865 / 1,029
865 革ジャンと老オオカミ
しおりを挟むデンジャラスな情報過多につき胃がキリキリする。お腹もちょっと痛くなってきた……。
だからレセプション会場を中座してトイレに行ったら、柄の悪い革ジャンの集団にからまれた。
「おうおう、おっさん、ずいぶんと見せつけてくれるじゃねえか」
「こちとらむさい野郎ばかりだってのによぉ」
「独り占めはよくねえ、よくねえよなぁ?」
「なぁ、こっちにも少しわけてくれよ」
世紀末に「ひゃっはー!」してそうな髪型と服装の若者たち。何やら危なげな気配を醸し出している。ただのヤンキーじゃない。会場近くをうろつくのを許されていることからして、たぶん大会参加者。
にしても無茶を云う。うちのメンバー、全員、アレだぞ。死にたいのか?
そもそもの話、会場には多種多様な美姫がごろごろしているのだから、女っ気が欲しければ自分から声をかけるなり、ナンパをするなりすればいいのに。
それを難癖つけて寄越せとか……。
「あー、ひょっとしてそんなワイルドな見た目なのに、初心なさくらんぼ?」
つい思っていたことが口からぽろりと。
しかしこれがいらぬひと言であった。とたんにピクリとこめかみに青筋を浮かべて、若者たちの雰囲気が剣呑に変わってしまった。
「「「「ぶっ殺す」」」」
四人が綺麗にハモり、おっさんひとりをとり囲む。
あいにくとおれ個人は荒事は苦手。素手での殴り合いならば、ガタイのいい小学生の高学年にも負けるかもしれない。いや、ちょっと待てよ。いっそのことここで騒ぎとなれば、こいつらを道連れにして大会出場資格を失い、晴れて自由の身に! でも痛いのはやだなぁ。
はてさて、どうしたものやらと考えていたら……。
「そろって姿が見えんとおもったら、こんなところでなにをしている? やめんか、バカものどもめがっ!」
一喝したのは大柄な老人。
見覚えのある灰色のぼさぼさ髪の彼は、蛾舎泰造(がしゃたいぞう)。
先々代の頃から八海山家に仕えている従者で、現在は八海山白雪に従属し、陰日向にて彼女を支えている。その正体はニホンオオカミの、たぶん唯一の生き残り。
実力は未知数ながらも、トップクラスの猛者であることはまず間違いなし。
たしかに種族としては滅びゆく弱者だが、その中にあって最後まで立ち続け、変遷する時代に抗い続けている男が弱卒なんぞのわけがない。
でもどうしてそんな男がここに……。
ひょっとして白雪の寄り親である猫守家絡みで、この地に来訪しているのであろうか。なにせ猫守家はいくつものペット産業を手がけている超お金持ち。企業として本大会の有力スポンサーに名を連ねていてもおかしくない。
蛾舎泰造に怒鳴られて、首をすくめた悪ガキども。「ちえっ」と口をすぼめて「なんだよ、ちょっとからかっただけじゃねえか、そんなに目くじら立てんなよ。頭の血管がぶちギレても知らねえぞ」なんぞと憎まれ口を叩きつつ、すごすごと退散していく。
「うちの連中がすまなかった」
と頭をさげる蛾舎泰造。
「いえいえ……って、あれ? いま『うちの連中』って言いませんでしたか。それって、もしかして」
とたんに気まづそうな表情となった蛾舎泰造。ぼりぼり頭をかきながら「じつは」と、さっきの若者らとチームを組んで本戦に参加することを口にした。
しかもあの連中が東日本予選を勝ち上がった「ロストブラッド」とかいうチームだというから、さらにびっくり!
ロストブラッドといえば、悪名高くかつナゾ多きチーム。
突如として彗星のごとくあらわれ、圧倒的チカラにて大会を制したものの、その暴虐無人っぷりと、ずば抜けた強さが常軌を逸しており、大会後に審議の対象となったとか。わかっているのは、どうやら聚楽第の紐付きということぐらい。
そして予選会と本戦との違いは、チームに参加する人数。
予選では四人だったのが、本戦では五人になっている。
「五人目として参加することになった」
「でもどうして蛾舎さんが?」
「それは……」
「ひょっとして聚楽第に何か言われましたか」
「………………」
沈黙は肯定を意味している。
そして何を脅しの材料にして参加を強制されたのかなんて、言わずもがなであろう。
ことここにいたっては是非もなし。蛾舎泰造は別れ際にこんな言葉を言い残す。
「もしも我らと当たることになったら、せいぜい用心されよ。あのガキども、いざ戦いとなったら豹変するぞ」
ちくしょう、とたんに話がきな臭くなってきやがった。
にしても聚楽第の連中、そうまでして猛者たちを一堂に会して、いったい何がしたいのか?
