おじろよんぱく、何者?

月芝

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846 三姫フリーク

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「よぉ、あいかわらずしけた面してやがんな、尾白探偵」

 目深にかぶったパーカーのフードの奥で闇が蠢き、マシンボイスが吠える。

「おまえにだけは言われたくねえよ、怪人インソールダブルエックス。あとありがとうよ、おまえの活躍のおかげで商店街の靴屋のオヤジはウハウハだ」

 かつて美女の履物の中敷きのみを狙っていた怪人インソールは、探偵と怪盗を交えた変態三つ巴バトルに負けたペナルティで趣旨替え。いまではダブルエックスにバージョンアップ、光学迷彩をはじめとした各種科学技術を駆使しては、運動女子の中敷きをせっせと集めているド変態だ。
 だが迷惑なのは盗まれる運動女子たち。おかげでインソールを買い直さなければならないので、いらぬ出費を強いられることに。
 けれども沈む瀬もあれば浮かぶ瀬もある。
 おもわぬ余波で地元のスポーツショップや靴屋は商売繁盛にて、いっつもインソールが品薄状態になっている。
 かくして生じたのが全国平均からあまりにも突出したインソールの消費量。
 これに首を傾げた某スポーツ用品企業が、わざわざ高月くんだりにまで視察チームを派遣するも、その原因を知って派遣された面々に混じっていた女性の営業が「ひぃ」と恐怖の悲鳴をあげたらしい。

 まぁ、それはともかくとして、いい機会だからおれはずっと気になっていたことをヤツに訊ねることにする。

「なぁ、怪人インソールダブルエックスは大江一門のゆかりの者なのか?」

 大江一門はかつて存在した技術者集団。
 最後は痴情のもつれという情けない理由にて解散したという、ガッカリさんたちだが、べつに滅んだわけじゃない。各地に散らばっただけのこと。
 でもってダブルエックスがトレードマークにしているカメレオン印は、大江一門が手がけた品の数々に刻まれてあったものと酷似している。彼がもつ高度な技術の数々もまた関連性をうかがわせる。
 だからストレートに問うてみたらあっさり「あぁ、系統の者だ」と白状する。

「べつに隠しているわけじゃねえよ。というか大江一門なんてマニアックな名前を知っているヤツの方が少ないからな。とはいえわざわざ公表することでもないから、黙って研究職とか技術者やら学者をやってるヤツはそれなりにいる。しがらみを嫌って、あえて地下に潜って活動を続けているヤツも」

 例にあげられた人物の中には、おれでも知っている世界的に有名な科学者なんかもいて「へえー、へぇー、へぇー」
 なんぞと感心していたら「ところで」と急にモジモジしだす怪人インソールダブルエックス、奇妙なことを言い出す。

「そのぅ、黒姫はおかわりないのであろうか」

 はぁ、黒姫? いったい誰のことだよ。
 おれがキョトンとしていると、「くすくす」と笑ったのは怪盗ワンヒール。
 怪盗が語ったところによると……。

 現在、高月には三人の美姫がいる。
 巨塔の頂きに住む儚げな麗人、白姫・鹿島紗月かしまさつき
 荒々しくも気高い孤高の麗人、黒姫・安部野京香あべのきょうか
 学び舎にて若者たちを導く慈愛の麗人、紫姫・芝生綾しぼあや

 高月に生息する変態どもは、いつのまにやら彼女たちを三姫と称して崇め奉るようになったんだとか。
 いや、たしかにちょくちょく変態騒動に巻き込まれて、迷惑をかけてはいたけれども、だからといってどうしてこうなった?
 というか、紗月お嬢さまと綾ちゃん先生はわからなくもないが、なぜにそこにあの不良刑事が食い込んでくる?
 絶対におかしいだろう、あのカラス女がやっていることといったら、つねにパトカーで法定速度を無視しては、探偵の尻を蹴飛ばすか、銃をバンバンぶっ放すばかりぐらいなのに。
 あとついでになんで綾ちゃん先生が紫なの?

「あー、そのことかね。答えは簡単だよ。世の中には二種類の人間がいる。SとMさ。ゆえに特定の支持層が好みの方に偏るのは自然のこと。ほかにもあの荒々しさ、男勝りなところがカッコいいと憧れる同性のフリークも多いんだよ。
 ちなみに芝生綾さんのカラーが紫に選ばれたのは、紫が奉仕の色で高貴な者に相応しいからさ」

 説明を受けていちおうおれが納得したところで、急に顔を近づけてきたとおもったら声を潜めた怪盗ワンヒール、耳元で囁く。

「紫姫がなにやらやっかいごとに巻き込まれつつあるのは、こちらでも把握している。キミたちがそれに対処すべく動いていることも。あえて仔細は問うまい。それを踏まえた上で、私たちも独自に動こうかと思ってね。あぁ、心配しないでくれたまえ。あくまで陰日向にて助力する所存だ」

 その発言におれはギョッ!
 怪盗ワンヒール、変装の名人にして神出鬼没、その正体は不明にて、紳士然とはしているものの、本当の性別すらも定かではないナゾ多き人物。
 人間なのか、動物なのか、はたまた別の何かなのか。いったいどこまで世界の理を把握しているのか。
 探偵と怪盗という間柄にて、けっこうなつき合いになるが、いまもってわからないことだらけだ。
 だがそれでもわかることがひとつだけある。
 それは敵にしたらやっかいだが、味方にするとこれほど頼もしい存在もないということ。
 おれが「わかった」とコクリとうなづくと、にこりとイケメンなタキシード仮面。きらりと光る白い歯がまぶしい。


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