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843 パカパカ仙人の餞別 後編
しおりを挟むいよいよ開幕が迫っている獣王武闘会本戦。
かつてない規模にて、聚楽第が暗躍しまくってくれたおかげで、人界・動物界・鬼界・妖界、各々が軒並み勢ぞろい。波乱必至の本大会。
みなを集めて聚楽第が何をたくらんでいるのかは、いまもって不明である。
だが、何かが起きることはまちがいない。
そんな中にあって、おれたちが危惧しているうちのひとつが「炎龍の剣」を手にした宮本めざしの存在。
いまや聚楽第の幹部に出世し、総帥ウルの右腕として働いている猫剣客。獣外領域に片足を突っ込んでおり、暴虐な炎魔神と化しつつある。
はっきり言ってヤツは強い!
本気の全力全開にてチカラを振るわれたら、まず太刀打ちできん。ろくに近づくこともできずに瞬殺されて、こんがりローストにされてしまう。
それを打破できるかもしれないキーアイテムが、銀の針。
なんというマジカルなグッズ! でも進んだ超科学は魔法と見分けがつかないともいうし、細かいことを気にしたら負けのような気がするので、気にしない。あと理屈や仕組みを聞いたところで、どうせ理解できないからそちらも丸っと知らんぷり。
だというのにである。
そんなすごいアイテムを作った当人は嘆息まじりにて。
「たしかに一時的にだが、炎龍のチカラを封じることができる。だが道具としてはとんだ二級品よ」
パカパカ仙人いわく……。
道具という観点からみれば、「炎龍の剣」は武器として非常に優れているだけでなく、いろんな応用が効く。工夫次第で多彩な使い道が開ける可能性がある。
一方で「銀の針」はというと、あくまで「炎龍の剣」を押さえ込むのみ。
その役割りに特化したといえば聞こえはいいが、そのじつ他には使い道がまるでないシロモノということ。とどのつまり、道具としてはどんづまり。これ以上もこれ以下もない。そのくせ満足いく完成形かといえば、そうでもない。耐久性にやや難あり。計算上ではいけるはずだが、実物相手にテストできていないのが悔やまれる。
物造りを生業とする者からすると、そんな半端なシロモノを世に出すことは忸怩たる思い。
おれからすれば「そんなの関係ねえ、すごいじゃん」と賞賛なのだが、職人には職人なりに思うところがあるらしい。
けれどもそんな銀の針。使用上の注意がひとつある。
それは針の尖端にて相手の刀身を突くこと。より鍔近くの箇所ならばなおよし。そうしないと機能が発動しないらしい。
これにはおれも「うーん」と腕組み。
「あの斬撃を掻い潜って仕掛けるのか……。なかなかにハードルが高いな」
なにせ宮本めざしは剣のエキスパート。「炎龍の剣」のチカラを抜いても手強いのだ。細い針一本で立ち向かったところで、あっさり返り討ちにされるだけ。
しかしやりようはある。
例えばひとりが盾役となって猛攻を受け止めつつ、いまひとりが隙をみて「えいや」と突き刺すとか。とはいえ相手にこちらの意図を気取られないように、こっそりとやる必要がある。武辺者の目を誤魔化すとか、なかなかの難題。
でも、まぁ、なんとかなるだろう。まだ時間はあるし、いい手を考えてみるとしよう。
でもって「白い勾玉」の方であるが、こちらはポンと軽く叩けば発動するそうな。
そして半径五十メートル内において「黒龍の勾玉」のパーフェクトステルス機能や認識阻害を無効化するとのこと。発動範囲をさらに絞れば、作動継続時間がぐんとのびるというから、ありがたい。これさえあればいきなり背後からブスリと刺されたり、寝首をかかれる心配はなさそうである。
◇
説明を聞き終わって、おれは白い勾玉と銀の針が納められた小箱を大切にジャケットの内ポケットに入れる。
そのかたわらで器用にもガラケーのメンテナンスもこなしていたパカパカ仙人。
そちらも終わって戻ってきた相棒。だがふと見てみれば、脇に見知らぬ赤いポッチの姿が……。
「なんか余計なのが増えてる。これは?」
「少しいじっておいた。ここぞというときには迷わず押せ」
「えーと、押すとどうなるの?」
「爆発する」
「………………へっ? ごめん、よく聞き取れなかったから、もう一度お願い」
「だから爆発する。ちゅどーんと木っ端みじんだ」
「いや、木っ端みじんになるのおれじゃん!」
「死なばもろとも、死中に活を求めろ。さすればきっと新たな道が開けるはず」
「開けるかっ、むしろ袋小路の行き止まりだよ! っていうか、ひとのガラケーになんてことしやがる」
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