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904 獣王武闘会本戦 準々決勝第一試合 続・先鋒戦
しおりを挟む試合開始とともに、闘技場中央にて黒い疾風が起こった。
一閃したのは黒刃。
細川巴の薙刀である。ただし柄の端っこ、石突のところから鎖がじゃらりと伸びていた。
伸びた鎖の分だけ間合いが届く。
「山吹倶利伽羅流、椿」
ポトリと散るさまが、まるで首を落とされるようだと武士たちから厭われた花。
その花にちなんだ技はまさしく一刀の下、相手の首を刈るもの。
山吹倶利伽羅流。
薙刀に体術が組み合わさった流派。動きは意外にアグレッシブ。とにかく足癖が悪い。可憐な花の名前にちなんだ技はどれも殺傷能力充分。そもそもの話、この流派には峰打ちなどという概念がない。数多の古戦場を経て磨かれてきた武は殺人剣の流れを汲む。
刀と薙刀の勝負となった先鋒戦。
いきなり仕掛ける細川巴。
が、次々と繰り出される幅広かつ肉厚な薙刀の刃を一歩も動くことなく、受け、はじき、かわし、流していなし、平然としていたのは鞍馬山三千代。しかもいまだに刀は鞘の中!
薙刀が首や胴を薙ぎにきたところを、鞍馬山三千代は柄頭や鞘の先にてちょんと平刃を小突くことで軌道をそらしていたのである。
とんでもない見切り!
かの二刀流の剣豪は額につけた米粒のみを切らせるという、一寸の見切りを会得していたというが、それを遥かに上回っている。
キィン! ギャン! チンッ! ジャッ! ガッ!
鋭い衝突音が続く。
けれどもよくよく見てみたら両者の間合いがじりじり狭まっていた。
鞍馬山三千代が薙刀の猛攻下にあって、少しずつ前進していたのである。
そして両者の距離が三メートルほどにまで近づいたところで、おもむろに閃いたのは鞍馬山三千代の剣。身を低くしてゆっくりと刀を抜いたように見えたが、放たれた剣は神速。
届かぬはずの距離だというのに、鞍馬山三千代の放った切っ先が細川巴の腹を裂かんとする。
ひらり――。
宙を舞ったのは細川巴。まるで棒高跳びの背面跳びのように斬撃をかわす。
だがそこへさらなる鞍馬山三千代の追撃。翻った切っ先が逃げたナキハクチョウを猛追。これを打ち落とさんとする。
しかし繰り出された刃はふたたび空を切る。
はらり――。
それは風を受けた軽やかな羽毛のような動きであった。
逃げ場のない中空にて、さらにもう一段上へと舞い上がった細川巴。それを可能にしていたのは自身の得物。長柄の薙刀を杖代わりにしての跳躍。
ならばと鞍馬山三千代が放ったのは刺突。
空中にいる相手を串刺しにせんと狙う。
それに前後して、手にした鎖を引き、突き立っていた薙刀を手元に戻した細川巴。
期せずして天と地で対峙することになった両者。
「山吹倶利伽羅流、梅」
心の胸をひと突き、胸元にて赤い梅の花のような傷が残る突き技。
突きと突き、両者の刃の切っ先がぶつかった。
刹那、咲いたのは火花。
もともとの武器の重量、刃の大きさ、天から地へと向かう勢い、すべてにおいて上にいる細川巴が優勢であったはず。なのに押しきれない。ばかりか押し返された!
この状態で打ち負けたことに驚きつつも、その時に生じた衝撃を利用して、いま一度、空へと舞い上がったナキハクチョウ。その表情には若干ながらも焦りの色が見え隠れ。理由はことここに至っても、相手が奥義らしい奥義をひとつも披露していないから。
そんな細川巴の心情を察したのか、鞍馬山三千代がくすりと笑みにて言った。
「出し惜しみなんてしていませんよ。そもそも鞍馬流には奥義などというものが存在しないのですから」
かの源義経も学んだという鞍馬流剣術には、派手な必殺技は皆無。
ただ剣を剣として扱う。あるのは基本的な動作のみ。だがそれゆえにすべてが洗練され、高められている。裏を返せばすべての所作が必殺にて、すべての刃が奥義と同等の威力を持つということ。
敵を屠るのに大袈裟な技なんぞは必要ない。急所をちょんと突くか払えばそれで済む。
加えて現状では大地をも味方につけており、存分に踏ん張れる。
すべてを剣の切っ先の一点に集中できる。
それが薙刀の刃がたやすくはじかれた理由であった。
宙にて身を翻した細川巴、両手にてしっかり薙刀を持ちなおし、これを振り下ろす。
「山吹倶利伽羅流、曼殊沙華」
疾風怒涛の連続斬り。パッと彼岸花が咲いたように血が舞――わない?
迎え討った鞍馬山三千代の剣嵐が吹き荒れ、迫りくる薙刀の刃、そのことごとくを正面から受け止め、次々と撃破していく!
入り乱れる刃、凄まじい応酬に剣戟が鳴りやまない。
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