ここはやはり、先に探りをいれるべきか。
でも燐火さんや、たぶん鬼および他勢力も水面下で動いているだろうし。う~ん。
会場へと戻る道すがら。おれがどうしたものかと思い悩んでいると、ふと廊下の先に見えたのは、またまた見知った者の姿。オコジョくのいちのかげりが、ちょうど角を曲がるところ。
おれは考えるよりも先に動いていた。早歩きとなりその背を追う。
0
お気に入りに追加
42
あなたにおすすめの小説
柳鼓の塩小町 江戸深川のしょうけら退治
月芝
歴史・時代
花のお江戸は本所深川、その隅っこにある柳鼓長屋。
なんでも奥にある柳を蹴飛ばせばポンっと鳴くらしい。
そんな長屋の差配の孫娘お七。
なんの因果か、お七は産まれながらに怪異の類にめっぽう強かった。
徳を積んだお坊さまや、修験者らが加持祈祷をして追い払うようなモノどもを相手にし、
「えいや」と塩を投げるだけで悪霊退散。
ゆえについたあだ名が柳鼓の塩小町。
ひと癖もふた癖もある長屋の住人たちと塩小町が織りなす、ちょっと不思議で愉快なお江戸奇譚。
獣人の里の仕置き小屋
真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。
獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。
今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。
仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。
御様御用、白雪
月芝
歴史・時代
江戸は天保の末、武士の世が黄昏へとさしかかる頃。
首切り役人の家に生まれた女がたどる数奇な運命。
人の首を刎ねることにとり憑かれた山部一族。
それは剣の道にあらず。
剣術にあらず。
しいていえば、料理人が魚の頭を落とすのと同じ。
まな板の鯉が、刑場の罪人にかわっただけのこと。
脈々と受け継がれた狂気の血と技。
その結実として生を受けた女は、人として生きることを知らずに、
ただひと振りの刃となり、斬ることだけを強いられる。
斬って、斬って、斬って。
ただ斬り続けたその先に、女はいったい何を見るのか。
幕末の動乱の時代を生きた女の一代記。
そこに綺羅星のごとく散っていった維新の英雄英傑たちはいない。
あったのは斬る者と斬られる者。
ただそれだけ。
乙女フラッグ!
月芝
キャラ文芸
いにしえから妖らに伝わる調停の儀・旗合戦。
それがじつに三百年ぶりに開催されることになった。
ご先祖さまのやらかしのせいで、これに参加させられるハメになる女子高生のヒロイン。
拒否権はなく、わけがわからないうちに渦中へと放り込まれる。
しかしこの旗合戦の内容というのが、とにかく奇天烈で超過激だった!
日常が裏返り、常識は霧散し、わりと平穏だった高校生活が一変する。
凍りつく刻、消える生徒たち、襲い来る化生の者ども、立ちはだかるライバル、ナゾの青年の介入……
敵味方が入り乱れては火花を散らし、水面下でも様々な思惑が交差する。
そのうちにヒロインの身にも変化が起こったりして、さぁ大変!
現代版・お伽活劇、ここに開幕です。
AIアイドル活動日誌
ジャン・幸田
キャラ文芸
AIアイドル「めかぎゃるず」はレトロフューチャーなデザインの女の子型ロボットで構成されたアイドルグループである。だからメンバーは全てカスタマーされた機械人形である!
そういう設定であったが、実際は「中の人」が存在した。その「中の人」にされたある少女の体験談である。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
高槻鈍牛
月芝
歴史・時代
群雄割拠がひしめき合う戦国乱世の時代。
表舞台の主役が武士ならば、裏舞台の主役は忍びたち。
数多の戦いの果てに、多くの命が露と消えていく。
そんな世にあって、いちおうは忍びということになっているけれども、実力はまるでない集団がいた。
あまりのへっぽこぶりにて、誰にも相手にされなかったがゆえに、
荒海のごとく乱れる世にあって、わりとのんびりと過ごしてこれたのは運ゆえか、それとも……。
京から西国へと通じる玄関口。
高槻という地の片隅にて、こっそり住んでいた芝生一族。
あるとき、酒に酔った頭領が部下に命じたのは、とんでもないこと!
「信長の首をとってこい」
酒の上での戯言。
なのにこれを真に受けた青年。
とりあえず天下人のお膝元である安土へと旅立つ。
ざんばら髪にて六尺を超える若者の名は芝生仁胡。
何をするにも他の人より一拍ほど間があくもので、ついたあだ名が鈍牛。
気はやさしくて力持ち。
真面目な性格にて、頭領の面目を考えての行動。
いちおう行くだけ行ったけれども駄目だったという体を装う予定。
しかしそうは問屋が卸さなかった。
各地の忍び集団から選りすぐりの化け物らが送り込まれ、魔都と化しつつある安土の地。
そんな場所にのこのこと乗り込んでしまった鈍牛。
なんの因果か星の巡りか、次々と難事に巻き込まれるはめに!
『別れても好きな人』
設樂理沙
ライト文芸
大好きな夫から好きな女性ができたから別れて欲しいと言われ、離婚した。
夫の想い人はとても美しく、自分など到底敵わないと思ったから。
ほんとうは別れたくなどなかった。
この先もずっと夫と一緒にいたかった……だけど世の中には
どうしようもないことがあるのだ。
自分で選択できないことがある。
悲しいけれど……。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
登場人物紹介
戸田貴理子 40才
戸田正義 44才
青木誠二 28才
嘉島優子 33才
小田聖也 35才
2024.4.11 ―― プロット作成日
💛イラストはAI生成自作画像
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる