おじろよんぱく、何者?

月芝

文字の大きさ
上 下
908 / 1,029

908 獣王武闘会本戦 準々決勝第一試合 続・中堅戦

しおりを挟む
 
 カツンカツン、カンカン、カカン、カン、カカカカカカカカカッ……。

 大量の土玉が互いに干渉し合っては、激しくぶつかり、はじき、集合離散を繰り返す。
 点と点が結ばれ描かれる三角形、四角形、六角形などが寄り集まって、より巨大な幾何学模様となる。
 彦山燕奉の放った「天狗つぶて・瞋恚」の中に取り込まれた五島八雲は、四方八方から土玉に襲われることになった。どうにか囲みの中から逃げ出そうと試みるも、それを許さないのが加速。土玉が反動を経るほどに、より速く、勢いを増して飛び交う。それらが二重三重に周囲をかこんでおり、とても抜け出せない。
 そしてついにその身を土玉のひとつが掠めた。
 肩先に喰らったひょうしに五島八雲が「あっ」
 体勢を崩しつんのめって四つん這いとなったところに、「もらった!」と彦山燕奉。印を結んだとたんに土玉の形状が変わり円錐状となった。一斉に鋭い突端が獲物へと向いた。
 シマウマの青年へと容赦なく降り注ぐ土円錐たち。
 ばかりではない。彦山燕奉は手元に残していた分をも放つ。
 ドドドドドドッ! ふたつの火線による十字砲火の猛攻。炸裂するクロスファイア。地響きが起き、もうもうと土煙があがって、青年の姿はあっというまに見えなくなった。

  ◇

 しぃんと静まり返った闘技場内。
 舞い上がった粉塵のせいで視界不良、まるで砂嵐の中にいるかのよう。
 口元にハンカチを当てながら、鬱陶しそうに葉団扇を振るったのは彦山燕奉。そのひと振りによって起こった風が、土煙を吹き飛ばす。
 けれどもあらわれたのは意外な光景。
 誰もがズタボロにされて横たわる五島八雲が姿をあらわすものとばかりおもっていたのに、そこにあったのは人型をした土塊の残骸であったから。

「ほぅ」

 彦山燕奉の目元が厳しくなる。こしゃくにも術をかわされたからだ。
 だがその身が、突然、ばっと横っ跳び。
 足下の異変を察知しての回避行動、そしてすかさず放ったのは葉団扇の一閃。ふつうに団扇を振るのではなくて、寝かせての動作。これにより見えない刃が飛んだ。

 斬っ!

 地面の下から飛び出してきた相手の胴体が真っ二つになった。
 が、それは奇襲を仕掛けた五島八雲ではなくて、またもや人型の土塊――囮っ!
 はっと彦山燕奉が気づいたときには、背後から五島八雲が抱きついていた。首へと回された腕が、喉へと食い込みぎちりと締めあげる。

「ぐっ、お、おのれ、離せ」

 どうにかして振り払おうともがく彦山燕奉。だが暴れるほどに五島八雲の締め技はより強く深くからみつく。
 なのにそれでも彦山燕奉は倒れない。気道を塞がれ、血管も抑えられているのに、それでも立ち続ける。完璧に極まっているのにである。
 それを目の当たりにした五島八雲、このままではいずれ振りほどかれると判断して……。

「あんまりこういうのは柄じゃないんだけどなぁ。でも負けたらあとで如月団長にどやされるし」

 ぶつぶつぼやきながら発動したのは「蹄轍修験道・土遁・流砂洞」なる奥義。
 足下にて流砂が発生し、ふたりがずぶずぶ呑み込まれていく。
 闘技場内には土砂が敷き詰められており、それもあってたちまちふたりの姿は地面の中へと消えた。
 かとおもえば次の瞬間のこと。

 どぉおぉぉぉぉぉぉぉん!

