おじろよんぱく、何者?

月芝

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878 獣王武闘会本戦 一回戦第三試合 後編

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 正面からの殴り合いから一転してのかけ引き。
 巧妙なる布石から投げを放ち、まずはホッキョクグマの緒太守兜来が序盤を制す。
 だが下が砂地であったことがさいわいし、ライオンの千石京志郎はすぐさま立ち上がる。とはいえ受けたダメージはけっして軽くない。軽く脳震盪でも起こしたのか、若干、足が震えている。
 緒太守兜来の巨体が前傾姿勢にて突進。押し倒しマウントをとってしまえば、あとは圧殺できる。タックルにて足を獲りに行く。このパワーで諸手刈りを喰らえば、最悪、足の靭帯や関節が粉砕されかねないであろう。
 窮地が続く千石京志郎。そこへ緒太守兜来が襲いかかる。

 ドガッ!

 タックルが決まり、そのまま……。
 千石京志郎は押し倒されない? ばかりかがっちり受け止めており、微動だにせず。
 緒太守兜来の体がぶつかる寸前、千石京志郎は半身を引いて右脚を下げた。ややがに股気味にて腰を落としての「カニ型」と呼ばれる構えをとる。これにより体勢が下がり、重心が固まる。加えて相手に対して体を横に向けることでヒットポンとが半減する。また角力の四股立ちに近いので安定感も抜群かつ、前後移動が滑らかになるメリットもある。
 伝統派空手の組手でよく見られる型。なお現代のリング上で行われる格闘技では、両手を上げた「猫の構え」、いわゆるムエタイやキックボクシングのファイティングポーズが主流となっている。

 緒太守兜来、渾身のタックルを受けてなおも立ち続けている千石京志郎。
 その姿はまるで大地に根を張る大木のごとし。
 これには緒太守兜来もびっくり! だがすぐにはっと我に返って「ならば!」とふたたび投げを狙う。けれども先ほどは軽々と持ちあげられた千石京志郎のカラダがぴくりとも浮かないではないか!
 相手の腰にしがみつき、どうにかしようともがく緒太守兜来。
 でも次の瞬間、その左横腹に突き刺さったのは千石京志郎の拳。足はそのまま踏ん張ったままにて、上半身だけを回しての右打ち。ふつうであれば腕だけの攻撃ゆえにたいした威力はでないはず。だが放たれた拳はめきりと緒太守兜来の筋肉をひしゃげ、肋骨を数本へし折る。
 これを可能にしていたのは異常な腰回りの柔軟性。常人がせいぜい九十度も回せればいいところを、千石京志郎は百八十度近くまで回す。いかに柔軟性には定評のあるネコ目ネコ科ヒョウ属とはいえ、これはありえない!
 そのありえないを実現しているライオンの王者。

「ぐはっ」

 強烈な一撃を横っ腹に喰らった緒太守兜来、血反吐にてたまらず手を離し、その身がごろんごろんと派手に転がった。
 どうやら今度は先のお返しとばかりに、千石京志郎の側がわざと隙を作り相手を誘ったらしい。

  ◇

 地面にだんと手をつき、むくりと立ち上がる緒太守兜来。
 あえて追い打ちはせず。堂々と待つ千石京志郎。
 力と力、技と技、知恵と知恵、意地と意地……。
 実力伯仲につき死力を尽くす両雄。
 一進一退の攻防が続き、みるみる蓄積されていくダメージ。
 そして迎える決着の刻。
 この勝負を紙一重にて制したのは、ホッキョクグマの緒太守兜来であった。オタスツクルというアイヌの勇者の名を冠する男が、強敵を撃破し歓喜の雄叫びをあげる。
 かくしてワールドベアーズと獣空手との試合は、二勝二敗一分けにて延長戦へともつれ込む。
 だがワールドベアーズの健闘もここまで。
 チームメンバーらはみな満身創痍。
 そこで延長戦も引き続き己が戦う決断を下した緒太守兜来であったが、いかんせん大将戦で負ったダメージが大き過ぎた。
 対して獣空手側から出てきたリビアヤマネコの春海凪は元気一杯。
 本来ならばけっして緒太守兜来が遅れをとる相手ではないが、重たいハンデを抱えて勝てるような相手ではなかった。

 一回戦第三試合、勝者チーム獣空手。


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