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908 獣王武闘会本戦 準々決勝第一試合 続・中堅戦
しおりを挟むカツンカツン、カンカン、カカン、カン、カカカカカカカカカッ……。
大量の土玉が互いに干渉し合っては、激しくぶつかり、はじき、集合離散を繰り返す。
点と点が結ばれ描かれる三角形、四角形、六角形などが寄り集まって、より巨大な幾何学模様となる。
彦山燕奉の放った「天狗つぶて・瞋恚」の中に取り込まれた五島八雲は、四方八方から土玉に襲われることになった。どうにか囲みの中から逃げ出そうと試みるも、それを許さないのが加速。土玉が反動を経るほどに、より速く、勢いを増して飛び交う。それらが二重三重に周囲をかこんでおり、とても抜け出せない。
そしてついにその身を土玉のひとつが掠めた。
肩先に喰らったひょうしに五島八雲が「あっ」
体勢を崩しつんのめって四つん這いとなったところに、「もらった!」と彦山燕奉。印を結んだとたんに土玉の形状が変わり円錐状となった。一斉に鋭い突端が獲物へと向いた。
シマウマの青年へと容赦なく降り注ぐ土円錐たち。
ばかりではない。彦山燕奉は手元に残していた分をも放つ。
ドドドドドドッ! ふたつの火線による十字砲火の猛攻。炸裂するクロスファイア。地響きが起き、もうもうと土煙があがって、青年の姿はあっというまに見えなくなった。
◇
しぃんと静まり返った闘技場内。
舞い上がった粉塵のせいで視界不良、まるで砂嵐の中にいるかのよう。
口元にハンカチを当てながら、鬱陶しそうに葉団扇を振るったのは彦山燕奉。そのひと振りによって起こった風が、土煙を吹き飛ばす。
けれどもあらわれたのは意外な光景。
誰もがズタボロにされて横たわる五島八雲が姿をあらわすものとばかりおもっていたのに、そこにあったのは人型をした土塊の残骸であったから。
「ほぅ」
彦山燕奉の目元が厳しくなる。こしゃくにも術をかわされたからだ。
だがその身が、突然、ばっと横っ跳び。
足下の異変を察知しての回避行動、そしてすかさず放ったのは葉団扇の一閃。ふつうに団扇を振るのではなくて、寝かせての動作。これにより見えない刃が飛んだ。
斬っ!
地面の下から飛び出してきた相手の胴体が真っ二つになった。
が、それは奇襲を仕掛けた五島八雲ではなくて、またもや人型の土塊――囮っ!
はっと彦山燕奉が気づいたときには、背後から五島八雲が抱きついていた。首へと回された腕が、喉へと食い込みぎちりと締めあげる。
「ぐっ、お、おのれ、離せ」
どうにかして振り払おうともがく彦山燕奉。だが暴れるほどに五島八雲の締め技はより強く深くからみつく。
なのにそれでも彦山燕奉は倒れない。気道を塞がれ、血管も抑えられているのに、それでも立ち続ける。完璧に極まっているのにである。
それを目の当たりにした五島八雲、このままではいずれ振りほどかれると判断して……。
「あんまりこういうのは柄じゃないんだけどなぁ。でも負けたらあとで如月団長にどやされるし」
ぶつぶつぼやきながら発動したのは「蹄轍修験道・土遁・流砂洞」なる奥義。
足下にて流砂が発生し、ふたりがずぶずぶ呑み込まれていく。
闘技場内には土砂が敷き詰められており、それもあってたちまちふたりの姿は地面の中へと消えた。
かとおもえば次の瞬間のこと。
どぉおぉぉぉぉぉぉぉん!
爆発音とともに地の底から噴き出したのは紅蓮の火柱。
そしてひゅるるるると煙の長尾がふたつ。ふた筋の煙は火柱を挟んで向かい側へとのびていく。
離れたところに落下したのは、彦山燕奉と五島八雲。
ともに全身黒焦げにて白眼をむいている。
このままでは勝てないと判断した五島八雲が、彦山燕奉を道連れにしての自爆を決行したのである。
逃げ場のない地面の下で、背中に組みつかれたまま、ろくに身動きもとれないところを至近距離でドカンと爆破を喰らった彦山燕奉。さしもの天狗もこれには耐えかねたらしい。
かくして中堅戦は、五島八雲が意地で引き分けに持ち込んだものの、観客のみなをこう思った。
「シマウマの青年にそこまでさせる如月団長っていったい……」
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