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834 冒険心
しおりを挟む「お、おい、尾白。ちゃんと生きてるか?」
地上にいるショーンが心配して声をかけてきたもので、おれははっと我に返る。
「あー、うん、とりあえず大丈夫。なんか……おもったよりもずっと浅かった」
すると近くで四つん這いになっていた芽衣も「うぅ、びびって損した」むくりと起きる。こちらも無事のようだ。
だがタヌキ娘とおっさんから盛大に踏み抜かれたスズメバチの巣は、見るも無残なことになっていた。木っ端みじんである。
これはもう回収は無理。そう判断したおれは、隅っこに寄せて土砂にてそっと埋葬することにした。ナムナム。
◇
スズメバチの巣の駆除という依頼を達成したおれたちは、とりあえず落ちた場所を調べてみることにする。
ひょっとしたら世紀の大発見につながるかもしれない。
せっかくなので地上にいるショーンの奴も誘ってやったのだが、情報屋のアナグマは「遠慮しておく」とにべもない。「ふっ、おれには女房と子どもがいるからな。冒険はできんよ」
なんだかちょっとイラついた。あとで渡す請求書の金額を割り増しすることを、おれは密かに決意する。
ちっ、冒険心を忘れたつまらない大人め。
気をとり直して調査スタート!
まるで石室のような場所。広さは十畳ほど。そこいらが木の根に浸蝕されているものの、頑強な壁や床が石で組まれているせいか、おもいのほか状態はいい。
ただし石櫃やら宝物の類は見当たらない。
というか何もない。何だここ? ひょっとして盗掘済みの場所なのだろうか。
「……にしても奇妙だな。わりと浅いところにあったのに、どうして前回の調査で発見されなかったんだろう?」
その可能性としては、前回の調査では神社の境内の方しか調べておらず、鎮守の森はノータッチだったということ。
詳しくは知らないが、調査は半世紀近く前に行われたという話。
いまと違って信仰心もまだまだ根強く、かつここは神域で古墳も兼ねているかもと疑われていた場所。いかに学術目的とはいえ、鎮守の森の奥までずかずか踏み込むことは許されなかったとしても、なんら不思議ではないか。
とどのつまりは、諸条件が重なってたまさか見過ごされてしまったと。
まぁ、それはそれとして……。
もっと気になることがある。それは組まれている石。下手なお城の石垣よりもはるかにぴっちりしっかりしている。素人目にもわかるほどに、かなり高度な技術が使われている。造られた古代のことを考えれば、これはちょっと変どころではない。
砂埃を払いあらわとなる石床。なだらかな表面を撫でながら、おれがそんなことをぶつぶつつぶやいていると、奥の方を調べていた芽衣が「四伯おじさん、ちょっとこっち来て!」
呼ばれるままに行ってみれば、芽衣が壁の前で興奮していた。
「ここ、ここの隙間の向こうから、ほら、風が!」
タヌキ娘が自分の肩についていた落ち葉を手にとり、隙間の前にかざしてみると、たしかに葉っぱの先がぷるぷるぷる。
ふむ。たしかに風の流れがあるようだ。それすなわち、この向こうにまだ見ぬ空間があるということ。
ここで「どうする?」「どうしよう?」と顔を見合わせる探偵と助手。
古代遺跡にて、歴史的価値を慮ればこれ以上はダメだ。手を引くのが正解。
うかつにあけて外気を入れたり、壊したりしたら、貴重な発見を台無しにする恐れがあるからだ。
だがしかし、おれたちは人間じゃない。
しょせんは欲望に従順忠実な毛玉よ。欲に目が眩んだ動物は止まらない、止められない。
よって探偵はニカッと笑顔で「やっちまえ」とサムズアップ。
すると助手もにっこり笑顔で「お宝が出たらボーナスはずんでよね」とサムズアップ返し。
隙間風の吹き込む壁の前に立った芽衣。「ふぅ」と息吹にて気を整えつつ正拳のかまえをとり、しばし目を閉じ集中。
一分ほどもそうして十分に気を高めてから、ついに拳を放つ。
「狸是螺舞流武闘術、突の型、錠前破り」
轟っと風が唸り、突き出された拳。
石壁へと当たったとたんに、ドッカーンと爆発!
たちまち発生した砂煙にて石室内部が埋めつくされた。
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