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917 獣王武闘会本戦 準々決勝第二試合 生き残り戦
しおりを挟む会場修繕のため中断するとのアナウンスがあってから、きっかり一時間後に再開された大会。
天狗どもに派手に破壊されたはずの闘技場。天井の大穴は消えており、ぼろぼろになった防壁などもきれいになっているばかりか、プラスアルファの防御措置が施され、より客席の安全性が高められていた。
わずかな時間ですっかり元通り以上になっており、まるで化かされているかのような状況に、戻ってきた観客たちはあんぐりしっ放し。
準々決勝第二試合は、獣空手VS新生パンドラ。
一回戦でワールドベアーズとがっつり殴り合いを演じた獣空手チーム。チカラと技の応酬にて、けっこうなダメージを負っての辛勝であったのにもかかわらず、一日経ったらケロリとしている獣空手チームの面々。ケダモノが持つ生来のタフさに加えて、大会運営側……というか聚楽第の持つ医療技術の高さがいかんなく発揮されたせいである。「承認、ナニそれ?」と怪しげな薬物エックスをドバドバ投薬したとのウワサも……。
これと対する新生パンドラは、一回戦の変則タッグ戦を余裕で勝ち抜いたので、ほぼノーダメージ。とはいえチームメンバーにお飾り要員であるルクレツィア・ギアハートを抱えているので実質は四人のみで戦うから、ハンデを背負っているようなもの。また個々の能力は高くとも、個性が強すぎて団結や連携などはほとんど期待できないというマイナス要因もある。試合形式次第では互いの足を引っ張りかねないので、チームとしては必ずしも優れているとはいえない。
そして肝心の試合形式なのだが、生き残りのバトルロイヤルに決まった。
全員が入り乱れての戦いは、獣空手にとってかなり有利な形式となる。
なぜなら全員が同じ武術を納めており、互いの手の内を熟知しているから。それに彼らの稽古の中には百人組み手のみならず合戦組み手などもあって、一対多数もしくは複数対複数を想定した鍛錬も充分に積んでいる。
しかし新生パンドラの方にとっては最悪の形式。
互いの実力は認めているものの、さりとて手を取り合ってとか、背中を合わせて協力するなんぞという考えは微塵もなし。むしろ敵ごとぶった切る、まとめて叩きのめす、みたいな考えの持ち主ばかり。さらには非戦闘員の存在も足枷となる。全員が闘技場に集うがゆえに、ルクレツィア・ギアハートもその場に居合わせることになる。おそらくはそうそうにギブアップをして退避するのであろうが……。
いざ、試合開始!
が、以外な展開に観客たちはきょとん。
てっきりすぐにギブアップして退場するとおもわれたルクレツィア・ギアハートが、戦いの場から逃げ出さない?
ばかりか、いつのまに持ち込んだのかテーブルとイスにて、アニマルロボ天狼(しりうす)に給仕をさせて優雅にティータイムを始めてしまった。
いちおう戦いの邪魔になっては悪いと考えているのか、闘技場の隅の方とはいえ、さすがにこの舐めた態度にカチンときたのが獣空手チームのリビアヤマネコの春海凪(はるみなぎ)。
「このっ、お高くとまってんじゃねーよ!」
しなやかに肢体を動かし滑るように地を疾駆する春海凪。その駆ける様はまさしく食肉目ネコ科ネコ属のもの。現在の世界中で愛玩されているイエネコの祖ともいわれているリビアヤマネコ。イエネコよりも足が長く、砂漠やサバンナに森など、熱帯雨林以外の場所にて幅広く生息しており、その行動圏はとても広く五十平方キロメートルを越えることもあるほど。
春海凪の身が躍動し、いっきにルクレツィア・ギアハートへと迫る。
だがその足が急に止まった。
止めたのはルクレツィア・ギアハート。なんてことはない。手にしていたティーカップの熱い中身をびしゃり、春海凪へと向けて撒いただけのこと。
なのに春海凪の進撃は止められた。
ルクレツィア・ギアハートは美の化身と謳われるトップモデルにして最強のインフルエンサー。彼女の言動ひとつで巨万の富が動き、一挙手一投足に世界中が踊る。
そんな彼女の視線とわずかな動きを、どうしても無視できなかった春海凪。単純な腕力による強弱とはちがう種類の強さを、まざまざと見せつけられたせいであった。
かつて誰かが言った。
「名画は名画と称えられ多くの人々に観られ続けることで、真の名画となる」と。
かの世界一の微笑みと称される肖像画は、そうやって熟成されたことで人類の至宝とまでいわれるようになったらしい。
思い込みといえばそれまでだが、これが存外あなどれない。
ある物事を知りその本質や意義などを理解すること、それを「認識」という。
それを完全に支配下に置いたとき、その存在は絶対へと昇華する。そして一度、浸透した「認識」は生半可なことではくつがえらない。
ルクレツィア・ギアハートはその「認識」を手に入れつつある。
誰もが彼女から目が離せない。
「それ以上は近寄らない方がいいわよ」
カラになったティーカップをぷらぷらさせながら、ルクレツィア・ギアハートが見つめていたのは、春海凪ではなくて彼女の足下。
地面には等間隔で銀の筒状の物が埋め込まれていた。
それはアニマルロボ天狼が設置した罠。うかつに近づけば、たちまち電磁柵の餌食になって黒焦げになる。
もしも勢いのままに突っ込んでいたらと想像し、春海凪は真っ青になった。
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