おじろよんぱく、何者?

月芝

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865 革ジャンと老オオカミ

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 デンジャラスな情報過多につき胃がキリキリする。お腹もちょっと痛くなってきた……。
 だからレセプション会場を中座してトイレに行ったら、柄の悪い革ジャンの集団にからまれた。

「おうおう、おっさん、ずいぶんと見せつけてくれるじゃねえか」
「こちとらむさい野郎ばかりだってのによぉ」
「独り占めはよくねえ、よくねえよなぁ?」
「なぁ、こっちにも少しわけてくれよ」

 世紀末に「ひゃっはー!」してそうな髪型と服装の若者たち。何やら危なげな気配を醸し出している。ただのヤンキーじゃない。会場近くをうろつくのを許されていることからして、たぶん大会参加者。
 にしても無茶を云う。うちのメンバー、全員、アレだぞ。死にたいのか?
 そもそもの話、会場には多種多様な美姫がごろごろしているのだから、女っ気が欲しければ自分から声をかけるなり、ナンパをするなりすればいいのに。
 それを難癖つけて寄越せとか……。

「あー、ひょっとしてそんなワイルドな見た目なのに、初心なさくらんぼ?」

 つい思っていたことが口からぽろりと。
 しかしこれがいらぬひと言であった。とたんにピクリとこめかみに青筋を浮かべて、若者たちの雰囲気が剣呑に変わってしまった。

「「「「ぶっ殺す」」」」

 四人が綺麗にハモり、おっさんひとりをとり囲む。
 あいにくとおれ個人は荒事は苦手。素手での殴り合いならば、ガタイのいい小学生の高学年にも負けるかもしれない。いや、ちょっと待てよ。いっそのことここで騒ぎとなれば、こいつらを道連れにして大会出場資格を失い、晴れて自由の身に! でも痛いのはやだなぁ。
 はてさて、どうしたものやらと考えていたら……。

「そろって姿が見えんとおもったら、こんなところでなにをしている? やめんか、バカものどもめがっ!」

 一喝したのは大柄な老人。
 見覚えのある灰色のぼさぼさ髪の彼は、蛾舎泰造(がしゃたいぞう)。
 先々代の頃から八海山家に仕えている従者で、現在は八海山白雪に従属し、陰日向にて彼女を支えている。その正体はニホンオオカミの、たぶん唯一の生き残り。
 実力は未知数ながらも、トップクラスの猛者であることはまず間違いなし。
 たしかに種族としては滅びゆく弱者だが、その中にあって最後まで立ち続け、変遷する時代に抗い続けている男が弱卒なんぞのわけがない。
 でもどうしてそんな男がここに……。
 ひょっとして白雪の寄り親である猫守家絡みで、この地に来訪しているのであろうか。なにせ猫守家はいくつものペット産業を手がけている超お金持ち。企業として本大会の有力スポンサーに名を連ねていてもおかしくない。

 蛾舎泰造に怒鳴られて、首をすくめた悪ガキども。「ちえっ」と口をすぼめて「なんだよ、ちょっとからかっただけじゃねえか、そんなに目くじら立てんなよ。頭の血管がぶちギレても知らねえぞ」なんぞと憎まれ口を叩きつつ、すごすごと退散していく。

「うちの連中がすまなかった」

 と頭をさげる蛾舎泰造。

「いえいえ……って、あれ? いま『うちの連中』って言いませんでしたか。それって、もしかして」

 とたんに気まづそうな表情となった蛾舎泰造。ぼりぼり頭をかきながら「じつは」と、さっきの若者らとチームを組んで本戦に参加することを口にした。
 しかもあの連中が東日本予選を勝ち上がった「ロストブラッド」とかいうチームだというから、さらにびっくり!
 ロストブラッドといえば、悪名高くかつナゾ多きチーム。
 突如として彗星のごとくあらわれ、圧倒的チカラにて大会を制したものの、その暴虐無人っぷりと、ずば抜けた強さが常軌を逸しており、大会後に審議の対象となったとか。わかっているのは、どうやら聚楽第の紐付きということぐらい。
 そして予選会と本戦との違いは、チームに参加する人数。
 予選では四人だったのが、本戦では五人になっている。

「五人目として参加することになった」
「でもどうして蛾舎さんが?」
「それは……」
「ひょっとして聚楽第に何か言われましたか」
「………………」

 沈黙は肯定を意味している。
 そして何を脅しの材料にして参加を強制されたのかなんて、言わずもがなであろう。
 ことここにいたっては是非もなし。蛾舎泰造は別れ際にこんな言葉を言い残す。

「もしも我らと当たることになったら、せいぜい用心されよ。あのガキども、いざ戦いとなったら豹変するぞ」

 ちくしょう、とたんに話がきな臭くなってきやがった。
 にしても聚楽第の連中、そうまでして猛者たちを一堂に会して、いったい何がしたいのか?
 ここはやはり、先に探りをいれるべきか。
 でも燐火さんや、たぶん鬼および他勢力も水面下で動いているだろうし。う~ん。
 会場へと戻る道すがら。おれがどうしたものかと思い悩んでいると、ふと廊下の先に見えたのは、またまた見知った者の姿。オコジョくのいちのかげりが、ちょうど角を曲がるところ。
 おれは考えるよりも先に動いていた。早歩きとなりその背を追う。


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