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907 獣王武闘会本戦 準々決勝第一試合 中堅戦
しおりを挟む一勝一敗で迎えた中堅戦。ここを抑えるかどうかで、試合の流れを決めかねない重要な局面。
姫路アニマルキングダム選抜からは、五島八雲。
天狗道からは、彦山燕奉。
五島八雲はシマウマ青年。西国予選にもチームメンバーとして参加しており、見た目は今風の兄ちゃんにて、へらへらした締まりのない顔。ちょっとちゃらくて軽薄っぽいけど、ひょうひょうとした雰囲気もあり、どこか憎めない愛嬌もある。およそ戦いとは無縁っぽい容姿ながらも、蹄轍修験道の遣い手。近衛師団の階位は九。仮にも一桁ナンバーなだけあって、相応の実力の持ち主であることだけはたしか。
ちなみに蹄轍修験道は、他の武術とは少しばかり生い立ちや毛色がちがう。もとは山岳修行から生まれたもの。ゆえに戦いに主観をおかず、あくまで自衛手段としている。隠形や移動手段に長け、険しい山や森林を自在に駆け、地形や環境を味方とする。それゆえか忍者ばりの術を行使する。
彦山燕奉は九州は福岡一帯を支配する大天狗・彦山豊前坊の旗下の者。上背こそはあるが先に戦った白峰胡法ほどごつごつとはしておらず、顔も瓜実顔にて、男天狗特有の鼻はあるものの、あまり長くはなく、肌も色白、どこか公家の若君を彷彿とさせる雰囲気。ヤツデの葉を模した天狗の葉団扇よりも、扇子などが似合いそう。天使をおもわせる白い翼もまた雅を助長させている。なお天狗の翼は黒もしくは濃い藍色がほとんどにて、白は非常に珍しい。
闘技場には無手にてあらわれたので、てっきり徒手空拳の類かとおもいきやさにあらず。
試合開始直後、素早く印を結び「吽」と唱えた彦山燕奉。
たちまち周囲の地面が波打ち、ぽこぽこと出現したのは丸い玉。その数は百と八つ。
土塊が変じたそれらが、彦山燕奉を守るように囲み宙に浮かんでいる。
「悪いが私は暑苦しいのは苦手でね。あと服が汚れるのも厭なんだ」
血と汗を垂れ流してのど突き合いとか真っ平ごめん。
そして天狗の誇りやら面子よりも、自分の都合を優先させる彦山燕奉。それもまた天狗らしいといえば天狗らしい。
かくして発動された術は「天狗つぶて・瞋恚」
これは大地のチカラを借りて百八の玉を産み出し、自在に操るというもの。なお瞋恚とは数多ある煩悩のうちで、もっともやっかいとされる三つのうちのひとつを指す言葉。
底なしの欲を示す、貪欲。
妬み嫉む気持ちを示す、愚痴。
満たされず増幅する怒りを示すのが、瞋恚。
そして天狗つぶては空からいきなり石が降ってくる怪現象のこと。
天狗つぶて・瞋恚にていっきに勝負を決しようとする彦山燕奉。
ひゅんと打ち出される丸い土玉、もとは土とはいえ圧縮されて固まっているので強度は鉄ほどもある。そんなものが猛然と飛んでくる。当たればもちろんただではすまない。
だが当たらない。次々と射出される玉を、ひょいひょいと軽快にかわす五島八雲。
これに片眉をぴくりとさせた彦山燕奉。さらに攻撃の手を強め、射出間隔がどんどんと狭くなり、ついにはほとんど間断なく放たれ、張られた弾幕。
けれどもそれすらも五島八雲は、かわす、かわす、かわす。
そうしているうちにも、みるみる減っていくのは彦山燕奉の持ち玉。はや残りが三分の一を切っている。そして減った分だけ彼の身を守るものが居なくなっている。
そろそろ頃合いかと、攻撃に転じようとした五島八雲。しかし数歩踏み出したところで、はっと背後から迫る気配を察して、慌てて横へと避けた。
直後に、さっきまで五島八雲が居た場所を通り過ぎたのは、うしろから飛んできた土玉。
気づけば前後左右を浮かぶ土玉に囲まれていた五島八雲。
これまでのはすべて前振りにて、本番はこれから!
宙に浮かぶ六十以上もの土玉たち。それらがカツンカツンと互いに干渉しあって、複雑怪奇な動きをみせる。その姿はまるで台の上を転がるビリヤードの玉のごとし。
「せいぜい足掻いてみせたまえ」
ぱちんと指を鳴らす彦山燕奉。ひょうしに彼の手元より放たれたひとつの土玉。
勢いよく突っ込んでいき、五島八雲を囲む土玉群の外側にあったひとつにぶつかり、連動が生じる。ひとつがふたつ、ふたつがよっつ、よっつが……と倍々に膨れ上がっていき、たちまち囲み全体が動き出した。
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