おじろよんぱく、何者?

月芝

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873 獣王武闘会本戦 一回戦第二試合 前編

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 第一試合中堅戦は、先の次鋒戦にて早乙女修が見せた圧倒的チカラの影響が響き、静かに始まり、そしてあっさり終わった。
 姫路アニマルキングダム選抜中堅・マンドリルの三雲鉄斎みくもてっさい
 もうあとがないレッドリスト中堅・チンパンジーの米沢さん。
 漆黒の英雄、白の貴公子と続いたあとの渋い老爺同士の対決。
 観る者がみれば「おおっ!」という玄人好みの対戦カードなのだが、いかんせんビジュアルが……。
 先の二戦との落差が激しすぎて、一般受けが悪かった。
 ちなみに三雲鉄斎は近衛師団の位階十六で、予選会ではメンバーであったナマケモノの百地繁太郎ももちしげたろうのピンチヒッターとして参加している。
 百地繁太郎は作家活動をしており、ただいま原稿の締め切りに追われて四苦八苦中。とても大会には出られそうにないので、古馴染みに泣きついたとのこと。

 ふたりの対決はまるで詰将棋でも見ているかのようであった。
 打撃、防御、反撃、最小限の動きで回避、すかさず関節を獲りに、これをさせず、また打撃、打撃、打撃……、といった具合に。
 片方がぱちりと一手指せば、もう片方がこれを受けてぱちりと指し返す。
 それはまるでふたりして対戦の型を演じているかのように、ひとつひとつの所作がきちんとしており、一切の無駄がない。そのくせ二手三手先の読み合いの攻防が水面下ではくり広げられている。
 激しさはない。静かな戦い。けれどもひとつひとつがとても重く熱かった。

 勝負がついたのは十八手目。
 コンパクトに振り抜かれた三雲鉄斎の裏拳が、チンパンジーの米沢さんの顎先をすこん。
 これにより膝を屈した米沢さんが潔く「参った」
 試合開始よりわずか五分二十八秒での決着であった。
 これにより三連勝した姫路アニマルキングダム選抜が初戦突破を果たす。

  ◇

 係の者らが総出で闘技場の整備をしてから、一回戦第二試合となる。
 ゆうていVS天狗道。
 俄然、注目を集めているのは天狗道。
 この日のために用意された各地の生え抜きで構成されているというチーム。

 天狗は鼻っ柱が高くて高慢ちきで横柄。でも口だけではなくて自画自賛するだけのチカラを持っている。
 それこそ大天狗ともなれば、哄笑しながら下界を見下し、自在に天を駆けては琵琶湖程度であればひょいとひとまたぎ。気まぐれに嵐を巻き起こしたり、川を氾濫させたり、地震を起こしたり、寝ている山を蹴飛ばしてはどかんと噴火させたり、なんぞはちょちょいのちょいと朝飯前。やりたい放題の厄災みたいなもの。

 ただしその承認欲求やらプライド、それから酒好きの欲などを満たしてやれば、手厚い加護を与えてくれたりもするから、ここ日ノ本ではわりと昔から適当におだてて、なだめすかして、持ちつ持たれつだったりもする。
 でもってそんな天狗だが、格が高くなるほどに幽玄の奥に引き篭る傾向にある。
 なぜならば天狗は尊く高貴な存在だから。
 と思い込んでいるがゆえに。
 とってもえらいから、そのご尊顔をほいほいと下々の前にはさらさない。
 下々の前にふらふら姿をあらわすのは、もっぱら使いっ走りの下位互換であるカラス天狗どもぐらい。
 もっともそのパシリですらもが、かなりの強個体なのだけれども……。

 そんな生ける伝説の存在がいまここに降臨する。じかに拝める。こんな機会はめったにない。一生物の語り草。あと恐い物見たさもちょっぴり。
 観衆が興奮し期待するのも当然であろう。みんなワクワクしている。
 かくいうおれも、ちょっとドキドキしている。いっそのこと控室を出て闘技場の側まで行こうかと悩んでいるところだ。

 なのに連中とききたらもったいぶって、なかなか姿をあらわさない。
 先に入場を済ませているチームゆうてい側が明らかにイラ立っている。

「……ところで四伯おじさん、ずっと気になっていたんですけど、『ゆうてい』って何?」

 芽衣の疑問におれは「さぁ?」と首を傾げる。
 するとこれに答えたのは博識な零号。

「おそらくは有蹄類ゆうているいからもじってつけられたチーム名かと」

 有蹄類とは、足の先に角質の蹄ひづめをもつ哺乳類の総称。
 ウマやカバなどの奇蹄目とウシやブタなどの偶蹄目を中心に、ツチブタなどの管歯目、ゾウなどの長鼻目、ハイラックスなどのイワダヌキ目、マナティーやジュゴンら海牛目らがこれに含まれている。大型かつ草食が大半を占めている。

 漢字にするとむずかしい。すらすら書ける者の方がきっと少ないはず。画数も多く字面も堅苦しく、それでいて読めない者もいるだろう。
 そこで平仮名表記にし、可愛らしくして、一般受けを狙っている。
 あざといというか、涙ぐましい努力といおうか。
 零号の説明におれと芽衣が「「へぇー」」と感心していたら、いよいよ天狗道が悠然と会場入り。

 とたんに会場の空気が一変した。
 モニター越しでもビンビンに伝わってくる迫力に、おれはたまらずごくりツバを呑み込む。


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