878 / 1,029
878 獣王武闘会本戦 一回戦第三試合 後編
しおりを挟む正面からの殴り合いから一転してのかけ引き。
巧妙なる布石から投げを放ち、まずはホッキョクグマの緒太守兜来が序盤を制す。
だが下が砂地であったことがさいわいし、ライオンの千石京志郎はすぐさま立ち上がる。とはいえ受けたダメージはけっして軽くない。軽く脳震盪でも起こしたのか、若干、足が震えている。
緒太守兜来の巨体が前傾姿勢にて突進。押し倒しマウントをとってしまえば、あとは圧殺できる。タックルにて足を獲りに行く。このパワーで諸手刈りを喰らえば、最悪、足の靭帯や関節が粉砕されかねないであろう。
窮地が続く千石京志郎。そこへ緒太守兜来が襲いかかる。
ドガッ!
タックルが決まり、そのまま……。
千石京志郎は押し倒されない? ばかりかがっちり受け止めており、微動だにせず。
緒太守兜来の体がぶつかる寸前、千石京志郎は半身を引いて右脚を下げた。ややがに股気味にて腰を落としての「カニ型」と呼ばれる構えをとる。これにより体勢が下がり、重心が固まる。加えて相手に対して体を横に向けることでヒットポンとが半減する。また角力の四股立ちに近いので安定感も抜群かつ、前後移動が滑らかになるメリットもある。
伝統派空手の組手でよく見られる型。なお現代のリング上で行われる格闘技では、両手を上げた「猫の構え」、いわゆるムエタイやキックボクシングのファイティングポーズが主流となっている。
緒太守兜来、渾身のタックルを受けてなおも立ち続けている千石京志郎。
その姿はまるで大地に根を張る大木のごとし。
これには緒太守兜来もびっくり! だがすぐにはっと我に返って「ならば!」とふたたび投げを狙う。けれども先ほどは軽々と持ちあげられた千石京志郎のカラダがぴくりとも浮かないではないか!
相手の腰にしがみつき、どうにかしようともがく緒太守兜来。
でも次の瞬間、その左横腹に突き刺さったのは千石京志郎の拳。足はそのまま踏ん張ったままにて、上半身だけを回しての右打ち。ふつうであれば腕だけの攻撃ゆえにたいした威力はでないはず。だが放たれた拳はめきりと緒太守兜来の筋肉をひしゃげ、肋骨を数本へし折る。
これを可能にしていたのは異常な腰回りの柔軟性。常人がせいぜい九十度も回せればいいところを、千石京志郎は百八十度近くまで回す。いかに柔軟性には定評のあるネコ目ネコ科ヒョウ属とはいえ、これはありえない!
そのありえないを実現しているライオンの王者。
「ぐはっ」
強烈な一撃を横っ腹に喰らった緒太守兜来、血反吐にてたまらず手を離し、その身がごろんごろんと派手に転がった。
どうやら今度は先のお返しとばかりに、千石京志郎の側がわざと隙を作り相手を誘ったらしい。
◇
地面にだんと手をつき、むくりと立ち上がる緒太守兜来。
あえて追い打ちはせず。堂々と待つ千石京志郎。
力と力、技と技、知恵と知恵、意地と意地……。
実力伯仲につき死力を尽くす両雄。
一進一退の攻防が続き、みるみる蓄積されていくダメージ。
そして迎える決着の刻。
この勝負を紙一重にて制したのは、ホッキョクグマの緒太守兜来であった。オタスツクルというアイヌの勇者の名を冠する男が、強敵を撃破し歓喜の雄叫びをあげる。
かくしてワールドベアーズと獣空手との試合は、二勝二敗一分けにて延長戦へともつれ込む。
だがワールドベアーズの健闘もここまで。
チームメンバーらはみな満身創痍。
そこで延長戦も引き続き己が戦う決断を下した緒太守兜来であったが、いかんせん大将戦で負ったダメージが大き過ぎた。
対して獣空手側から出てきたリビアヤマネコの春海凪は元気一杯。
本来ならばけっして緒太守兜来が遅れをとる相手ではないが、重たいハンデを抱えて勝てるような相手ではなかった。
一回戦第三試合、勝者チーム獣空手。
0
お気に入りに追加
42
あなたにおすすめの小説
柳鼓の塩小町 江戸深川のしょうけら退治
月芝
歴史・時代
花のお江戸は本所深川、その隅っこにある柳鼓長屋。
なんでも奥にある柳を蹴飛ばせばポンっと鳴くらしい。
そんな長屋の差配の孫娘お七。
なんの因果か、お七は産まれながらに怪異の類にめっぽう強かった。
徳を積んだお坊さまや、修験者らが加持祈祷をして追い払うようなモノどもを相手にし、
「えいや」と塩を投げるだけで悪霊退散。
ゆえについたあだ名が柳鼓の塩小町。
ひと癖もふた癖もある長屋の住人たちと塩小町が織りなす、ちょっと不思議で愉快なお江戸奇譚。
狐侍こんこんちき
月芝
歴史・時代
母は出戻り幽霊。居候はしゃべる猫。
父は何の因果か輪廻の輪からはずされて、地獄の官吏についている。
そんな九坂家は由緒正しいおんぼろ道場を営んでいるが、
門弟なんぞはひとりもいやしない。
寄りつくのはもっぱら妙ちきりんな連中ばかり。
かような家を継いでしまった藤士郎は、狐面にていつも背を丸めている青瓢箪。
のんびりした性格にて、覇気に乏しく、およそ武士らしくない。
おかげでせっかくの剣の腕も宝の持ち腐れ。
もっぱら魚をさばいたり、薪を割るのに役立っているが、そんな暮らしも案外悪くない。
けれどもある日のこと。
自宅兼道場の前にて倒れている子どもを拾ったことから、奇妙な縁が動きだす。
脇差しの付喪神を助けたことから、世にも奇妙な仇討ち騒動に関わることになった藤士郎。
こんこんちきちき、こんちきちん。
家内安全、無病息災、心願成就にて妖縁奇縁が来来。
巻き起こる騒動の数々。
