おじろよんぱく、何者?

月芝

文字の大きさ
上 下
856 / 1,029

856 平

しおりを挟む
 
 おみくじとひと口にいっても地域や神社にて、けっこういろいろ違いがある。
 大吉、中吉、小吉、吉、末吉、凶、大凶にて、基本七種類。
 これに半吉、末小吉、小凶、半凶、末凶らを加えた十二種類としている場合が一般的。
 他にも、大大吉(だいだいきち)、凶後大吉(きょうのちだいきち)、凶後吉(きょうのちきち)、末大吉(すえだいきち)、向大吉(むこうだいきち)、小凶後吉(しょうきょうのちきち)、後吉(のちきち)、吉凶未分末大吉(よしあしいまだわからずすえだいきち)、吉凶不分末吉(きちきょうわかたずすえきち)、吉凶相交末吉(きちきょうあいまじわりすえきち)、吉凶相半(きちきょうあいなかばす)、吉凶相央(きちきょうあいなかばず)、平(たいら)にておみくじを分類しているところもある。

 京都の伏見稲荷大社ともなれば三十二種類もあるというから驚きだ!
 おみくじの形もいろいろ。
 石清水八幡宮ではハトの置物とおみくじがセットになっている。
 明治神宮のおみくじは「大御心(おおみごころ)」と言い、吉凶が書かれていないことで有名である。
 氷川神社は魚釣りを模した「あい鯛みくじ」が楽しい。これは鯛の置き物を釣り竿で釣り上げると、しっぽのところにおみくじが付いるという仕組み。ちなみにここのご利益は縁結びの恋愛成就。
 その他にも、近年では各神社が商売っ気を燃やし、いろんな趣向を凝らしてユニークなおみくじを作っては販売するようになっている。
 もっとも寺社仏閣が銭ゲバなのは、いまに始まったことではない。なにせ昔は現代の闇金よりもはるかにブラックな高金利金貸し業とかやっては、ぶくぶく私腹を肥やしていたことだし……。

  ◇

 つらつらと「おみくじうんちく」を語ってくれたのは、零号。

「ちなみにおみくじで『平』が出る確率は、二パーセント以下です。もっとも『平』を採用するか、どのぐらい入れるかなどは神社側の裁量ですので、あくまでこの数字は目安にしかなりません。なおその意味は『可もなく不可もなく』といったところでしょうか」

 神道の教えでは、浮き沈みの激しい乱高下のあるエキサイティングな人生よりも、平々凡々、波風なく安定している方が素晴らしいとされているとのこと。

「それってとどのつまり現状維持ってことか?」

 おれの言葉にうなづく零号「そうとも言いますね」
 なるほどと納得しつつ、おれはほっと安堵の吐息をこぼす。でも、それならそうと言ってくれればいいものを。
 最初のうんちく語りの部分、いらなかったような……。

 おれはあらためて手元にある「みくじ箋」をしげしげ。
 吉凶の文字ばかりにとらわれて、内容の方を見ていなかったからだ。

「あー、なになに『首に注意! 尾白、うしろ、うしろ!』って、わけがわからん?」

 ふざけた文言におれが首をかしげていると、不意にカシャリと音がしたもので、あわてて振り返る。
 視線の先には電球の明かりが届かない闇がある。その中に何かがいた。そいつが一歩、こちらに近づくことに、カチャリ、カチャリと音が鳴る。
 ぬぅっとあらわれたのは、ぎらりと光る太刀の切っ先。
 続いて姿をみせたのは歩く五月人形もとい、立派な兜をつけた鎧武者。音の正体はそいつが動く音だった。

 鎧武者、近づいてきたとおもったら、いきなり太刀をぶんっと横薙ぎ!
 驚いたおれは「うひゃあ」と尻もち。その頭上を白刃がびゅんとかすめる。
 もしもぼんやり立ち尽くしていたら、あのまま首を刈られていた。

「って、首に注意ってそういことかよ! まさかの平ちがい! 平って平家の方とかわかりづらい! あと神道、微塵も関係ねえっ!」

 口を突いて出る怒涛の突っ込みの数々。
 おれは言わずにはいられなかった。でも、そんなモノで鎧武者の攻撃を止められるわけもなく、すかさず二撃目が打ち下ろされる。
 お次は脳天めがけての唐竹割り。
 おれはとっさに腕をかざして部分重ね化けでしのごうとするも、それよりもヤツの太刀の方が少し速い。いかん、これでは間に合わない。

 最悪、腕の一本を覚悟したおれであったが、凶刃は寸前のところで防がれる。
 ガキンと止めたのは零号。アニマルメイドロボが腕から警棒を生やして対抗する。
 小さな体に宿る百万馬力、押し返された鎧武者がよろめき後退。だがすぐに体勢を建て直してふたたび攻撃へと移ろうとしたところで、殺到したのは三つの影。
 膝下を薙ぐように蹴り払ったのは、ヘビ娘のタエちゃん。
 側頭部に回し蹴りをかましたのは、タヌキ娘の芽衣。
 そして胴体をズドンと蹴り飛ばしたのは、トラ猛女のトラ美。
 各々が強力な一撃、そんな彼女たちの三身一体攻撃を受けては、さしもの鎧も用を成さない。
 かくして撃退された平家の武者?
 壁際にてぐしゃりとなって、それきり動かなくなった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