 爆発音とともに地の底から噴き出したのは紅蓮の火柱。
 そしてひゅるるるると煙の長尾がふたつ。ふた筋の煙は火柱を挟んで向かい側へとのびていく。
 離れたところに落下したのは、彦山燕奉と五島八雲。
 ともに全身黒焦げにて白眼をむいている。
 このままでは勝てないと判断した五島八雲が、彦山燕奉を道連れにしての自爆を決行したのである。
 逃げ場のない地面の下で、背中に組みつかれたまま、ろくに身動きもとれないところを至近距離でドカンと爆破を喰らった彦山燕奉。さしもの天狗もこれには耐えかねたらしい。
 かくして中堅戦は、五島八雲が意地で引き分けに持ち込んだものの、観客のみなをこう思った。

「シマウマの青年にそこまでさせる如月団長っていったい……」


しおりを挟む
感想 610

あなたにおすすめの小説

柳鼓の塩小町 江戸深川のしょうけら退治

月芝
歴史・時代
花のお江戸は本所深川、その隅っこにある柳鼓長屋。 なんでも奥にある柳を蹴飛ばせばポンっと鳴くらしい。 そんな長屋の差配の孫娘お七。 なんの因果か、お七は産まれながらに怪異の類にめっぽう強かった。 徳を積んだお坊さまや、修験者らが加持祈祷をして追い払うようなモノどもを相手にし、 「えいや」と塩を投げるだけで悪霊退散。 ゆえについたあだ名が柳鼓の塩小町。 ひと癖もふた癖もある長屋の住人たちと塩小町が織りなす、ちょっと不思議で愉快なお江戸奇譚。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います

ゆさま
ファンタジー
美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされ、生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれてしまった、ベテランオッサン冒険者のお話。 懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

竹林にて清談に耽る~竹姫さまの異世界生存戦略~

月芝
ファンタジー
庭師であった祖父の薫陶を受けて、立派な竹林好きに育ったヒロイン。 大学院へと進学し、待望の竹の研究に携われることになり、ひゃっほう! 忙しくも充実した毎日を過ごしていたが、そんな日々は唐突に終わってしまう。 で、気がついたら見知らぬ竹林の中にいた。 酔っ払って寝てしまったのかとおもいきや、さにあらず。 異世界にて、タケノコになっちゃった! 「くっ、どうせならカグヤ姫とかになって、ウハウハ逆ハーレムルートがよかった」 いかに竹林好きとて、さすがにこれはちょっと……がっくし。 でも、いつまでもうつむいていたってしょうがない。 というわけで、持ち前のポジティブさでサクっと頭を切り替えたヒロインは、カーボンファイバーのメンタルと豊富な竹知識を武器に、厳しい自然界を成り上がる。 竹の、竹による、竹のための異世界生存戦略。 めざせ! 快適生活と世界征服? 竹林王に、私はなる!

記憶なし、魔力ゼロのおっさんファンタジー

コーヒー微糖派
ファンタジー
 勇者と魔王の戦いの舞台となっていた、"ルクガイア王国"  その戦いは多くの犠牲を払った激戦の末に勇者達、人類の勝利となった。  そんなところに現れた一人の中年男性。  記憶もなく、魔力もゼロ。  自分の名前も分からないおっさんとその仲間たちが織り成すファンタジー……っぽい物語。  記憶喪失だが、腕っぷしだけは強い中年主人公。同じく魔力ゼロとなってしまった元魔法使い。時々訪れる恋模様。やたらと癖の強い盗賊団を始めとする人々と紡がれる絆。  その先に待っているのは"失われた過去"か、"新たなる未来"か。 ◆◆◆  元々は私が昔に自作ゲームのシナリオとして考えていたものを文章に起こしたものです。  小説完全初心者ですが、よろしくお願いします。 ※なお、この物語に出てくる格闘用語についてはあくまでフィクションです。 表紙画像は草食動物様に作成していただきました。この場を借りて感謝いたします。

真夜中の仕出し屋さん~料理上手な狛犬様と暮らすことになりました~

椿蛍
キャラ文芸
「結婚するか、化け物屋敷を管理するか」 仕事を辞めた私に、父は二つの選択肢を迫った。 料亭『吉浪』に働いて六年。 挫折し、料理を作れなくなってしまった―― 結婚を断り、私が選んだのは、化け物屋敷と父が呼ぶ、亡くなった祖父の家へ行くことだった。 祖父が亡くなって、店は閉まっているはずだったけれど、なぜか店は開いていて―― 初出:2024.5.10~ ※他サイト様に投稿したものを大幅改稿しております。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...