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852 屋根裏部屋
しおりを挟む一同のあいだに「やっちまった」感がふんわり漂う中。
ふと天井を見上げたのは零号。
何かを気にしている素振りにて、おれは「どうした?」と声をかける。
「こちらのお宅は昔ながらの造りにて、背丈のある藁ぶき屋根と聞きました。そのわりにざっと見た限りでは、押し入れなどが少ない気がします。窓から見た限りでは敷地内に土蔵の類も見当たりません。もしかしたら物置がわりに使われている屋根裏部屋があるのかもしれません」
屋根裏収納スペースっ!
昔の家といえば屋根裏じゃないか。そいつの存在を忘れるとは、とんだうっかりさん。どうやら特異な状況に置かれたことで、おれは自分でも気づかぬうちにいささか冷静さを欠いていたらしい。
というわけで、さっそくみんなで手分けをして二階へ通じる階段を探すことにする。
◇
家探しは一度やっている。
けれどもそのときには階段や梯子らしきものは見当たらなかった。
でも先の探索では焦っていたこともあり、家の住人や出口を探していたもので、そちらに意識が向くあまり見落としていた可能性が高い。
そこで今度は一部屋一部屋、入念に調べることにする。
すると掃除用具入れに使われている小部屋の奥にて、物陰に隠れている扉を発見した。
手前の荷物をどけないと開閉できないので、せっせと邪魔な物をすべて廊下に出す。
そうしてようやく扉を開けたところ、姿をあらわしたのは急な階段。
傾斜角度が四十五度ぐらいにて、一段一段が高い。段差が六十センチほどもあろうか。幅は肩幅のあるトラ美でも余裕があるが、手すりがない。おかげで階段に手をついて這うようにのぼるハメとなって四苦八苦。
急な階段の先に待っていたのは、二十畳はあろうかという大広間。
一面板敷きの屋根裏部屋。
なのに照明は天井から吊り下げられた裸電球がぽつんとひとつきり。
灯りの届く橙色の世界が限られており、それ以外の陰影が濃い。コントラストがどうにもうら寂しい雰囲気を醸し出している。
空気は階下よりもひんやりとしており、ちょっと肌寒いほど。だからとて湿気や埃、カビっぽさは微塵も感じられない。
おれはぐるりと室内の様子を確かめる。
壁際には年代物らしき和箪笥や長櫃に葛籠などが、整然と並べられているものの、物に埋め尽くされているというほどでもない。
そんな中にあって異彩を放っている箇所がふたつあった。
ひとつは屋根裏部屋の中央に置かれた丸テーブル。手入れがされたおしゃれな庭先などでよく見かける青銅色の金属製のやつ。
もうひとつは壁の四角く窪んだところに置かれてある、おみくじ。
神社でお馴染みのアレだ。ただしサイズがちょっとおかしい。一斗缶を三つ縦に重ねたほどもある。デカすぎ。その隣には小さな引き出しがたくさんある棚が設置されている。
「ちょっと、四伯おじさん、これ見て」
芽衣が指差したのは丸テーブルの上。
そこに置かれてあったのはスゴロク。
超有名な成り上がりボードゲームのような、人生山あり谷ありの凝ったシロモノではなくて、昔ながらのぺら紙一枚にマス目が描かれただけの物。脇には小さなサイコロひとつに、色違いのチェスの駒のようなのが五つ。
スゴロクの紙に目をやれば、マスごとに空欄と細かな文字が書き込まれているところがある。よくある「三つ進む」とか「五つ戻る」などの他にも、ちらほら点在しているのが「おみくじを引く」という文言。そしてあがりのところには「ゴール」ではなくて「脱出成功」の文字。
おれ、芽衣、トラ美、タエちゃん、零号、しらたきさんは別枠として、こちらは五人いる。
そして用意された駒も五つある。
「ふぅ、どうやらこのスゴロクをクリアしたら外に出られるっぽいな」
おれの意見にメンバーたちもうなづく。
かくしておれたちは各々駒を選び、スゴロク遊びに興じることになったのだが、よもやそれがあんなことになろうとは……。
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