桜色の閃きが優雅に舞い踊り、紅色の閃きが荒れ狂う。
二閃の猛攻にさらされることになった高山宗治。
たちまちその身が切り刻まれた。
だが倒れない!
血煙をあげ大小無数の傷を受けつつも、なおも立ち、さらには距離を詰めていく。
それを可能にしていたのは獣空手にて鍛えあげた両の拳。これにて迫る刃をさばいては、一歩また一歩前へと。
巻き藁や瓦に板、ときには熱した砂、鉄板やでこぼこした岩壁、降り落ちる瀑布、広い大地を、海で押し寄せる高波を相手にして。雨の日も風の日も雪の日も、四季に盆や正月も関係なく、ひたすら叩いて、叩いて、叩いて……。
ただ一心に打ち続けて鍛えた拳は、けっして凶刃に劣らない。
基本の防御の型を中心に、致命傷を喰らわぬように注意しながら、吹き荒れる刃の中をじりじりと進む高山宗治。
その姿はまさしく剛の者。
これに喜色を浮かべる宮本めざし。振り回していた二刀をぴたりと止めて、両翼を広げるかのようにしてかまえた。
「なんという不屈の闘志……、素晴らしい、敬意に値する。認めよう、おぬしはまごうことなき強者よ。ゆえにこの技を手向けとしよう。舎乱螺二刀流、螺突!」
言うなり宮本めざしの身が激しく横回転をはじめ、竜巻を生じ桜色と緋色の閃が交わりひとつとなった。そして放たれたのは全身を用いた螺旋状の突き技。トンネル工事でもするかのようにして、紅蓮の渦が地面を抉りながら進撃。立ち塞がるものすべてを薙ぎ払い突き進む。
これを前にして高山宗治は回避行動をとらず。
真正面から渾身の正拳突きを放つ。
ガッ!
重く鈍い音がしたのと同時に、イノシシの高山宗治が撥ね飛ばされて宙を舞った。
だがなおも宮本めざしの螺突は止まらない。高山宗治を蹴散らした勢いのままに闘技場内を疾駆し、春海凪ら三名へと襲いかかる。
先の攻撃にてダメージを負っていた三名はろくに対処できず。
迫る剣戟の渦に呑み込まれ、蹂躙されるばかり。そろって撥ね飛ばされ離れたところに、ぽとぽとと落ちた。
かくして一方的に四名を倒した宮本めざし。圧勝である。だがそのわりには苦々しい表情であった。
理由は肩口にもらった一撃のせい。左腕の付け根あたりに拳の型が刻まれていた。
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