おじろよんぱく、何者?

月芝

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897 獣王武闘会本戦 一回戦第八試合 後編・延長

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 科学の子のチカラの前に倒れた上泉幻雲斎。人化が解けて全身ちりちりパーマ姿と成り果てた。
 一方で渡辺津奈が繰り出した必殺の十文字槍が空を切り、槍身にとりついたのはタエちゃん。絡みついた手、とたんに表面を滑るようにして移動を開始。
 ヘビ族に伝わる武「かさね
 締め技に特化しており、指先から頭まで、するりと流れるように極めていく。合気道の要素もあって、気の流れを読んだり操ったりもする。ゆえに密着状態になれば、ほぼほぼ脱出は不可能。音もなく忍び寄る様は地を這うヘビのごとく。特有の見切りと特殊な歩法、これを自分の長い手足用にアレンジした動きにて、渡辺津奈へと迫るタエちゃん。

 長柄の武器は間合いの広さが有利であるが、反面懐に入られると弱い。だが弱点がわかっていて放置するなんてありえない。ちゃんと近接用の技がある。
 持ち手の位置を素早く変えた渡辺津奈。それと同時に槍伝いに正面から近づいてくるタエちゃん対して膝蹴りを放つ。
 あっさり槍から離れさっと横に避けたタエちゃん。とたんに小脇にした槍がくるんと上下に一回転。振り下ろされたのは石突。叩き伏せるようにして相手の首筋目掛けて、ぶぅん!
 槍を棍棒に見立てての殴打。だが手応えはない。捉えたのは残像。
 刹那、タエちゃんはさらにもう半歩脇へと踏み込んでいたのである。

「なっ!」

 目を見開く渡辺津奈。その顎先を痛打したのはタエちゃんの掌底。
 真下からの突き上げを喰らって、渡辺津奈の頭がのけ反りかけるも、ぐっと堪え踏ん張る。
 が、そこへ首に絡みついてきたのがタエちゃんの腕。
 打撃からの組み手、奥襟を取っ手の豪快な投げが炸裂!
 渡辺津奈はとっさに受け身をとろうとするも、それをさせてもらえない。瞬間、重心が崩された?
 狐崑九尾羅刃拳の俊敏さ、累の動き、狸是螺舞流武闘術の打撃、屋島蓑山流四十八霊の重心ずらしに投げなどなど。これまでに対峙した相手から吸収したそれらをミックスし独自にアレンジを加えた集大成。
 一見すると地味だが、それはすべてがきちんと連動しており、昇華され無駄がごっそり省かれているがゆえ。
 観る者が見れば打ち震えるほどの洗練された一投。
 地につくのと同時に渡辺津奈の意識はスパッと刈り取られて勝負あり。

  ◇

 先鋒戦、中堅戦ともにチーム尾白探偵事務所の勝利。
 よって大将戦は不要。だが益荒男側からのたっての希望で行われることになった。
 闘技場中央にて対峙するのは、タヌキ娘の洲本芽衣とイヌ美剣士の佐々木アルフォート。

 芽衣は探偵事務所の第一助手であり、狸是螺舞流武闘術の達人にて蒼雷の名を受け継ぐ者。
 佐々木アルフォートは長刀を背に持ち貴公子然とした容姿。久万句弓一刀流くまくていっとうりゅう免許皆伝の猛者。ハスキーとドーベルマンのミックス犬にて、やせマッチョに銀の毛並みを持つ。四肢も鼻筋も長い美犬。家イヌ。本大会には西国予選にて自分たちを裏切り聚楽第に与して闇堕ちした、かつてのライバルで友でもあった宮本めざしを止めるべく参戦。だが志半ばにして早や退場が決定してしまった。
 とどのつまりは不完全燃焼である。
 その無念、悔しさをおもんばかって芽衣はこの勝負を受けた。

「先に言っておくけど、わたしは強いよ。それから前から気になっていたんだけど、あなたの名前ってば、あのクッキーとチョコがくっついたお菓子からつけられたの?」
「知っている。だが私とて無為に過ごしてきたわけじゃない。名前に関してはそうだ。うちのご主人様のお嬢さんが昔から好きでな」

 試合開始の合図とともに背の長刀を抜いた佐々木アルフォート。
 長い得物が袈裟懸けに抜かれ、いきなり芽衣へと襲いかかる。
 迫る切っ先、これをさっと脇にかわず芽衣。その隙に間合いを詰めようとするもそれは適わず。切っ先がきぃんと跳ねる。振り下ろしからの切り上げ、Vの字を描く銀閃、かと思えばそれが重なりWとなった。
 目にも留まらぬ早業! これにより芽衣はさらなる回避を余儀なくされる。
 かとおもえばいきなり剣の軌道が変化。横一閃にて剣速がさらに増した。
 大きく飛び退った芽衣、その頬に薄っすら傷が浮かび血がにじむ。


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