柳鼓の塩小町 江戸深川のしょうけら退治

月芝
歴史・時代
花のお江戸は本所深川、その隅っこにある柳鼓長屋。 なんでも奥にある柳を蹴飛ばせばポンっと鳴くらしい。 そんな長屋の差配の孫娘お七。 なんの因果か、お七は産まれながらに怪異の類にめっぽう強かった。 徳を積んだお坊さまや、修験者らが加持祈祷をして追い払うようなモノどもを相手にし、 「えいや」と塩を投げるだけで悪霊退散。 ゆえについたあだ名が柳鼓の塩小町。 ひと癖もふた癖もある長屋の住人たちと塩小町が織りなす、ちょっと不思議で愉快なお江戸奇譚。

獣人の里の仕置き小屋

真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。 獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。 今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。 仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。

推理小説家の今日の献立

東 万里央(あずま まりお)
キャラ文芸
永夢(えむ 24)は子どもっぽいことがコンプレックスの、出版社青雲館の小説編集者二年目。ある日大学時代から三年付き合った恋人・悠人に自然消滅を狙った形で振られてしまう。 その後悠人に新たな恋人ができたと知り、傷付いてバーで慣れない酒を飲んでいたのだが、途中質の悪い男にナンパされ絡まれた。危ういところを助けてくれたのは、なんと偶然同じバーで飲んでいた、担当の小説家・湊(みなと 34)。湊は嘔吐し、足取りの覚束ない永夢を連れ帰り、世話してくれた上にベッドに寝かせてくれた。 翌朝、永夢はいい香りで目が覚める。昨夜のことを思い出し、とんでもないことをしたと青ざめるのだが、香りに誘われそろそろとキッチンに向かう。そこでは湊が手作りの豚汁を温め、炊きたてのご飯をよそっていて? 「ちょうどよかった。朝食です。一度誰かに味見してもらいたかったんです」 ある理由から「普通に美味しいご飯」を作って食べたいイケメン小説家と、私生活ポンコツ女性編集者のほのぼのおうちご飯日記&時々恋愛。 .。*゚+.*.。 献立表 ゚+..。*゚+ 第一話『豚汁』 第二話『小鮎の天ぷらと二種のかき揚げ』 第三話『みんな大好きなお弁当』 第四話『餡かけチャーハンと焼き餃子』 第五話『コンソメ仕立てのロールキャベツ』

御様御用、白雪

月芝
歴史・時代
江戸は天保の末、武士の世が黄昏へとさしかかる頃。 首切り役人の家に生まれた女がたどる数奇な運命。 人の首を刎ねることにとり憑かれた山部一族。 それは剣の道にあらず。 剣術にあらず。 しいていえば、料理人が魚の頭を落とすのと同じ。 まな板の鯉が、刑場の罪人にかわっただけのこと。 脈々と受け継がれた狂気の血と技。 その結実として生を受けた女は、人として生きることを知らずに、 ただひと振りの刃となり、斬ることだけを強いられる。 斬って、斬って、斬って。 ただ斬り続けたその先に、女はいったい何を見るのか。 幕末の動乱の時代を生きた女の一代記。 そこに綺羅星のごとく散っていった維新の英雄英傑たちはいない。 あったのは斬る者と斬られる者。 ただそれだけ。

乙女フラッグ!

月芝
キャラ文芸
いにしえから妖らに伝わる調停の儀・旗合戦。 それがじつに三百年ぶりに開催されることになった。 ご先祖さまのやらかしのせいで、これに参加させられるハメになる女子高生のヒロイン。 拒否権はなく、わけがわからないうちに渦中へと放り込まれる。 しかしこの旗合戦の内容というのが、とにかく奇天烈で超過激だった! 日常が裏返り、常識は霧散し、わりと平穏だった高校生活が一変する。 凍りつく刻、消える生徒たち、襲い来る化生の者ども、立ちはだかるライバル、ナゾの青年の介入…… 敵味方が入り乱れては火花を散らし、水面下でも様々な思惑が交差する。 そのうちにヒロインの身にも変化が起こったりして、さぁ大変! 現代版・お伽活劇、ここに開幕です。

AIアイドル活動日誌

ジャン・幸田
キャラ文芸
 AIアイドル「めかぎゃるず」はレトロフューチャーなデザインの女の子型ロボットで構成されたアイドルグループである。だからメンバーは全てカスタマーされた機械人形である!  そういう設定であったが、実際は「中の人」が存在した。その「中の人」にされたある少女の体験談である。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

高槻鈍牛

月芝
歴史・時代
群雄割拠がひしめき合う戦国乱世の時代。 表舞台の主役が武士ならば、裏舞台の主役は忍びたち。 数多の戦いの果てに、多くの命が露と消えていく。 そんな世にあって、いちおうは忍びということになっているけれども、実力はまるでない集団がいた。 あまりのへっぽこぶりにて、誰にも相手にされなかったがゆえに、 荒海のごとく乱れる世にあって、わりとのんびりと過ごしてこれたのは運ゆえか、それとも……。 京から西国へと通じる玄関口。 高槻という地の片隅にて、こっそり住んでいた芝生一族。 あるとき、酒に酔った頭領が部下に命じたのは、とんでもないこと! 「信長の首をとってこい」 酒の上での戯言。 なのにこれを真に受けた青年。 とりあえず天下人のお膝元である安土へと旅立つ。 ざんばら髪にて六尺を超える若者の名は芝生仁胡。 何をするにも他の人より一拍ほど間があくもので、ついたあだ名が鈍牛。 気はやさしくて力持ち。 真面目な性格にて、頭領の面目を考えての行動。 いちおう行くだけ行ったけれども駄目だったという体を装う予定。 しかしそうは問屋が卸さなかった。 各地の忍び集団から選りすぐりの化け物らが送り込まれ、魔都と化しつつある安土の地。 そんな場所にのこのこと乗り込んでしまった鈍牛。 なんの因果か星の巡りか、次々と難事に巻き込まれるはめに!

処理中です...