これを解決するために奔走する狐侍の奇々怪々なお江戸物語。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
四尾がつむぐえにし、そこかしこ
月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。
憧れのキラキラ王子さまが転校する。
女子たちの嘆きはひとしお。
彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。
だからとてどうこうする勇気もない。
うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。
家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。
まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。
ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、
三つのお仕事を手伝うことになったユイ。
達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。
もしかしたら、もしかしちゃうかも?
そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。
結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。
いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、
はたしてユイは何を求め願うのか。
少女のちょっと不思議な冒険譚。
ここに開幕。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
乙女フラッグ!
月芝
キャラ文芸
いにしえから妖らに伝わる調停の儀・旗合戦。
それがじつに三百年ぶりに開催されることになった。
ご先祖さまのやらかしのせいで、これに参加させられるハメになる女子高生のヒロイン。
拒否権はなく、わけがわからないうちに渦中へと放り込まれる。
しかしこの旗合戦の内容というのが、とにかく奇天烈で超過激だった!
日常が裏返り、常識は霧散し、わりと平穏だった高校生活が一変する。
凍りつく刻、消える生徒たち、襲い来る化生の者ども、立ちはだかるライバル、ナゾの青年の介入……
敵味方が入り乱れては火花を散らし、水面下でも様々な思惑が交差する。
そのうちにヒロインの身にも変化が起こったりして、さぁ大変!
現代版・お伽活劇、ここに開幕です。
剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?三本目っ!もうあせるのはヤメました。
月芝
児童書・童話
世に邪悪があふれ災いがはびこるとき、地上へと神がつかわす天剣(アマノツルギ)。
ひょんなことから、それを創り出す「剣の母」なる存在に選ばれてしまったチヨコ。
辺境の隅っこ暮らしが一転して、えらいこっちゃの毎日を送るハメに。
第三の天剣を手に北の地より帰還したチヨコ。
のんびりする暇もなく、今度は西へと向かうことになる。
新たな登場人物たちが絡んできて、チヨコの周囲はてんやわんや。
迷走するチヨコの明日はどっちだ!
天剣と少女の冒険譚。
剣の母シリーズ第三部、ここに開幕!
お次の舞台は、西の隣国。
平原と戦士の集う地にてチヨコを待つ、ひとつの出会い。
それはとても小さい波紋。
けれどもこの出会いが、後に世界をおおきく揺るがすことになる。
人の業が産み出した古代の遺物、蘇る災厄、燃える都……。
天剣という強大なチカラを預かる自身のあり方に悩みながらも、少しずつ前へと進むチヨコ。
旅路の果てに彼女は何を得るのか。
※本作品は単体でも楽しめるようになっておりますが、できればシリーズの第一部と第二部
「剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?ただいまお相手募集中です!」
「剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?二本目っ!まだまだお相手募集中です!」
からお付き合いいただけましたら、よりいっそうの満腹感を得られることまちがいなし。
あわせてどうぞ、ご賞味あれ。
御様御用、白雪
月芝
歴史・時代
江戸は天保の末、武士の世が黄昏へとさしかかる頃。
首切り役人の家に生まれた女がたどる数奇な運命。
人の首を刎ねることにとり憑かれた山部一族。
それは剣の道にあらず。
剣術にあらず。
しいていえば、料理人が魚の頭を落とすのと同じ。
まな板の鯉が、刑場の罪人にかわっただけのこと。
脈々と受け継がれた狂気の血と技。
その結実として生を受けた女は、人として生きることを知らずに、
ただひと振りの刃となり、斬ることだけを強いられる。
斬って、斬って、斬って。
ただ斬り続けたその先に、女はいったい何を見るのか。
幕末の動乱の時代を生きた女の一代記。
そこに綺羅星のごとく散っていった維新の英雄英傑たちはいない。
あったのは斬る者と斬られる者。
ただそれだけ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる